血管性浮腫 angioedema
血管性浮腫
・血管性浮腫(Angioedema)とは典型的に突発的に顔面(特に眼瞼)、口唇、手足などの限局した範囲に出現する、粘膜下組織または皮下組織の浮腫のことである。
病態/分類/疫学
・血管性浮腫はヒスタミンを介するタイプ、ブラジキニンを介するタイプに大別が可能で、一般的にはヒスタミン介在性の血管性浮腫が典型的である。
・ヒスタミン介在性のタイプでは通常、蕁麻疹を伴い、原因と鑑別診断は蕁麻疹と同様である。蕁麻疹は通常24~48時間以内に消失し、誘因としては食物、ラテックス、虫刺症などが挙げられる。ヒスタミン介在性のタイプではH1受容体拮抗薬(H1RA)、コルチコステロイドなどの治療薬剤に反応性が良好である。
・一方で、ブラジキニン介在性のタイプでは通常、蕁麻疹を伴わず、またヒスタミン介在性のものと比較して重症で、持続時間が長く、腹部症状(腹痛など)が併存しやすい傾向にある。口唇などにおける腫脹は2~5日間ほど続く場合もある。また、ブラジキニン介在性のタイプのなかには遺伝性血管性浮腫(HAE: Hereditary angioedema)、薬剤性血管性浮腫が含まれる。
・薬剤性血管性浮腫の原因薬剤としてはACE阻害薬が有名で、ブラジキニンが蓄積することに起因している可能性が示唆されている。ACE阻害薬を内服している患者の0.1~0.7%で血管性浮腫を経験するとされていて、特に内服開始30日間においてリスクが高い。しかし、1年以上内服を続けているケースでも血管性浮腫が生じる場合もある。なお、ACE阻害薬による血管性浮腫を経験した患者のほとんどが、血管性浮腫を生じることなくARBを安全に使用できることが示されている。
・そのほか、薬剤性血管浮腫の原因薬剤としてはカルシウム拮抗薬(CCB)、NSAIDs(NSAIDs不耐症)などが知られている。
・遺伝性血管性浮腫は一般人口約50,000人に1人が罹患する疾患で、通常は小児期から若年で発症する。遺伝性血管浮腫にはⅠ型とⅡ型とがあり、前者が85%を占める。Ⅰ型ではC1-インヒビター(C1-INH)の機能レベルが低く、Ⅱ型ではC1-INHの機能レベルは正常か高い状況にある。
・また遺伝性血管浮腫は”遺伝性”と銘打たれているが、約25%が孤発性で、家族歴がみられなくても否定はできない。
・なお、後天性C1インヒビター欠損症という病型も存在して、こちらの一部はSLEやMGUSを背景疾患として有する場合がある。
臨床症状
・主に浮腫は顔面領域(96%)、特に眼瞼(66%)や口唇(41%)などで目立つことが多い。そのほか四肢(11%)、舌(3%)、外性器(1%)でもみられる場合もある。
・喘鳴や嗄声がみられる場合は喉頭浮腫を反映しているかもしれず、気道確保を有する状況に変わる場合があり、注意を要する。
・遺伝性血管浮腫における浮腫がみられる一般的な部位は腕、下肢、手足である。
検査所見
・そのほか、遺伝性血管性浮腫(HAE)ではC1-インヒビター(C1-INH)遺伝子の機能異常が関係しているケースが存在する。また、遺伝性血管浮腫を疑う場合にはC4値、トリプターゼ値が診断の補助になる場合がある。
・C4はC1インヒビター欠損症の優れたスクリー二ングツールとして知られる。発作時にC4が正常であれば、C1インヒビターの分析に進む必要はないと考えられている。
・血清トリプターゼは遺伝性血管浮腫Ⅰ型/Ⅱ型ではともに正常であり、アナフィラキシーまたは血管性浮腫を呈する他の肥満細胞介在性疾患では上昇する場合がある。
治療
・血管性浮腫を疑うケースにおいて、アナフィラキシーを示唆する徴候がみられる場合にはアドレナリン筋注を行う。
・ヒスタミン介在性の血管性浮腫が想定される場合、H1受容体拮抗薬(H1RA)、H2受容体拮抗薬(H2RA)、コルチコステロイド(例:mPSL 60mgなど)の使用が検討される。ブラジキニン介在性の血管性浮腫ではこれらの薬剤の有効性は比較的乏しいが、禁忌には相当しないため、病因の推定が困難な場合にはこれらの薬剤の投与を検討する。
・遺伝性血管性浮腫に対してはC1-インアクチベータ製剤(ベリナート®)が有効性が示されている。
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<参考文献>
・Moellman JJ, Bernstein JA, Lindsell C, Banerji A, Busse PJ, Camargo CA Jr, Collins SP, Craig TJ, Lumry WR, Nowak R, Pines JM, Raja AS, Riedl M, Ward MJ, Zuraw BL, Diercks D, Hiestand B, Campbell RL, Schneider S, Sinert R; American College of Allergy, Asthma & Immunology (ACAAI); Society for Academic Emergency Medicine (SAEM). A consensus parameter for the evaluation and management of angioedema in the emergency department. Acad Emerg Med. 2014 Apr;21(4):469-84. doi: 10.1111/acem.12341. PMID: 24730413; PMCID: PMC4100605.