ACO (Asthma-COPD Overlap)
ACO(Asthma-COPD Overlap)とその疫学
・喘息とCOPDは世界で5万人以上が罹患している一般的な疾患。
・喘息とCOPDとの両者の特徴を有している場合があり、ACO(Asthma-COPD Overlap)という。
・ACOの有病率は年齢とともに増加し、一般集団の1.6~4.5%、喘息患者の27%、COPD患者の33%をそれぞれ占めるという報告もある。
・ACOの普遍的な定義は存在しないが、専門家によるRound table discussionで定義は示されていて、後述のとおりである。
・ACOの診断基準を満たす場合、喘息単独あるいはCOPD単独で有するケースよりも予後は不良である可能性がある。実際、ACO患者では呼吸器症状がより大きく、増悪や入院リスクがより高い。また、いずれか単一の疾患を有するケースよりも医療費や医療利用の頻度は増加する可能性がある。
ACOの定義
・すべての大基準と1つ以上の小基準を満たす場合にACOと診断される。
<大基準(Major)>
- 年齢≧40歳
- 気管支拡張薬使用後のFEV1/FVC<0.70(or 基準値下限)
- 10pack-years以上の喫煙歴またはそれに相当する屋内外の大気汚染への曝露
- 40歳以前での喘息発症あるいはFEV1 400mL以上の気管支拡張薬への反応性が示されている
<小基準(minor)>
- アレルギー性鼻炎またはアトピー性疾患の存在が示されている
- 気管支拡張薬の使用によりFEV1がベースラインから予測値の12%以上の改善し、なおかつ200mL以上の改善を2回以上認められている
- 末梢血好酸球数≧300/μL
ACOのマネジメント
・喘息あるいはCOPDと明確に同定できないケースでは病歴、身体診察、画像診断などにより、ACOが存在するのかを判断する。
・ACOは単一の疾患とみなすよりは、たとえ軽症例であっても喘息の要素とCOPDの要素のいずれがより重要なケースであるかを判断することが大切。
<喘息らしい病歴>
・20歳以前で症状が発現している。
・症状の日内変動がある。
・夜間あるいは早朝に症状が悪化する。
・アレルゲン、ホコリへの曝露、運動などにより症状が悪化する。
・気流制限の変動がみられる。
・喘息あるいはアレルギーの家族歴がある。
・胸部X線所見で異常がない。
<COPDらしい病歴>
・40歳以降で症状が発現している。
・治療の有無にかかわらず症状が持続する。
・調子の良い日と悪い日とがあるが、常にある程度の症状が続いている。
・誘因とは無関係の慢性的な咳嗽や喀痰貯留がある。
・持続的な気流制限がみられる。
・喫煙などの曝露がある。
・胸部X線撮影で肺過膨張がみられる。
軽症〜中等症に相当する喘息/COPD/ACOにおける治療
・喘息もCOPDも吸入薬が治療の基本である。また、これらの疾患の治療では症状や増悪といった情報をもとに段階的に治療法を変更するアプローチが用いられる。
・喘息では初期治療として吸入ステロイド(ICS)の導入を行う。ICSは喘息増悪のリスクを軽減し、長期にわたる呼吸機能の低下を抑制する。また、ICSを中止した喘息患者では治療を継続した患者よりも将来的な増悪リスクが高いことも示されている。LABAはICSまたは他の治療薬で十分な症状コントロールが得られない場合でICSに併用する形式で使用される。ICS/LABAは重症な増悪を経験した喘息患者などにおいて、ICS単剤による治療と同等に安全であることが示されているが、一部の患者におけるLABAによる潜在的なリスクがあるという見方もある。
・COPDではLABA and/or LAMAが初期治療として推奨される。COPDにおけるLABAあるいはLAMAの単剤での使用は呼吸機能、自覚症状、QOLを改善し、増悪リスクや入院率を低下させる可能性が示されている。LABA単剤による治療は喘息と異なり、COPDでは安全と考えられている。しかし、COPDにおける気管支拡張薬の安全性のうち、特に心血管系への影響については議論の余地があるとされている。FDAはCOPDに対するICSの単剤での使用を推奨しておらず、あくまで十分な気管支拡張薬の使用をしているにもかかわらず、増悪を経験するCOPD患者においてICS/LABAの併用療法が推奨される。
・ACOでは適切な第一選択の薬剤に関するエビデンスが限られている。ACOにおいてICS単剤による治療が有効化どうかは不明であるが第一選択薬として使用されることもある。また、安全性の観点からLABA単剤による治療も回避することが無難と思われる。COPDの存在が示されていて、なおかつ血中または喀痰中の好酸球増多、アトピー素因などの喘息らしい特徴を有するケースでは気管支拡張薬にICSを追加して継続することを多くの専門家は提唱する。もちろん禁煙、ワクチン接種、呼吸リハビリテーションなどの非薬物療法も重要。
(※PMID: 30077690より引用)
重症に相当する喘息/COPD/ACOにおける治療
・重症の喘息/COPDではICS/LABA/LAMAによる3剤併用療法(triple therapy)が必要になることがある。
・COPDでは3剤併用療法は2剤併用療法やプラセボによる治療と比較して、有害事象を増加させることなく、呼吸機能や増悪率を改善させることが示されている。ある研究では3剤併用療法は肺炎の発症リスクを増加させることなく、チオトロピウム(スピリーバ®(LAMA))単剤による治療と比較して中等症~重症のCOPDの増悪率を20%減少させることが示されている。同様に、喘息においてICS/LABAにチオトロピウム(LAMA)を併用することで呼吸機能と増悪率の改善が示されている。なお、喘息でよく研究されているのはチオトロピウムのみであり、他のLAMAに相当する薬剤が同様に有効かどうかは不明である。
・モノクローナル抗体製剤(IgEおよびIL-5に対する抗体製剤)はそれぞれ重症のアレルギー性疾患/好酸球性疾患に有効であることが示されていて、特に末梢血好酸球増多や呼気NO濃度上昇などの好酸球性気道炎症が示唆されるケースで有用とされている。またACOにも有効である可能性がある。実際、オマリズマブ(抗IgE抗体製剤)は喘息患者のコントロール、QOLを改善させることが示されていて、ACOの特性を有するケースでもポジティブな効果が示されている。好酸球性気道炎症の存在が示唆されるCOPDのケースではベンラリズマブ(抗IL-5抗体製剤)が自覚症状と増悪率を改善させる傾向にあることが示されている。
・PDE-4阻害薬であるロフルミラストはCOPDでFEV1が予測値50%未満、慢性気管支炎、頻回な増悪歴のある患者において呼吸機能と増悪率を改善させることが示されている。また喘息患者においても同様にポジティブな結果が示されつつある。
・長期的なアジスロマイシン(AZM)の使用はCOPD患者において、増悪率の低下と関連していて、禁煙をしている増悪頻度の高い患者において推奨される。ただし、喘息におけるマクロライドの有効性を明らかにするために実施されたシステマティックレビューではプラセボ薬に比して有効性は示さないという結論に至っている。ただし、研究デザインやサンプルサイズの問題もあるという見方もあり、現在はACOのケースでは増悪頻度が高い場合においてマクロライドの使用を考慮することができることとなっている。
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<参考文献>
・Maselli DJ, Hardin M, Christenson SA, Hanania NA, Hersh CP, Adams SG, Anzueto A, Peters JI, Han MK, Martinez FJ. Clinical Approach to the Therapy of Asthma-COPD Overlap. Chest. 2019 Jan;155(1):168-177. doi: 10.1016/j.chest.2018.07.028. Epub 2018 Aug 2. PMID: 30077690; PMCID: PMC6688980.