HIV感染症
HIV感染症とその疫学/臨床症状
・ヒト免疫不全ウイルス(HIV: human immunodeficiency virus)がCD4陽性T細胞に感染することにより、様々な日和見感染性をきたす疾患をHIV感染症という。
・また、HIVに感染した状態で、AIDS指標疾患を発症した状況を後天性免疫不全症候群(AIDS: acquired immunodeficiency syndrome)という。AIDSは1980年代初頭に特定された。
・HIV感染症は主に性的接触と血液曝露とを介して、また周産期に感染することが知られる。
・HIVには1型(HIV-1)と2型(HIV-2)とがある。実際にはほとんどがHIV-1感染者で、HIV-2感染者は例えば西アフリカなどの特定の地域で流行している。また、HIV-1と比較して、HIV-2は病原性が比較的低く、AIDSへの進行も緩徐と考えられている。
・2022年での世界のHIV感染者は約3,900万人と推計されている。
・厚生労働省エイズ動向委員会によって、日本で2023年の1年間で新規のHIV感染者が669人、AIDS患者が291人の報告がなされている。また日本のHIV感染者およびAIDS患者の新規報告数は2016年から2022年までの6年連続で減少していたが、2023年に増加に転じた。日本におけるHIV感染者およびAID患者はともに90%以上を男性が占め、感染経路別の内訳では約50%以上が同性間の性的接触(MSM)によることが明らかとなっている。
・なお、2018年にはアメリカで新規のHIV感染者は約38,000人ほど報告されている。
・HIVは1~6週間程度の潜伏期を経て、インフルエンザ様症状などを呈することがある。しかし、これらの症状はその後、持続せず自然軽快する。その後、数年から10年間程度の無症候期間を経て、AIDS発症に至る。
HIVスクリーニング
・アメリカではUSPSTFにより15~65歳の方においてHIV感染のスクリーニングを行うことを推奨している(Grade A)。また、全ての妊婦においてHIV感染のスクリーニングを行うことが推奨されている。
・ただし、前述のようにアメリカと日本とでは疫学も異なるため、純粋にUSPSTFの推奨をそのまま日本においても適用させることは必ずしも適切ではないと思われる。
・日本において、少なくともAIDS指標疾患を診療した際や伝染性単核球症様の症状を診た際などに、HIV感染症の可能性を考慮して、必要に応じてスクリーニングをすることが重要と思われる。
臨床検査
・HIV感染症の可能性を想起した場合には第4世代スクリーニング検査である抗原抗体検査を行う。これはHIV-1/2抗体とHIV-1 p24抗原を検出する方法である。
・HIV-1 p24抗原は感染13~20日目には検出可能である。
・抗体ははじめIgMとして感染20日目までに検出可能となり、次に産生されるIgGは感染30日目までには検出可能となる。
治療
・HIV感染症の診断に至った全ての人が抗レトロウイルス療法(ART: antiretroviral therapy)の開始をするべきで、その後は長期的なフォローアップがなされる。ARTの開始は診断時に行うべきで、原則としてCD4値に関わらず開始することとなる。多くの場合、ベースラインの検査結果(HIV-RNA量など)が判明する前にARTが開始される。
・診断時には包括的な評価を行うべきで、そのなかには性行動、嗜好歴(飲酒などを含む)などが含まれる。また、鵞口瘡、腟カンジダ症、HSV感染症、カポジ肉腫、網膜症などの合併症の有無などにも配慮し、進行したHIV感染症である可能性も想定した病歴聴取、診察も行う。また、パートナーがいれば、心理的な配慮も行いながら、診察をすることとなる。
・他者への感染予防の観点で、性行為時にはコンドームを日常的に使用することなどを確実に伝えることも重要。
・HIV感染が確認されたケースではHIV-RNA量<200コピー/mLを維持するための治療ができれば、患者はほぼ通常の寿命を全うすることで、かつ他者にHIVを感染させることもないと考えられている。
・初回治療では「ビクテグラビル・エムトリシタビン・テノホビルアラフェナミド(BIC/TAF/FTC(ビクタルビル配合錠®))」、あるいは「ドルテグラビル(DTG(テビケイ®))+合剤(TDF/FTC(ツルバダ配合錠®)か、TAF/FTC(デシコビ配合錠®)か)」が選択される。投与レジメンはHIV-RNA量、CD4値、腎/肝機能、HBV、HCVなどの検査が判明した時点で調整可能である。推奨されるARTにより90%以上のウイルス学的な持続抑制状態に至る。
・フォローアップの際には治療薬のアドヒアランスと副作用の評価が重要である。ときに腎機能や肝機能などに異常がみられた場合には投与量の変更や調整が必要となることもあり、また精神症状(うつ病など)が生じることもある。
・なお治療開始24週が経過してもHIV-RNA量が200コピー/mL未満に低下しない場合や、一度測定感度未満に低下したHIV-RNA量が再び増加する場合には治療失敗を想定する。この場合はウイルス耐性の可能性や、適切に内服できていない可能性も検討する。
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<参考文献>
・de Jong MD, Hulsebosch HJ, Lange JM. Clinical, virological and immunological features of primary HIV-1 infection. Genitourin Med. 1991 Oct;67(5):367-73. doi: 10.1136/sti.67.5.367. PMID: 1743707; PMCID: PMC1194734.
・Saag MS. HIV Infection - Screening, Diagnosis, and Treatment. N Engl J Med. 2021 Jun 3;384(22):2131-2143. doi: 10.1056/NEJMcp1915826. PMID: 34077645.
・次期エイズ予防指針の改正に向けた検討について(厚生労働省).
・レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版.