禁煙に関する非常に簡潔なアドバイスの有効性

・文献名:Effectiveness of Very Brief Advice on Tobacco Cessation: A systematic Review and Meta-Analysis

要約

 <背景>

・禁煙に関する非常に簡潔な助言(以下VBA(Very brief advice(3分以内)))は喫煙患者との短い対話で行いやすい。VBAの有効性をまとめることに本研究の意義がある。

 <方法>

・Medline、Embaseなどの各種データベースから、禁煙を目的とした、VBAを実施したケースと、禁煙のためのアドバイスをしなかったケース、そもそも接触していないケースを比較した2023年09月30日までのRCTを検索。

・Outcomeとしては治療開始6ヶ月以降の禁煙達成、治療開始6ヶ月以内の禁煙達成、そして禁煙が達成できていないことの3つに定め、効果の大きさとしてリスク比(RR)で計算した。なお、禁煙が達成できたか否かは自己申告制とした。

 <結果>

・15の論文(n=26,437)、13のRCTを対象として組み入れた。

・VBAが6ヶ月以降における禁煙達成を、対照群に比して有意に増加させるという中等度の確実性のエビデンスが示された(調整リスク比 ARR 1.17(95%CI:1.07-1.27))。

<背景>

・禁煙により早期の死亡、複数の種類にわたる癌、心血管疾患、肺疾患を予防可能となる。しかし、多くの喫煙者が禁煙のアドバイスを受けていない現実があり、中低所得国においては過去1年間に医療従事者から禁煙のアドバイスを受けた喫煙者は40%に過ぎない

・ブリーフインターベンション(BI)は喫煙者を認識して、アドバイスして、禁煙を支援することで、エビデンスに基づく禁煙介入をすることを目的としていて、BIは禁煙に導くことに有用であることは知られている。特に5As(Ask, Advise, Assess, Assist, Arrange, follow-up)モデル、5Rs(Relevance, Risk, Rewards, Roadblocks, Repetition)モデルはWHO、CDC

などにより推奨されているBIモデルとして知られている。しかし、多くの医療従事者はBIの実施を十分にできていない現実がある。そういった状況を背景にして、VBA(Very brief advice)として、AAR(Ask, Advice, Refer)、AWARD(Ask, Warn, Advice, Refer, Do-it-again)、ABC(Ask about smoking, give Brief advice to quit, and offer Cessation assistance)のような簡略化したモデルも開発されている。

・医療従事者がBIよりもVBAを実施しやすいのはまず時間的制約の問題がある。そのほか、全ての医療従事者が禁煙やカウンセリングについてのトレーニングを受けているわけではないということが挙げられる。その点でVBAは便利なモデルといえる。

いくつかのRCTでは30秒という短時間でのVBAが禁煙に有効であることを支持している。

・従来のいくつかのシステマティックレビューでは例えば30分を超える介入(BIと呼び難い印象)さえが含まれたうえで検証されている点で現実的とはいえない面もある。また、これまでに3分以下のVBAの有効性を示す結果はないため、本研究が行われるに至った。

方法

・前述の記載のとおりの方法で検索がなされた。

<対象とした研究>

・①研究デザインがRCTであること ②長期的な禁煙達成をアウトカムとしていること ③介入時間が3分以内であること ④対照群が「禁煙に関する助言がないケース」あるいは「そもそも接触がないケース」であること をInclusion criteriaとした。

・また、「フォローアップの回数が月2回以上である研究」、「元喫煙者、現在禁煙を試みている患者などに関する研究」は除外した。前者を除外した理由は短期間での複数回の介入により、初回のVBAよりも強い有効性が発揮される可能性が想定されたためである。

・使用言語にとりわけ制限はなかったが、英語あるいは中国語で記載された抄録は必要であった。

データ抽出

・関連データは2人の共著者が抽出。

・Primary outcomeは治療開始6ヶ月以降まで続く自己申告での禁煙達成であった。Secondary outcomeは治療開始6ヶ月未満での禁煙あるいは禁煙企図とした。なお、禁煙企図は「24時間以上、継続的に少なくとも1回の喫煙機会を中止した場合」と定義した。

・持続的な禁煙状態と、不連続的な(平たくいえば”続かない”)禁煙達成との両方がみられた場合は、前者の結果を優先的に用いた。

結果

・1979年から2021年までに発表された15の論文(n=26,437)から、合計13のRCTが対象となった。

・12の研究では外来診療所(n=10)、救急部門(n=2)で実践がなされていた。

・介入は主に医師(n=11)が行い、その他は視界(n=1)、看護師(n=1)が行っていた。

・介入にかかる所要時間としては1件の研究が2~3分間、5件の研究が1~2分間、3件の研究が約1分間、3件の研究が30秒間未満で、1件の研究は正確な介入時間が記載されていなかったが、3分以内とみなした。

・介入を予め作成したプロトコールに則り実施した研究が10件で、残りの3件の研究ではプロトコールは不明確で、介入者自身のスタイルでアドバイスがなされていた。また、10件の研究ではリーフレットなどの資料も利用されていて、1件の研究では非ニコチンガムなどのキットが配布されていた。

・8つの研究ではVBA介入者の能力を高めるために、プロトコル実践に関するワークショップやブリーフィングが行われていた。3つの研究ではワークショップは1時間未満しか行われなかった。

バイアスのリスク

・無作為化の方法と盲検化について明確に言及した研究は6件であった。なお、参加者や介入担当者について盲検化した研究はなかった。

有効性

・治療開始6ヶ月以降で評価された禁煙についての治療効果はRR 1.28(95%CI:1.10~1.49)、NNT 66(95%CI:46~112)という結果であった。この結果について出版バイアスを調整した後の効果は前述の結果よりも小さいながらも統計学的に有意で、RR 1.17(95%CI:1.07~1.27)、NNT 73(95%CI:49~143)であった。

・6つの研究結果から得られた、(自己申告でなく)生化学的に示された禁煙のみにフォーカスした結果では治療効果は有意なものではなく、RR 1.53(95%CI:0.98~2.40)、NNT 256(95%CI:135~2855)という結果であった。

・治療開始6ヶ月未満での禁煙についての治療効果はRR 1.35(95%CI:1.15~1.58)、NNT 72(95%CI:51~122)で、出版バイアスの調整後の結果はRR 1.22(95%CI:1.01~1.47)、NNT 82(95%CI:55~166)であった。

・アドバイスの時間が1~2分間のものに限ると、効果は小さく有意ではなかった(RR 1.28(95%CI:0.98~1.67))。

ディスカッション

・対象となった研究は方法論的にばらつきがみられるが、このことによってVBAの有効性に関する結論が変わるほどのものではない。

・高所得国でのメタ解析では禁煙の促進に対して有意な治療効果が示されたが、低・中所得国ではそのような効果は有意ではなかった。したがって、VBAの有効性に関してはより多くのRCT、特に低・中所得国での研究が必要である。

・禁煙の期間の長さは様々で、多くの研究で一貫した定義がなされていない。そういった事情もあり、エビデンスの確実性は非常に低いともいえ、慎重に解釈されるべきである。

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<参考文献>

・Cheng CCW, He WJA, Gouda H, Zhang MJ, Luk TT, Wang MP, Lam TH, Chan SSC, Cheung YTD. Effectiveness of Very Brief Advice on Tobacco Cessation: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Gen Intern Med. 2024 May 2. doi: 10.1007/s11606-024-08786-8. Epub ahead of print. PMID: 38696026.

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