糖尿病性ケトアシドーシス/高血糖高浸透圧症候群 Diabetic ketoacidocis/Hyperosmolar hyperglycemic syndrome
DKA、HHSとは
・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA:Diabetic ketoacidocis)とは主に1型糖尿病などのインスリン依存状態の患者において、感染症や清涼飲料水の多飲などの誘引を契機に発症し、高度なインスリン欠乏状態とインスリン拮抗ホルモンの増加により、高血糖、ケトーシス、アシドーシスを呈する状態である。DKAの検査における典型的な所見は①血糖値>250g/dL ②pH<7.3 ③ケトーシスが存在 である。ただし、あくまで指標に過ぎず、全てを満たすとは限らず、総合的判断を要する。2型糖尿病患者でも、清涼飲料水の多飲により清涼飲料水ケトアシドーシスを来すことがある。
・高血糖高浸透圧症候群(HHS:Hyperosmolar hyperglycemic syndrome)はインスリン非依存状態の患者において脱水や感染症などを契機に発症して、著明な高血糖と高度な脱水により血漿浸透圧高値、循環不全を来す状態である。HHSの検査における典型的な所見は①血糖値>600mg/dL ②血漿浸透圧>350mOsm/dL ③pH>7.3, HCO3->18mEq/L である。ただし、前述のDKAと同様に、全てを満たすとは限らない点に留意する。
・臨床的にDKAとHHSとを明確に区別できないケースもときに経験され、病態や所見が互いにオーバーラップしていることもある。
DKA/HHSの病態生理
<DKAの病態生理>
・感染症などの誘引により、重度のインスリン欠乏状態とインスリン拮抗ホルモンの増加により、リパーゼが活性化され、循環する遊離脂肪酸の量が増加する。過剰な遊離脂肪酸は肝におけるミトコンドリアで、アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸とに変換され、ケトーシスおよび代謝性アシドーシスを生じさせる。
・高血糖状態とケトーシスとの両者が浸透圧利尿を惹起し、糸球体濾過量の減少を来す。浸透圧利尿により、Na、K、Ca、Mg、Pなどの尿中排泄が促進し、電解質異常が出現する。
・循環血液量減少によって、さらに糸球体濾過量は減少し、血中グルコースおよびケトン体の腎におけるクリアランスがさらに低下し、代謝性アシドーシス、高血糖状態などが助長される。
<HHSの病態生理>
・HHSはDKAとは異なり、浸透圧利尿による脱水の程度が重度であり、著明なケトーシスは伴わないことが典型である。
・血中インスリン濃度がDKAと比べると保たれていることが、ケトーシスを伴いにくいことの理由と思われる。
・HHS患者は腎機能障害の進行、脱水による代謝性アシドーシスを来す場合がある。
DKA/HHSの発症の誘因
<DKAの誘引>
・イギリスでDKAが原因で入院した患者283人を対象とした調査では、DKAの誘引として最多は感染症(45%)、次いで不適切なインスリン投与(投与し忘れなどを含む)(20%)であった。その他の原因としては新規に発症した糖尿病(劇症1型糖尿病など)、アルコールや薬剤(SGLT2阻害薬、ステロイド、サイアザイド、CCB、β遮断薬、フェニトインなど)による影響などが挙げられた。口渇などの糖尿病症状の出現から1週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドーシスとなるような経過の場合には劇症1型糖尿病が存在する可能性を想定する。
<HHSの誘引>
・HHSは主に2型糖尿病患者で、特に高齢者において合併することが多い。
・誘引としては肺炎(40~60%)、尿路感染症(5~16%)、脳血管障害、心筋梗塞、外傷などの急性疾患が挙げられる。
・また加齢に伴い口渇を感じにくくなる影響で、適切な水分補給がなされない場合がある。そして、そのことが原因で脱水が進行し、HHSが生じる場合がある。
臨床症状/臨床検査
・DKAでは口渇、多飲/多尿、悪心/嘔吐、腹痛、視覚障害、意識障害、頻脈、頻呼吸、呼気にアセトン臭を伴うクスマウル呼吸などがみられることがある。
・DKAで蓄積されるケトン体の主体はβ-ヒドロキシ酪酸であるが、尿定性検査(ニトロプルシド法)では反応しないため、尿定性でケトン体が仮に陰性であってもDKAは否定できない。
・DKAの20~30%で血清アミラーゼ、リパーゼが上昇するが、必ずしも膵炎とは限らず、総合的判断を行う。
DKAの重症度
・DKAの重症度は”高血糖の程度”というよりも、”意識レベル”と”アシデミアの程度(pH)”とで規定される。したがって、臨床的には”意識レベルの評価”と”呼吸数の増加(代謝性アシドーシスを代償するための過呼吸)”の評価が重要である。
・アメリカ糖尿病協会(ADA)による重症度分類では”軽症”を「血糖値>250g/dL」「pH 7.25~7.30」「意識清明」と、”中等症”を「血糖値>250g/dL」「pH 7.0~7.25」「意識レベル:清明~傾眠」と、”重症”を「血糖値>250g/dL」「pH<7.0」「意識レベル:昏迷~昏睡」とそれぞれ定義している。
・なお、SGLT2阻害薬による副作用としても知られる正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(euDKA)では血糖値 100g/dL台でのDKAであることもあり、判断を血糖値だけに依拠しないことが大切である。
DKA/HHSの急性期管理
<共通事項>
・DKA、HHSの管理において、輸液投与、電解質補正、インスリン投与が共通する。DKAとHHSとの管理は概ね同様であるが、DKAではインスリン補充が、HHSでは脱水の補正が特に重要である。
・治療を進めると同時並行で、誘引の特定とそちらに関する対処を進めることが重要。しかし、誘引の特定に時間を費やすことにより、治療が遅れることがないように注意する。
・急性期管理の方法(例:輸液の投与速度)は国ごとのガイドラインでも多少の違いはあるため、以下に示す内容はあくまで一例である。
<DKA/HHSの管理>
・DKAの管理目標としては、脱水の是正、電解質異常の是正および予防、アシドーシスの是正、高血糖の是正が挙げられる。
<補液>
- 初期輸液には生理食塩水を選択し、最初の1時間で1,000mL程度の投与を行う。ただし、心不全などの併存疾患も加味して総合的判断を要する。なお、インスリン投与前に細胞外液補充を先行させることが基本。
- 初期の1時間の輸液を行った後は、患者の血行動態や電解質の状態に応じて適宜調整を行うが、目安として250~500mL/hr程度で補液は維持する。もしも初期の1時間の補液を終えた後に血清Na値が正常あるいは高値の場合には0.45%生理食塩水(通称”half生食”)への切替えも考慮する。なお、0.45%生食(half生食)の作り方としては「注射用水500mL+10%NaCl 24mL」「生食と蒸留水を500mLずつ混ぜる方法」が挙げられるが、煩雑に感じられるようであれば1号液で代用することもあると思われる。
- DKAであれば血糖値 200mg/dL程度、HHSであれば血糖値 300mg/dL程度まで低下したら、”5%ブドウ糖+0.45%生食”(1号液で代用する場合もある) 150~250mL/hrに変更する。適宜、繰り返し超音波検査、身体所見などから体液バランスの評価、心機能などの評価を行い、補液の量やスピードを調整することが大切。
<カリウム補正>
・血清カリウムはおおむね4~5mEq/L程度を維持するように調整する。
・血清カリウム>5.2mEq/Lではカリウム投与は中止し、血液検査フォローとする。
・血清カリウム 3.3~5.2mEq/Lでは補液1Lあたり20~30mEqのカリウムを混注して、持続投与を行う。
・血清カリウム<3.3mEq/Lではインスリン投与は開始しないか、もしも開始している状況であれば一時的に中止して、カリウム補正を優先する。
<インスリン投与>
・DKA管理におけるインスリン投与の第一の目標は脂肪分解とケトン体産生を止めることにある。、また、インスリン投与によりグルコースのみならず、カリウム、自由水が細胞外から細胞内へシフトするため、そのことによる体液量の変化や低カリウム血症の出現などが生じないかに注意する必要がある。したがって、インスリン投与よりも補液の開始を優先して、低カリウム血症(<3.3mEq/L)が存在しないことを確認してから、インスリン投与を開始するべきという見方も存在する。
・インスリン投与についてはヒューマリンRあるいはノボリンRを使用する。
・実際の投与に際しては「0.1U/kgでbolus投与後に、0.1U/kg/hrで持続静注」か、あるいは「0.14U/kg/hrで持続静注で開始」とする場合がある。
・インスリン投与1時間後に血糖値が10%低下しない場合には0.14U/kgをbolus投与し、それまでと同量の持続投与を継続する。
・DKAでは血糖値 200mg/dLに到達したら、0.02~0.05U/kg/hrへ減量し、ケトアシドーシスの改善に至るまで血糖値150~200mg/dLの範囲での調整を図る。HHSでは血糖値 300mg/dLに到達したら、0.02~0.05U/kg/hrへ減量し、意識状態の改善に至るまで血糖値 200~300mg/dLの範囲での調整を図る。
<Basalインスリンの併用>
・英国のガイドラインではDKAの管理中、患者の平時の投与量でBasalインスリンを継続することを推奨している。またインスリン治療歴がないケースの場合は0.25U/kgの用量でBasalインスリン投与を開始することを推奨している。
・一方で、急性期は血糖が安定しない場合もあるため、Basalインスリンの併用は控えることを勧める見方もある。
<強化インスリン療法への切替え>
・アシドーシスが改善し、経口摂取ができる状況に変われば、インスリン持続静注から強化インスリン療法、つまり各食直前の超速効型インスリン、就寝前の持効型インスリンの皮下注に切り替えることを検討する。
・持続静注投与から皮下注射に切替える際には血糖のリバウンドを防ぐために持続投与中止をする時刻の2時間前から皮下注射を投与する。なお、皮下注射の投与量は持続静注中止6時間前の投与量を参考にして決定する。
<リン酸塩の補充>
・インスリン投与によりリンも細胞内へシフトするため、低リン血症が生じる場合がある。
・リン酸塩の過剰補充は低カルシウム血症を惹起する場合があり、注意を要するが、アメリカ糖尿病協会(ADA)は血清リン<1mg/dLのケースや、低リン血症によると思われる心機能障害、貧血、呼吸抑制などがみられるケースにおいて、20~30mmolのリン酸塩を投与することを推奨している。
・リン酸塩製剤としては「リン酸Na補正液」が存在する。用法の一例としては「リン酸Na補正液 0.5mmol/L 20mL+生食50mL 3時間程度かけて点滴静注」などがある。
<炭酸水素ナトリウムの投与>
・DKAにおいてはpH 7.0を下回らない状況では炭酸水素ナトリウムの使用は推奨されていない。実際、炭酸水素ナトリウムの投与により、ケトーシスが一時的に悪化したり、血清カリウム値の補充の必要性が高まるというエビデンスも存在する。
・アメリカ糖尿病協会(ADA)ではpH<7.0の場合には100mmol(100mEq)の炭酸水素ナトリウムを2時間程度かけて緩徐に投与することを推奨している。
正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(euDKA)
・近年ではSGLT2阻害薬による血糖高値が目立たないような糖尿病性ケトアシドーシスの発症に注意喚起がなされている。
・euDKAの誘引としても感染症、不適切なインスリン使用(休薬や減量など)、低糖質食、手術などが挙げられた。
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<参考文献>
・Karslioglu French E, Donihi AC, Korytkowski MT. Diabetic ketoacidosis and hyperosmolar hyperglycemic syndrome: review of acute decompensated diabetes in adult patients. BMJ. 2019 May 29;365:l1114. doi: 10.1136/bmj.l1114. PMID: 31142480.
・ElSayed NA, Aleppo G, Aroda VR, Bannuru RR, Brown FM, Bruemmer D, Collins BS, Hilliard ME, Isaacs D, Johnson EL, Kahan S, Khunti K, Leon J, Lyons SK, Perry ML, Prahalad P, Pratley RE, Seley JJ, Stanton RC, Gabbay RA, on behalf of the American Diabetes Association. 16. Diabetes Care in the Hospital: Standards of Care in Diabetes-2023. Diabetes Care. 2023 Jan 1;46(Suppl 1):S267-S278. doi: 10.2337/dc23-S016. PMID: 36507644; PMCID: PMC9810470.
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