ビタミンB12欠乏症/葉酸欠乏症

ビタミンB12欠乏の主な原因

 <全年齢>

 ・ピロリ菌感染、ランブル鞭毛虫症

 ・悪性貧血(吸収不良を来す)

 ・胃切除、セリアック病、熱帯スプルー、Crohn病などによる回盲部の炎症

 ・摂取不足

 <高齢者>

 ・胃酸不足による吸収不良(萎縮性胃炎、PPI内服など)

 <乳幼児>

 ・トランスコバラミン欠乏症、Imerslund Grasbeck症候群、不適切な食事(菜食中心など)

葉酸欠乏の主な原因

 <全年齢>

 ・吸収不良を来す病態

 ・セリアック病、熱帯スプルー、Cronh病などによるなどによる回盲部の炎症

 ・摂取不足

 <高齢者>

 ・吸収不良を来す病態

 <乳幼児>

 ・SLC46A1遺伝子変異(葉酸トランスポーター欠損症)

ビタミンB12あるいは葉酸の欠乏が疑われる臨床所見

 <貧血>

 ・血液疾患(悪性腫瘍、MDS、溶血性病態など)、甲状腺機能低下症、慢性肝障害などをはじめとする他の疾患を除外する

 <食事の評価>

 ・偏食がないか、拒食がないか

 ・ベジタリアンやビーガンではないか

 <自己免疫性疾患の家族歴、既往>

 ・家族歴や自己免疫疾患の既往によっては悪性貧血の可能性が高まる

 <舌炎または口内炎>

 ・舌炎はビタミンB12欠乏を示唆する場合がある

 ・口内炎は葉酸欠乏を示唆する場合がある

 <感覚障害/ふらつき/末梢神経障害の既往>

 ・ビタミンB12欠乏症のほかに、糖尿病、手根管症候群などのその他の原因を除外する

 ・ビタミンB12欠乏症による神経症状は血液検査が正常であっても生じる場合がある

 <吸収不良を来す病態>

 ・慢性膵炎や、セリアック病などの小腸疾患が原因の場合がある

 ・口内炎などを伴う回腸末端炎ではCrohn病による影響も想定する

 ・アルコール摂取過多の病歴があれば膵炎の可能性も想定する

 ・胃部分切除や小腸切除歴などを聴取する。胃切除によりビタミンB12貯蔵は徐々に減少して、術後1~2年で欠乏症に至る場合がある。

 <内服歴>

 ・長期のPPI投与はにより食事からのビタミンB12吸収が低下してビタミンB12濃度が低下する場合がある。

 ・メトホルミンは吸収不良とビタミンB12濃度の低下を惹起する場合がある。

 ・エストロゲン製剤の使用はビタミンB12濃度の軽度の低下を惹起する場合がある。

 <高齢者の認知機能障害>

 ・高齢者におけるビタミンB12低値は認知機能障害と関連する場合がある(Treatable dementia)。

ビタミンB12欠乏症の総論

・巨赤芽球性貧血は血清ビタミンB12濃度が低値であること、MCV高値を伴う貧血などにより示唆される。

血液検査で異常値を示さなくても、神経症状(末梢神経障害、亜急性脊髄連合変性症など)がみられることがある

臨床的にビタミンB12欠乏が強く疑われるケースにおいて、血清ビタミンB12値が基準値内にあることもある(False normal cobalamin levelという)。その場合、他の検査(血清ホモシステイン値、血清メチルマロン酸など)を利用することを検討する。ただし、現時点においてビタミンB12欠乏症の診断のためのGold standardとされる検査は存在しない。

ビタミンB12と葉酸とは生化学的経路が密接に関係していて、なおかつ両者の欠乏症は臨床的に類似した臨床的特徴を示すことから、両者を同時に測定することが一般的である。真のビタミンB12欠乏症では血清葉酸値は基準値内か、あるいは基準値を上回っている場合がある。しかし、葉酸欠乏がみられても血清ビタミンB12値は低値であることがある。

ビタミンB12欠乏症の確認/診断のための検査

 <末梢血スメア/血算>

 ・5つ以上の分葉を有する、過分葉好中球の存在はビタミンB12あるいは葉酸の欠乏を示唆するが、ビタミンB12欠乏症の初期においては感度が低い所見で、なおかつ特異的ともいえないことに注意する。

 ・MCV上昇はビタミンB12欠乏に特異的な所見ではない。特に骨髄異形成症候群(MDS)の可能性、アルコール摂取過多、薬剤性などの可能性を除外する必要性が高い。

 <血清ビタミンB12値> 

 ・血清ビタミンB12値の測定はまず検討するべき検査で、血清中の不活性型ビタミンB12と活性型ビタミンB12との両者を測定する方法である。

 ・検査アッセイによっては高力価の抗内因子抗体を有する血清において”偽の正常値”を示す場合がある。

 ・血清ビタミンB12値が148pmol/L(200ng/L)御南であれば、真の欠乏症の97%を診断可能とする報告もある。ただし、血清ビタミンB12値は食事、メトホルミンなどの薬剤などの影響を受け、基準値の設定はそもそも困難という指摘もある。

 <血漿総ホモシステイン値>

 ・ビタミンB12が欠乏すると、血漿総ホモシステイン値が上昇する。血漿総ホモシステイン値はビタミンB12欠乏症の感度の高いバイオマーカーであり、欠乏症の初期から上昇する。ただし、ビタミンB12欠乏症に特異的な所見でなく、葉酸欠乏症、ビタミンB6欠乏症、腎不全、甲状腺機能低下症、遺伝子多型などにより上昇し得る。

 ・検査方法により異なるが、一般的には15μmol/Lを超えると高値とみなす。

 <血漿メチルマロン酸値>

 ・ビタミンB12欠乏症により高値となる。しかし、腎疾患、小腸細菌の過剰増殖、血液濃縮などにより偽高値となるケースもある。

 ・カットオフ値は0~27μmol/Lから0~75μmol/Lと幅がある。

悪性貧血について

 ・悪性貧血は橋本病、1型糖尿病などの自己免疫疾患と併存する場合があり、主に抗内因子抗体の存在により診断される。

 ・悪性貧血を診断した際に、他の自己免疫疾患の合併の可能性についてスクリーニングするべきかについて記したガイドラインなどはなく、個別性に応じて検討することとなる。

 ・抗内因子抗体は悪性貧血に関して、高い陽性的中率(95%)を示し、低い偽陽性率(1~2%)を示すことが知られている。

 ・高力価の抗内因子抗体の存在は血清ビタミンB12濃度の測定に干渉し、血清ビタミンB12濃度の”偽正常値”を示す場合がある。そのため、血清ビタミンB12値が基準値内にあるにも関わらず、巨赤芽球性貧血や亜急性脊髄連合変性症などがみられるなど、臨床的にビタミンB12欠乏症が疑われるケースでは抗内因子抗体の測定が推奨される。

 ・なお、直近でビタミンB12注射による治療を受けた場合には抗内因子抗体が偽陽性となりやすいことも指摘されている。

 ・抗壁細胞抗体は悪性貧血患者の80%で陽性となるが、健常者の10%でも陽性となるため、悪性貧血の診断に関して特異性が低い。抗壁細胞抗体が陽性であれば、悪性貧血に進行する可能性はあるが、陽性だからといって悪性貧血の確定診断には至らない

 ・悪性貧血患者がその後に鉄欠乏症(萎縮性胃炎の存在を示唆する)を発症した場合には胃がんのリスクが僅かに上昇する

ビタミンB12欠乏症の治療

・治療はビタミンB12(ヒドロキソコバラミン)の筋注を基本とする。神経学的所見がない患者における標準的治療としては1,000μgを週3回、2週間ほど筋肉注射で投与する。

・重度の貧血を伴う患者では治療後に原因不明の低カリウム血症がみられる場合があり、必要に応じてカリウム補充を検討する。

・貧血がみられる患者では鉄と葉酸とが十分であれば5~10日後までに網状赤血球が増加して、1週間以内に血漿ホモシステイン値、メチルマロン酸値が基準値内に復帰して、8週間以内にMCVが改善することが一つの典型的な経過の目安といえる。なお、網状赤血球に関して、反応性がみられない場合はそもそも診断が適切かどうかを再考し、なおかつ鉄欠乏を合併している可能性などについても検討する。

・神経学的所見がない場合は、その後に3ヶ月おきにビタミンB12を1,000μgを筋注し、神経学的所見がある場合は、2ヶ月おきに同量を筋注する。

ビタミンB12の内服治療は筋肉注射による投与と同等の効果があることがCochrane reviewで示されている。ただし広く一般的にこのエビデンスが適用できるかどうかは議論の余地がある。また、悪性貧血などにより吸収の問題があるケースで補充を開始する場合には内服治療を避けるべきで、筋注の方が有効性は保証されるというという指摘もある。

葉酸欠乏症の総論

・葉酸は小腸近位部で吸収され、体内の葉酸のほぼ半量が肝臓に存在する。食事由来の葉酸のBioavailabilityは腸管の種々の要因による影響を受ける。

・葉酸はDNA合成に不可欠であるため、その影響は骨髄や消化管のような細胞増殖が早い臓器に影響を及ぼしやすい。重度の葉酸欠乏では汎血球減少巨赤芽球性貧血を誘発する。

・食欲不振、アルコール摂取過多、妊娠、抗けいれん薬の投与などにより実際には欠乏状態にないにも関わらず、偽低値となる場合がある。

・通常、葉酸欠乏から数週間以内に血清葉酸値は欠乏状態になる。

先進国において、葉酸欠乏症が単独で存在することは頻度として稀である。したがって、ビタミンB12を含む、他の栄養素が不足している可能性を検討したり、吸収不良の病態が存在する可能性を検討したりする必要性が高い。さらに血清葉酸低値は血清ビタミンB12低値と関連している可能性があることに留意する。

・葉酸欠乏による貧血は現代においては貧しい食生活、アルコール摂取過多、消化管疾患(吸収不良など)により生じやすい。また、稀ながらセリアック病でみられる場合がある。

薬剤性で葉酸欠乏に至るケースもある。特にST合剤、サラゾスルファピリジン(5-ASA)、葉酸代謝拮抗薬(MTXなど)などが原因薬剤として挙げられる。

・そのほか、妊娠、授乳、腫瘍性疾患、透析などによる葉酸必要量の増加により、葉酸欠乏に至る場合もある。

葉酸欠乏症を診断するための検査

 <血清葉酸値>

・欠乏を示す葉酸値について、明確なコンセンサスは得られていない。従来は7nmol/L(3μg/L)未満を低値としてきた。しかし、7~10nmol/L(3~5μg/L)の場合は欠乏症がないとは言い切れないグレーゾーンと認識する必要がある。

 <血漿ホモシステイン値>

・血漿ホモシステイン値は葉酸値の鋭敏な指標であり、血清葉酸値として約10nmol/L(4~5μg/L)以下の状態と強い相関がある。

15μmol/L以上の場合は葉酸欠乏症の可能性が示唆される。

・葉酸欠乏症の可能性を検討する際には通常は血漿ホモシステイン値でなく、血清葉酸値の測定が優先される

葉酸欠乏症の治療

・治療に必要な葉酸の投与量は欠乏の原因により異なる

・葉酸の補充を開始して10~14日後の検査で、Hb増加とMCV減少傾向が確認されるはずである。なお、血漿ホモシステイン値、メチルマロン酸値は治療開始1~2週間後には正常化するという報告もある。

・メタアナリシスによると、葉酸の補充により、血漿ホモシステイン濃度を最大限低下させるためには通常1日あたり0~8mgか、それ以上の葉酸の投与が必要とされている。また最近では少なくとも6ヶ月間にわたり0~2mg/日での投与を継続することで最適な効果が得られることが示されている。

<BNF(British National Formulary)の推奨>

 ・葉酸欠乏由来の巨赤芽球性貧血の場合葉酸 5mg/日を4ヶ月間ほど内服することを基本とする。妊娠が原因の場合は出産まで投与を継続して、吸収不良が原因の場合はまず15mg/日を4ヶ月間 投与することを検討する。

 ・慢性的な溶血あるいは透析に由来する場合:予防的投与量として連日5mg/日、あるいは週1回5mgの内服を目安とする。

 ・妊娠:予防投与量としては200~500μg/日を目安とする。

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<参考文献>

・Devalia V, Hamilton MS, Molloy AM; British Committee for Standards in Haematology. Guidelines for the diagnosis and treatment of cobalamin and folate disorders. Br J Haematol. 2014 Aug;166(4):496-513. doi: 10.1111/bjh.12959. Epub 2014 Jun 18. PMID: 24942828.

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