SGLT2阻害薬

2014年に日本でも販売が開始されたSGLT2阻害薬ですが、気がつくと次々と新たなエビデンスが示されるような印象があり、恥ずかしながら少しエビデンスについていけていない可能性を感じながら診療をしていました。

また、平時から比較的高齢の患者さんを診療することが多く、るい痩などを伴うことも多いため、フレイルやサルコペニアを惹起させる懸念から処方に及び腰になっていることを自覚しています。

一方で、エビデンス集積も進んでいることは事実であるため、一度簡潔に把握しなおして今後の診療に活用させようと思った次第です。

なお、各ランドマークスタディの批判的吟味を行うこと自体は本ブログの目標ではないため、多少割愛します。

個々のエビデンスを目の前の患者さんに適用可能かという点についてはここでは触れず、その都度、検討を要します。

慢性心不全、慢性腎臓病、2型糖尿病それぞれにエビデンスのある薬剤も多少異なっている印象で、少し煩雑な印象もあるため、一度簡潔にまとめておきます。

なお、あくまで以下の記載は2024年03月時点での”まとめ”ということにご留意いただきたく思います。

[toc]

各慢性疾患で推奨される薬剤

 <慢性心不全とSGLT2阻害薬>

 ▶エビデンスのある薬剤:

  ・HFrEF(以下2剤はいずれも推奨クラス1):

   ・ダパグリフロジン(フォシーガ)

   ・エンパグリフロジン(ジャディアンス)

  ・HFpEFおよびHFmrEF(以下2剤はいずれも推奨クラス2a):

    ・ダパグリフロジン(フォシーガ)

    ・エンパグリフロジン(ジャディアンス)

  ・薬価の違い(28日分処方で3割負担の場合の薬価):

   ・ダパグリフロジン(フォシーガ):約2,200円/月

   ・エンパグリフロジン(ジャディアンス):約1,600円/月

  ・その他:

   ・2剤とも心不全イベントの抑制効果が示されています。

 <慢性腎臓病とSGLT2阻害薬>

 ▶エビデンスのある薬剤:

  ・糖尿病を合併したCKD(蛋白尿の有無を問わず):

   ・ダパグリフロジン(フォシーガ)

   ・カナグリフロジン(カナグル)

  ・糖尿病を合併していないCKD:

   ・蛋白尿(+)の場合:ダパグリフロジン(フォシーガ)

   ・蛋白尿(−)の場合:エビデンスは不十分であるため, より慎重な判断を要する

  ・その他:

   ・eGFR<30の患者群でも腎保護効果が有意に示されています。

   ・2024年02月にエンパグリフロジン(ジャディアンス)も慢性腎臓病に対して保険適用となりました。

 <2型糖尿病とSGLT2阻害薬>

 ・前提:

  ・「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(日本糖尿病学会)」を参照して, インスリン抵抗性

    や分泌能を考慮してビグアナイド薬などの使用を検討します。

  ・そのうえで, 慢性腎臓病合併例(特に顕性腎症), 心不全合併例, 心血管疾患合併例では

   SGLT2阻害薬の使用を個別性に応じて検討可能であり、

   ときにメトホルミンなどに次ぐ第二選択のポジショニングにもなり得ます。

 ・2型糖尿病に選択可能な薬剤:

  ・ルセオグリフロジン(ルセフィ)

  ・トホグリフロジン(デベルザ)

  ・カナグリフロジン(カナグル)

  ・エンパグリフロジン(ジャディアンス)

  ・ダパグリフロジン(フォシーガ)

  ・イプラグリフロジン(スーグラ)

 ・1型糖尿病にも選択可能な薬剤(※下記2剤以外は1型糖尿病には適応がありません):

  ・ダパグリフロジン(フォシーガ)

  ・イプラグリフロジン(スーグラ)

 ・その他:

  ・上記薬剤のうち、どの薬剤を優先的に使用するべきかを明確に記載できませんでした。

   ただし詳細は割愛しますが、2つのランドマークスタディ(PMID:26378978, PMID:28605608)

   においては各々エンパグリフロジン(ジャディアンス), カナグリフロジン(カナグル)

   が使用されています。

SGLT2阻害薬の主な副作用

 <サルコペニア>

 ・従来、サルコペニアやフレイルなどを進行させる可能性について指摘されていました。

 ・なお、エンパグリフロジン投与52週時点において、脂肪量の減少に比して、

  筋肉量の減少は比較的軽度に留まったという日本からの報告も

  あります(EMPA-ELDERLY trial)。

 <細胞外脱水>

 ・利尿効果を有するため、脱水に注意が必要です。また利尿効果により

  頻尿をきたし、特に高齢者においては転倒の原因にもなり得ることには

  留意します。

 ・食事摂取ができているかどうかという確認もときには重要です。

 ・いわゆるSick dayには休薬が推奨されています(周術期も同様です)。

 <尿路感染症/性器感染症(膣カンジダ症など)>

・有意なリスク増加はみられないというメタ解析も存在しますが、注意は必要です。

 <正常血糖ケトアシドーシス(euDKA)>

 ・糖尿病のケース(特に1型糖尿病)で特に注意を要します。

 ・インスリンのアドヒアランス不良、糖質制限や食事摂取不良、細胞外脱水、

  シックデイなどがリスク因子です。

 ・最も頻度の高い症状は悪心/嘔吐で、そのほかにも口渇、腹痛、呼吸困難などを

  きたすことがあります。

 ・身体所見としてはKussmaul呼吸、呼気のアセトン臭、頻脈(細胞外脱水を反映)などが

  みられることがあります。

 ・尿のケトン体定性検査ではアセト酢酸を検出可能ですが、DKAではβ-ヒドロキシ酪酸が

  優位に上昇することが知られているため、尿定性検査では見逃してしまう危険性があります。

  可能であれば血中β-ヒドロキシ酪酸の検査を行うことが無難かもしれません(いわゆるAKAでも同様です)。

 <低血糖>

 ・SGLT2阻害薬単独では低血糖は比較的生じにくいとはされていますが、他の経口血糖降下薬

  との併用でリスクは高まることには留意を要します。

 <initial dip>

 ・副作用とは少しずれてしまうかもしれませんがSGLT2阻害薬を導入するうえで留意するべき特徴なので、

  こちらで触れておきます。

 ・SGLT2阻害薬開始して間もなく(目安として2週間~2ヶ月)にeGFR低下が生じ得ることが知られていて、

  この現象は”initial dip”と呼ばれています。

 ・ただし、徐々にeGFRの低下幅は小さくなり1年後にはプラセボ群を上回るとされているため、

  特性を理解して使用することが重要と思います。

■参考資料:

・心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(日本循環器学会 日本心不全学会/2023年06月16日発行) (閲覧:2024年03月18日)

・2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(日本糖尿病学会 2022年09月05日掲載)(閲覧:2024年03月18日)

・Zinman B, Wanner C, Lachin JM, et al: Empagliflozin, cardiovascular outcomes, and mortality in type 2 diabetes. N Engl J Med, 373(22):2117-2128, 2015.

・Neal B, Perkovic V, Mahaffey KW, et al: Canagliflozin and cardiovascular and renal events in type 2 diabetes. N Engl J Med, 377(7):644-657, 2023.

・The EMPA-KIDNEY Collaborative Group: Empagliflozin in patients with chronic kidney disease. N Engl J Med, 383(2):117-127, 2023.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です