下肢DVT患者におけるリハビリ開始
はじめに
・下肢の深部静脈血栓症(DVT)が判明した患者において、リハ開始についてどのように考えればよいかについてまとめてみます。
・早期リハ開始により、肺血栓塞栓症(PE)の発症リスクが高まることを懸念することもあると思いますので、現状の推奨やエビデンスなどを確認してみました。
DVTの理学療法に関する、ガイドラインの推奨
・まずは「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」を参照すると「DVTの理学療法」に関して以下のような記載がなされています。
<DVTの理学療法に関する推奨とエビデンスレベル>
- DVTの初期治療において抗凝固療法が行えた場合にはベッド上安静よりも早期歩行を推奨する(推奨クラスⅡa/エビデンスレベルB)
- PTEの合併がないDVTの患者で、全身状態、下肢症状、家庭環境、病院環境が適しているならば外来治療を推奨する(推奨クラスⅡa/エビデンスレベルA)
- DVTの症状改善のために弾性ストッキングを着用させる(推奨クラスⅡb/エビデンスレベルC)
- 静脈性潰瘍など重症のPTS患者に弾性包帯の装着、弾性ストッキングを着用させることを推奨する(推奨クラスⅠ/エビデンスレベルA)
- DVTのPTS予防のために画一的に弾性ストッキングの着用を長期間継続させる(推奨クラスⅢ/エビデンスレベルB)
・なお、PTSとは血栓後症候群(post-thrombotic syndrome)のことで、静脈うっ滞が続くことにより生じる静脈性潰瘍や慢性静脈不全などを指す概念です。
・また、上記の⑤の項目は推奨クラスⅢですので、平たく言えば有害性を伴い得るプラクティスと考えられているということです。
下肢DVT患者のリハビリ開始の検討
・前述のガイドラインを参照にすると、例えば入院セッティングであれば、抗凝固療法が行えている状況において、ベッド上安静でなく、早期歩行の開始が推奨されていることとなります。
・実際、ベッド上安静と早期歩行開始とで、新規の肺血栓塞栓症(PE)の発生率を比較した研究では統計学的有意差がないことが示されています。むしろ、統計学的有意差は示されてはいませんが、早期歩行開始群の方が新規のPEおよび新規のDVTの発生率はより低い傾向にあることも示されています。
・ただし、ガイドラインでは上記に加えて、”下肢疼痛が強くない、巨大な浮遊血栓を伴わない、全身状態が良好などの好条件が揃うならば”、抗凝固療法下に早期から歩行/離床させることを推奨するという風な表現での記載がなされています。この部分に引用文献はありませんが、臨床的な感覚からしても、これらの条件は満たしていることを確認してからの離床が望ましいようには思います。その観点からは超音波検査で器質化を示唆する所見があるかどうかなどの確認を起こっておくことが無難と感じられました。
・また血栓の器質化あるいは血栓の縮小が確認されるまでは膝関節および股関節のROM訓練は禁止しておくことが無難とする報告もあり、こちらも参考になります。
抗凝固療法下でのPEへの進展
・抗凝固療療法を行っていても、致死的なPEが0.1%程度発生したという報告もありますので、そのリスクを理解しておくことは重要です。
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<参考文献>
・Aissaoui N, Martins E, Mouly S, Weber S, Meune C. A meta-analysis of bed rest versus early ambulation in the management of pulmonary embolism, deep vein thrombosis, or both. Int J Cardiol. 2009 Sep 11;137(1):37-41. doi: 10.1016/j.ijcard.2008.06.020. Epub 2008 Aug 8. PMID: 18691773.
・Kahn SR, Shrier I, Kearon C. Physical activity in patients with deep venous thrombosis: a systematic review. Thromb Res. 2008;122(6):763-73. doi: 10.1016/j.thromres.2007.10.011. Epub 2007 Dec 21. PMID: 18078981.
・Callaghan JJ, Dorr LD, Engh GA, Hanssen AD, Healy WL, Lachiewicz PF, Lonner JH, Lotke PA, Ranawat CS, Ritter MA, Salvati EA, Sculco TP, Thornhill TS; American Colleg of Chest Physicians. Prophylaxis for thromboembolic disease: recommendations from the American College of Chest Physicians--are they appropriate for orthopaedic surgery? J Arthroplasty. 2005 Apr;20(3):273-4. doi: 10.1016/j.arth.2005.01.014. PMID: 15809941.
・富雄正推, 佐藤隆一:下肢DVT下でのリハビリテーション治療-整形外科疾患. Jon J Rehabil Med 2021; 58:724-730.
・伊藤正明:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2017年改訂版) (2024年04月13日閲覧).