片頭痛 migraine
片頭痛とその疫学
・片頭痛(migraine)の有病率は10~14歳で急激に増加し、35~39歳まで増加する。その後は特に女性では閉経後から徐々に減少する。なお、患者の約75%が35歳以前に片頭痛を発症していると報告されている。
・通常は加齢により寛解する傾向にあるため、たとえば50歳以降に出現する頭痛などでは片頭痛よりもまず二次性頭痛の可能性を考えることとなる。
・発症の男女比は約1:3とされる。また、女性は約25人に1人の頻度で慢性片頭痛(月15日以上の発作頻度を伴う)を有す。
・片頭痛は日常生活に支障を来すことが典型的で、生活の質を低下させる。実際、Global Burden of Disease Study 2016によると、片頭痛は疾病負担の第2位に位置している。片頭痛が原因で生じる労働遂行能力低下により、本邦では年間数千億円から数兆円の経済的損失が生じているという報告もある。
・喘息、脳卒中、不安障害、うつ病などのリスク増加に寄与すると考えられている。
・本邦での年間有病率は8.4%で、前兆のない片頭痛5.8%、前兆のある片頭痛2.6%とされる。なお、未成年者における有病率は高校生9.8%、中学生4.8~5.0%、小学生3.5%である。
・片頭痛は一次性頭痛のなかでは緊張型頭痛に次いで2番目に多い。
・家族歴があることも多く、遺伝率は約40%とされる。
臨床症状/臨床経過
・片頭痛を示唆する臨床的な特徴としては中等度から重度の頭痛で、その持続時間が4~72時間といわれる。典型的には片側性の頭痛で、拍動性に疼痛が出現する。また体動で増悪する点、悪心を伴う点も特徴的。そのほか、羞明、感覚過敏(音/光/匂い過敏)などもみられる。
・片頭痛には前兆(aura)を伴うものもある。前兆としては視覚症状(閃輝暗点など)、感覚症状(異常感覚など)、言語症状、運動症状、脳幹症状、網膜症状などが知られる。
・前兆としての運動麻痺(脱力)がみられた際には片麻痺性片頭痛と分類される。脳幹性前兆を伴う片頭痛の前兆には構音障害、回転性めまい、耳鳴、難聴、複視、運動失調、意識レベル低下がある。網膜片頭痛でみられる前兆には単眼に視覚症状(閃輝暗点、視覚消失)が含まれる。
・前兆は通常5~60分かけて徐々に出現し、その後おおむね60分以内に頭痛が出現する。また、前兆は頭痛が生じている最中にも生じることがある。
・片頭痛発作ではアロディニアを伴うこともある。
・片頭痛では発作性の病歴が重要である。片頭痛には誘因(例: ストレス, 睡眠障害, 食事摂取の問題など)が存在することが一般的である。
診断
・国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では片頭痛の主な3分類、つまり前兆のない片頭痛、前兆のある片頭痛、慢性片頭痛の診断基準が示されている。
・身体診察では特記所見がないことが典型的。診断をする際には他の一次性頭痛のほか、二次性頭痛の可能性を考慮する必要がある。二次性頭痛を示唆する所見として頭部外傷歴、増悪傾向にある頭痛、雷鳴頭痛、発熱や体重減少や項部硬直を伴うケースなどが挙げられる。
<前兆のない片頭痛の診断基準>
- B~Dを満たす発作が5回以上ある
- 頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
- 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
- ①片側性
- ②拍動性
- ③中等度~重度の頭痛
- ④日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する, あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
- 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
- ①悪心または嘔吐(あるいはその両方)
- ②光過敏および音過敏
- ほかに最適なICHD-3の診断がない
治療
・多くの片頭痛のマネジメントはプライマリケア医による診療で可能と考えられるが、診断困難なケースや治療反応性が不良なケースでは専門医への紹介を検討する。
・治療は発作時の治療(初期治療)と、予防治療とが中心となる。また、補助的に非薬物療法が利用される。
・生活上の改善、鍼治療は十分とはいえないが有効性に関するエビデンスは存在する。一方で、カイロプラクティック主義、食事療法、理学療法などの有効性を支持するエビデンスはほとんどない。
初期治療
・片頭痛の鎮痛薬は発作が生じたごく初期(頭痛の始まりたてのタイミング)に投与することが望ましい。
・鎮痛薬としてNSAIDsが最も一般的で低コストな薬剤である。特にアセチルサリチル酸、イブプロフェン、ジクロフェナクの有効性はよく報告されている。
・トリプタンは第二選択薬とされ、ある経口トリプタン製剤が無効なケースでは他の薬剤で十分な鎮痛効果が得られることもある。経口トリプタン製剤としてはエレトリプタン、ナラトリプタン、リザトリプタン、スマトリプタン、ゾルミトリプタンなどが使用可能である。前述の適切な内服タイミングに内服したうえで、発作に対して3回程度治療を試みても無効な場合には経口トリプタン製剤から別の薬剤に切り替えることも検討する。
・経口トリプタン製剤である程度の鎮痛効果は得られながらも、改善が不十分なケースでは経口トリプタン製剤とNSAIDsとの併用が推奨されることもある。
・スマトリプタン皮下注は投与後2時間における鎮痛効果を指標にすると最も効果的な治療法ともいえる。しかし、経口製剤と比較すると高価である点に留意して選択する必要がある。現実的には経口トリプタン製剤で鎮痛効果が不十分な場合に皮下投与製剤を検討することになる。あるいは悪心・嘔吐で内服が困難なケースで皮下投与製剤や点鼻製剤は有用である。
・片頭痛治療薬の頻用により、薬物乱用性頭痛(MOH)が生じるリスクが高まることに留意する。通常、鎮痛薬を頻用しているケースで、3ヶ月以上にわたり月15日以上の頭痛を伴う場合にMOHを想定する。MOHに至っていると考えられる場合では頻用されている薬剤を中止のうえ、予防薬の投与を開始することとなる。
・またNSAIDsやトリプタン製剤が無効であるケースや、トリプタン製剤の使用が禁忌に相当するケースではラスミジタン(レイボー®)の使用が可能である。ただし、ラスミジタン投与により眠気、めまいなどが生じることがあり、原則的に自動車運転などの危険を伴う機械の操作はさせないように指導する必要があり、目安として内服後8時間程度は最低でも回避してもらうこととなる。
・トリプタン製剤ではゾルミトリプタン、ナラトリプタンを除き、経口薬ではTmax(最高血中濃度到達時間)はおおむね1~2時間以内である。また、スマトリプタン皮下注製剤ではTmaxは0.2時間程度で、トリプタンの服用のタイミングを逃したケースなどでは有効である。また、T1/2(消失半減期)は概ね1.5~3時間であるが、ナラトリプタンのみ5.05時間とT1/2が長い。したがって、疼痛の持続時間が長いケース、月経開始前後2日で生じる月経関連片頭痛ではナラトリプタンが有効なこともある。
・副作用と依存性との観点で、片頭痛の治療にオピオイドとバルビツール酸とを使用しないことが推奨されている。
予防治療
・予防薬の目的は片頭痛の発作を消失させることではなく、その発作の頻度、期間、重症度を軽減することにある。
・予防薬開始の適応は国やガイドラインによって異なるが、一般的には月4日以上の片頭痛発作がみられ、治療を行っているにも関わらず日常生活に支障が生じているケースで推奨される。
・一般的に選択される予防薬としてはβ遮断薬(プロプラノロール)、カルシウム拮抗薬(ロメリジン)、バルプロ酸などが挙げられる。
・プロプラノロールを選択する際には心不全、喘息が併存するケースで注意である。また、リザトリプタンとの併用が禁忌である点に留意が必要。
・慢性片頭痛に対してはトピラマート、ボツリヌス毒素Aが有効というエビデンスも存在する。
・ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体として、フレマネズマブ(アジョビ®)、ガルカネズマブ(エムガルティ®)が本邦で使用可能で、発作性片頭痛、慢性片頭痛のいずれの予防薬としてもRCTで有効性が示されている。ヒト抗CGRP受容体モノクローナル抗体としてはエレヌマブ(アイモビーグ®)が使用可能である。これらの薬剤は効果発現までが短く、有害事象としては注射部位の疼痛や紅斑などが最も一般的である。なお、フレマネズマブ、ガルカネズマブ、エレヌマブは他系統の薬剤に治療反応性がみられないケースでも有効であることが示されている。5年間の非盲検試験ではエレヌマブは発作性片頭痛に継続的に有効性が示された。しかし、同系統の他の薬剤の長期的安全性についてはさらなる検証が待たれる。
・経験的に治療反応性の確認時期として、経口予防薬では約2~3ヶ月後、抗CGRPモノクローナル抗体および抗CGRP受容体モノクローナル抗体では約3~6ヶ月後、ボツリヌス毒素では6~9ヶ月後がそれぞれ妥当と考えられる。その時点での治療効果が乏しければ、別系統の薬剤への変更も検討される。
・生活習慣の改善も予防的観点では重要で、一般的には規則正しいバランスの良い食事、脱水を防ぐこと、有酸素運動やヨガなどの運動習慣を持つこと、十分な睡眠をとることなどが勧められる。
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<参考文献>
・Ashina M. Migraine. N Engl J Med. 2020 Nov 5;383(19):1866-1876. doi: 10.1056/NEJMra1915327. PMID: 33211930.
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・頭痛の診療ガイドライン2021