関係性の継続性を欠く場合に、継続的かつ連携したプライマリケアの経験に影響を与える要因
・論文名:Factors affecting the experience of joined-up, continuous primary care in the absence of relational continuity: an observational study
要約
・背景:関係性の継続性がない場合、優れた臨床医であれば診療記録を確認しさえできれば、連携的で継続的なケアを行うことが可能と思われがちである。
・目的:異なるスタッフなどによりケアが提供されるシステム(つまり関係性の継続性がない状況)において、連携的で継続的なケアの提供に関する患者自身の経験に影響を与える要因を探索する。
・方法:2021年09月~2022年01月にかけて、英国北部の2つの施設でケーススタディを実施。主に患者と医療従事者のinteractions、患者を含めたインタビュー結果などのデータを収集。
・結果:連携的で継続的なケアは、スタッフ、患者、システムの各々の要因により影響を受けることが示唆された。
・結論:関係性の継続性がない場合、優れた臨床医であれば診療記録を確認しさえできれば、連携的で継続的なケアを行えるという前提は実際には成り立っていない可能性が示唆される。この結果は一般診療所を含む、その他の環境でも検証する必要性が高い。
はじめに
・ケアの継続性は良質なプライマリケアを提供するうえで重要な要素とされている。一般的に引用されることが多いHaggertyモデルでは継続性を、
①Relational continuity(関係性の継続性:患者と医療提供者との間の継続的な関係性)
②Informational continuity(情報の継続性:臨床医と患者が医療を可能にする情報に適切にアクセスできること)
③Management continuity(マネジメントの継続性:長期にわたり、また場合によっては異なるprovidersにより、医療的なマネジメントが統合的で一貫性があるか)
という風に3つの要素に大別した。このモデルでは各々の要素間に相互作用があり、常にクリアカットに分類できるわけではないことも同時に示している。
・関係性の継続性の向上が、健康上の良好な転帰に影響するという関連性を示す根拠は多く存在する。また、情報へのアクセスの改善や、臨床医間の連携の改善などが、健康アウトカムを改善させるというエビデンスも複数ある。
方法
・2021年09月から2022年01月にかけて実施され、英国北部の2地点で実施。
・患者は医療機関の予約を取得していて、予約は対面式診療と電話式診療とが混在しちえて、日常的な相談と緊急的な相談内容とが混在していた。
・本研究はSnakeのケーススタディの方法論に則って実施された。データ収集には11人の臨床医(地点Aでは6人、地点Bでは5人)と、30時間にわたり患者と医療従事者とのやり取りを観察し、スタッフおよび患者に対するインタビュー(地点Aでは24人、地点Bでは23人)などが実施された。
・データ収集とデータ分析とは同時進行で行われ、対照的な特徴をもつ2つの現場(地点A、地点B)を利用することで、一方での現場で生まれた仮説や理論などを、もう一方の現場で検証することができた。得られた知見についてはチームミーティングで定期的に議論し、帰納的推論、演繹的推論を用いて、継続性に影響を与える要因のモデルを作成した(本文のFigure 1に相当)。
結果
・ケアの継続性の経験に関係する要素が図表化された(本文のFigure 1)。主に「臨床医とスタッフとの要因」、「患者の要因」、「システムの要因」とに大別して理解される。
<臨床医とスタッフとの要因(Clinician and staff factors)>
・患者のケアに関わるスタッフは、患者の経験するシームレスで継続的なケアの形成において大きな役割を担う。臨床医の態度、知識、経験は、患者が受けるケアが過去や将来のエピソードとどのようにリンクするかを形成する(これはManagement continuityに関連する)。
・臨床医は患者の疾患などをどのようにケアするかについて知っておかねばならないため、知識は重要。しかし、地域の医療システムについての知識や経験もなければ、医学的知識が豊富であっても、患者にシームレスなケアを提供できない可能性がある。
・患者の認識(perceptions)という言葉についてであるが、現場にいる者やその人自身がどのように認識しているかにより、人々(臨床医を含む)は異なる行動を採るという考え方があり、社会学の分野では”Role performance(役割遂行:行動や自己表現のパターンが、周囲の状況や規範、期待に関連して変化するという考え方)”と呼ばれている。たとえば、臨床医が患者に以前の治療について把握していることを示すために、たとえその治療経緯が現在の診療に厳密には関連しなくても、把握していることを示すような質問やコメントをする。これは患者に継続性を感じさせる可能性がある。
・非臨床スタッフも患者のケアに役立っている。非臨床スタッフにとって、臨床的な知識はさほど重要でないが、その他の要因(システムに関する知識や経験、診療上の態度、問題に関してオーナーシップをもつ感覚など)はスタッフと患者のInteractionsがどのように展開されるかという点に影響を及ぼす可能性が高い。
<患者の要因(Patient factors)>
・継続性に関する患者自身の経験は患者ごとに異なるため、患者の期待はその経験を形成するうえで重要な役割を持つ。たとえば他の臨床医やスタッフが既に行った質問を、別の臨床医が改めて繰り返した場合に、そのことを患者がどのように感じるかは患者ごとで異なり、それを面倒なことと捉えることもあれば、気にもとめないようなこともある。
・患者が自分自身の医療に関する情報を把握していることが、継続性の経験の向上に寄与することがある。患者自身が医学的な問題について深く理解していることで、より適切なマネジメント計画を立てることができ、不要な投薬や再検査を避けられる可能性がある。
・頻繁に転居するような患者は新しく関わることとなる医療者に診療情報を提供することとなり、継続的なケアを経験することは難しくなる場合がある。
<システムの要因(System factors)>
・医療システムの要因は患者が継続性を経験することにおいて大きな影響を与える。
・患者のケアに関わるスタッフや組織の数は患者の継続性や、患者にシームレスなケアサービスを提供しようとするスタッフの能力にも影響を与え得る。さらにスタッフの離職は継続的で連携的なケアに影響を与え得る。新しく入職したスタッフなどはシステムを十分に知らないこともあり、スタッフの入れ替えは混乱を招きかねない。離職率の低下はシステム要因として重要。
・次回の予約の場所、タイミング、方法なども重要。患者が遠方まで出向かなければならないなどの事情などが患者がうける治療に影響を与える場合がある。
――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Burch P, Whittaker W, Bower P, Checkland K. Factors affecting the experience of joined-up, continuous primary care in the absence of relational continuity: an observational study. Br J Gen Pract. 2024 Apr 25;74(742):e300-e306. doi: 10.3399/BJGP.2023.0208. PMID: 38325892; PMCID: PMC10877618.