低マグネシウム血症

マグネシウムの役割とその調節

・マグネシウム(以下Mg)は細胞機能とシグナル伝達の調節において重要な役割を担っている。

・体内には約25gのMgが存在し、主に骨組織軟部組織とに貯蔵される。

・細胞内におけるMgの90~95%結合型として存在していて、遊離Mgとして存在するのは全体における1~5%程度に過ぎない

・Mgは①腸管におけるMg吸収骨におけるMg貯蔵腎でのMg排泄 と主に3つの臓器で調節されていて、これらの臓器への影響により血清Mg異常が生じる。

・Mgは主に穀類、ナッツ類、豆類、緑黄色野菜などに多く含まれる。食事で摂取されるMgのうち、30~40%程度腸管で吸収される。なお、腸管での吸収に影響を及ぼす因子としては腸管内pH、ホルモン(エストロゲン、インスリン、FGF23、PTHなど)、腸内細菌叢などが知られている。

・腎においてMgは近位尿細管で20%程度しか再吸収されないが、約70%がヘンレのループ上行脚で再吸収される。

・Mgは骨の主要成分でもあり、体内のMg総量の約60%が骨に貯蔵される。Mgを多く摂取することでヒドロキシアパタイトは増加するが、これは加齢に伴う骨折や骨粗鬆症リスクを減少させるうえで重要。

低マグネシウム血症

・成人の血清Mgの基準値は1.7~2.4mg/dL(0.7~1.0mmol/L)とされている。

・低Mg血症は全体の3~10%でみられ、特に2型糖尿病(10~30%)、入院患者(10~60%)、ICU入室患者(65%以上)でその頻度が高い。

・低Mg血症は主に不十分な食事摂取(intakeの不足)、腸管からの喪失量の増加、腎における再吸収量の減少、細胞内シフトにより生じ得る。

・低Mg血症の原因は通常は病歴から明らかな場合が多い。しかし、原因が判然としない場合は24時間Mg排泄量の測定などの方法で腎由来の喪失腸管由来の喪失とを区別する場合もある。

・低Mg血症では傾眠、筋痙攣、筋力低下などの非特異的な症状を呈する場合がある。特に血清Mg値<1.2mg/dLでは神経筋異常(痙攣、振戦など)、心血管異常(心房細動、TdP、QT延長、血管収縮など)、代謝異常(インスリン抵抗性、軟骨の石灰化など)などが生じやすくなる。

・通常は低Ca血症、低K血症、代謝性アルカローシスなどの異常が併存する。

・低Mg血症に低K血症が併存している場合、入院の増加や死亡率の上昇に関係することが示唆されている。また、難治性の低K血症では低Mg血症が関連している場合があり、Mgの補充が完了した後に、低K血症が改善傾向に転じる場合もある。

・低Mg血症ではPHTの放出を抑制し、なおかつ腎におけるPTH感受性を低下させる。その結果、低Ca血症を合併する場合もある。ときにMgの補充が完了した後に、低Ca血症が改善傾向に転じる場合もある。

薬剤性の低Mg血症

抗菌薬、利尿薬、生物学的製剤、免疫抑制剤、PPI、化学療法など、様々な薬剤により低Mg血症を惹起し得る。

PPIの長期使用により低Mg血症が生じることは知られていて、用量依存性に生じる。また、PPI使用患者の約20%でみられるという報告もある。PPIによる腸内細菌叢の変化などが原因として考えられている。

薬剤以外の原因による低Mg血症

・低Mg血症はアルコール使用障害のケースで最もみられやすい。これはMg摂取量の不足に加えて、腸液の喪失、アルコール性の腎尿細管障害に起因すると考えられている。なお、アルコール使用障害のケースにおける低Mg血症の存在はしばしば肝機能障害と関連していて、肝疾患の予後を悪化させることが知られている。

・低Mg血症は2型糖尿病患者でもよくみられる。その原因としては腎におけるMg再吸収の減少などが想定されている。

遺伝性の低Mg血症

・Mg輸送経路とその調節をコードする遺伝子の変異を同定することで、家族性低Mg血症を来す疾患が明らかになる場合がある。このようなケースでは低Ca血症がみられ、これは副甲状腺の細胞内Mg濃度が低いためにPTH分泌が障害される副甲状腺機能低下症により説明が可能。

Gitelman症候群は主にNCC遺伝子の変異により生じる、慢性的な低Na血症を伴う疾患である。この症候群における低Mg血症の原因は現時点で明らかとなっていないが、NCC遺伝子の異常により生じる遠位尿細管の異常で、Mg再吸収が低下する可能性も想定されている。

・そのほか詳細は割愛するが、様々な遺伝子異常による影響が示唆されている。

Mgの補正

・低Mg血症の補正に関するガイドラインはないが、基本的に補正法は臨床症状の有無(症候性か否か)重症度によって決める。

軽度の低Mg血症は内服薬で補正し、本邦では主に酸化マグネシウムが使用される。

・内服治療に抵抗性がある場合は補助的にトリアムテレン(トリテレン®)、SGLT2阻害薬を使用することも検討可能。トリアムテレンは腎尿細管におけるNaチャネルの阻害により、結果として血清Mg濃度を上昇させると考えられている。またSGLT2阻害薬も有効性が示唆されていて、特に糖尿病患者において血清Mg濃度を上昇させやすい。なお、これらの薬剤が低Mg血症を改善させる機序は完全には理解されていない。

非経口治療内服治療に抵抗性があるケースや、テタニーや痙攣を伴うケース不整脈がみられるケース血行動態が不安定なケースなどで適応となる。

・Mgの静注製剤として硫酸マグネシウム(硫酸マグネシウム補正液1mEq/L®)が使用可能。急速静注により血圧低下を来す場合があり、可能であれば、緩徐に静注する。また、炭酸塩、リン酸塩、カルシウム塩などを含む製剤と混合するすると沈殿が形成されるため、注意する。

 <投与の一例>

 ・緊急性が高いとき:硫酸Mg補正液1mEq/L 20mL を5~10分間程度かけて静注

 ・緊急性が低いとき:硫酸Mg補正液1mEq/L 20mL+生食50mL を1時間程度かけて点滴静注

Mg製剤が治療薬となる疾患

・Mg製剤が治療薬として有効な疾患は多くはないが、そのなかにTdP(Torsades de Points)、喘息増悪、子癇前症/子癇が含まれる。

・β遮断薬に抵抗性を示すTdPではMg製剤の使用を検討する。

・喘息におけるMg製剤が有効なケースがあるのは、恐らく気管支平滑筋のCaチャネル遮断が関与していて、気管支拡張をもたらすことによる。

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<参考文献>

・Rhian M, et al. Magnesium Disorders. N Engl J Med, 2024; 390:1998-2009.

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