偽性腸閉塞 colonic pseudo-obstruction

偽性腸閉塞とその疫学

・偽性腸閉塞(Colonic pseuedo-obstruction)は機械的閉塞を伴わないにも関わらず、消化管の運動機能異常により腸閉塞症状をきたすものを指す。

急性型慢性型とに分けられ、急性型をOglivie症候群と呼ぶこともある。

・偽性腸閉塞は腸管の拡張部位と非拡張部位とのいわば移行帯と呼べるような箇所が存在するものの、明らかな閉塞起点を認めないのが特徴的である。診断が遅れることで死亡率に関連するという報告もある。

・偽性腸閉塞の病態生理は解明されていない部分も大きいが、自律神経障害の関与が示唆されている。また、発症のリスク因子としては重篤な疾患の発症、直近の外科的処置、代謝性要因、外傷などが想定されている。

・あるレトロスペクティブコホート研究では急性偽性腸閉塞の年間発症率は10万人の入院患者あたり100人程度という報告がなされている。

合併症

・偽性腸閉塞の最も重篤な合併症は腸管虚血腸管穿孔である。これらの合併症は主に盲腸の短径10~12cmを超えるケース、腸管拡張が6日間以上におよぶケースにおいて頻度が増加することが知られている。

・偽性腸閉塞のケースの約10%上行結腸においてある程度の虚血性変化が生じていると考えられていて、腸管穿孔に至る可能性は3~25%という報告もある。

機械的閉塞を除外することが重要であるため、特に画像診断は重要である。

保存的加療

合併症のない急性偽性腸閉塞では保存的治療が第一選択となる。なお、ここでいう合併症のない偽性腸閉塞とは①腸管虚血がない ②腹膜炎を合併していない ③盲腸短径12cm未満 ④著明な腹痛がない ケースを指す。

・保存的加療には誘因の特定とその改善(例:向精神病薬の中止など)、体液/電解質異常の補正、リハビリテーション、併存する感染症の治療、経鼻胃管による減圧などが含まれる。

・保存的加療の成功率については報告が様々であるが、77~96%とされている。

薬物治療

・短時間作用型コリンエステラーゼ阻害薬であるネオスチグミンは急性偽性腸閉塞の管理において選択されることがある。投与中は心拍数、呼吸状態を継続的にモニタリングし、徐脈が目立つ場合にはアトロピン投与を検討する。

・なお、ネオスチグミンの一般的な副作用としては悪心/嘔吐、下痢、腹痛、発汗などがある。また、機械的閉塞や尿路閉塞を伴うケースでは禁忌である。相対的禁忌としては徐脈、喘息、腎不全、消化性潰瘍、直近の心筋梗塞の既往、アシドーシスが挙げられる。

・3つのRCTで、ネオスチグミンは85~94%のケースで有効性を示すことが証明されている。また、あるメタアナリシスではネオスチグミン(2~5mg)を単回投与されたケースで偽性腸閉塞の改善率はプラセボ薬に比して有意に高かったことが示されている。

経鼻胃管によるポリエチレングリコールの連日投与は再発率を低下させることが示唆されている。

・ネオスチグミンは従来は静脈内へのボーラス投与が選択されていたが、最近の研究では皮下投与でも中央値にして29時間以内に便通が改善したと報告されている。

・ネオスチグミンによる治療に反応性が不良な患者ではより作用時間の長いコリンエステラーゼ阻害薬であるピリドスチグミンや、メトクロプラミド、エリスロマイシンなどが使用されることがある。ピリドスチグミンはネオスチグミンや内視鏡的減圧術に抵抗性のある偽性腸閉塞の治療で有効なことがあることが示されている。

内視鏡的減圧術

・内視鏡的減圧術は急性偽性腸閉塞のマネジメントにおいて重要な方法である。内視鏡による大腸減圧術は保存的治療が奏功せずに持続的で著明な大腸拡張所見がみられるケース、内科的治療に抵抗性のあるケース、ネオスチグミンが禁忌なケースで従来は選択されてきた。

・下部消化管内視鏡による減圧の有効性はRCTでは確立されていない。しかし、限定的なエビデンスかもしれないが、一部の報告では内視鏡的減圧術の有効性は示されている。

・内視鏡的減圧術を行う際には前処置を行ったうえで、少なくとも横行結腸の遠位部まで到達するように試みる。

・内視鏡的減圧術による腸管穿孔のリスクは約2%、死亡リスクは約1%である。再発リスクが約40%であり、特に減圧チューブを結腸に留置できないケースでは内視鏡的減圧術を繰り返すこともある。なお、減圧チューブ留置の有用性を支持するエビデンスは乏しい。

薬物治療と内視鏡的治療の比較

・薬物治療と内視鏡的治療との有用性を比較したRCTはないが、2つのレトロスペクティブ研究によると、内視鏡的減圧術はネオスチグミン投与よりも優れていることが示されている。なお、穿孔のリスクは同等とされている。また、最終的に外科的治療が選択されたケースを比較すると、両者の治療の転帰に差はなかった。

手術

保存的加療、薬物治療、内視鏡治療が無効なケースに対しては外科的治療が検討されることとなる。

腹膜炎や腸管虚血/穿孔を合併するケース、臨床的経過が芳しくないケース、盲腸の短径が12cm超のケースなどもまた外科的治療を検討することとなる。

・外科的治療を必要とする急性偽性腸閉塞のケースにおける死亡率は高く、30~60%に及ぶ。したがって、可能な限り、外科的治療に至らないような管理を試みる。

・外科的治療の種類としては大腸亜全摘術、人工肛門造設が挙げられる。

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<参考文献>

・De Giorgio R, Knowles CH. Acute colonic pseudo-obstruction. Br J Surg. 2009 Mar;96(3):229-39. doi: 10.1002/bjs.6480. PMID: 19224517.

・Naveed M, Jamil LH, Fujii-Lau LL, Al-Haddad M, Buxbaum JL, Fishman DS, Jue TL, Law JK, Lee JK, Qumseya BJ, Sawhney MS, Thosani N, Storm AC, Calderwood AH, Khashab MA, Wani SB. American Society for Gastrointestinal Endoscopy guideline on the role of endoscopy in the management of acute colonic pseudo-obstruction and colonic volvulus. Gastrointest Endosc. 2020 Feb;91(2):228-235. doi: 10.1016/j.gie.2019.09.007. Epub 2019 Nov 30. Erratum in: Gastrointest Endosc. 2020 Mar;91(3):721. doi: 10.1016/j.gie.2020.01.042. PMID: 31791596.

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