inductive foragingとtriggered routine(プライマリケアにおける臨床推論)

はじめに

・臨床推論の方法としては例えばthreshold model(閾値モデル)、仮説演繹モデル、Pivot and cluster strategyなどが知られていますが、プライマリケアの現場における臨床推論に関わる概念としてはInductive foragingTriggered routineとの2つが知られています。

・ある報告によると、医師が患者の話を遮るタイミングの中央値は開始から11秒とされています。このことによる本来得られるはずであった重要な病歴が得られず、診断エラーにつながったり、結果として患者の問題解決に至らなかったりという可能性が高まると思います。また、そもそも医師と患者のコミュニケーション不足はそれ自体が再入院のリスク因子とされている点にも留意したいところです。

Threshold model

・日本語では「閾値モデル」という名前で知られていて、1980年にPaukerらが提唱した概念です。

・threshold modelは、医師が何らかの疾患に関する検査や検査を行うかどうかを決める際に、それぞれの判断閾値を超えると考えた場合には検査や治療を実施し、超えないと考えた場合には検査や治療を実施しないという風に考えるアプローチを指します。

・threshold modelは患者でなく、医師にフォーカスが当たっていることに特徴があります。換言すれば、患者は受動的な存在(passive party)とも捉えられるモデルであり、患者が臨床現場における意思決定に参加しているとはいいがたいという批判もあります。

・またthreshold modelを考えるうえで重要なことは診療セッティングごとの検査前確率が大きく異なっている可能性があるということです。たとえば、プライマリケアという診療セッティングでは胸痛を自覚する患者のなかで急性冠症候群(ACS)の割合は1.5~3.0%程度という報告もあります。この数字を小さいと捉えるか、大きいと捉えるかは個人差があるとは思いますが、少なくとも例えば三次救急医療機関において胸痛を主訴に救急搬送されてくる患者群ではさらにACSの割合が大きいことが容易に予想できます。もしかすると重篤な疾患の検査前確率が比較的低いプライマリケアの現場においてはthreshold modelの有用性は比較的限定性が高いかもしれません(もちろん致命的な疾患の除外は重要です)。

・またプライマリケアの現場における健康問題は既存の疾患分類では捉えきれない場合も多く経験されるという事実もあります。

Inductive foraging

・プライマリケアにおける診療を分析した研究では、具体的な疾患仮説を立てる前に、Inductive foragingと呼ばれるプロセスが存在してることが判明しています。

・平たく言えば、Inductive foragingとは医師が話を遮らない状況において、患者が症状やそれに関連した内容を徒然なるままに語ってもらうことです。1つ目の参考文献の本文には「易疲労感と抑うつ気分とを伴って受診した63歳男性が、最近シャツのボタンがかけにくくなったと私に話してくれた」というものや、「定年退職した元配管工の67歳男性が、最近頻繁に咳嗽が出るということで受診した。スパイロメトリー検査を行うべきだろうかと考えていた私は、その後に彼は地元のブラスバンドで定期的にチューバを吹いている情報を聞き逃しそうになった」というような具体例が紹介されています。この具体例を読むとInductive foragingがどういうものかということや有用性が実感しやすいように思います。

・冒頭で紹介したようように、医師は患者の話を遮るまで11秒程度という報告もあり、遮ってしまうと患者は受動的な態度に変わってしまい、あとは医師のClosed questionのみに回答するほかない状況に変わることが多いです。Inductive foragingは患者が主体で、能動性が高いという点が特徴ともいえます。

Triggered routine

・前述のInductive foragingにより、診断や問題解決に繋げるための取っ掛かりを認識できたところで、医師はTriggered routineと呼ばれるプロセスを踏むことが知られています。

・Triggered routineとは例えば嘔吐を伴う患者に対して、腹痛や排便習慣などについての聴取を行うようなことを指します。

・ポイントはTriggered routineを医療面接の序盤で繰り出さないことと思います。あくまでInductive foragingを先行させた後に、Triggered routineのプロセスに移行することが肝心なのだと理解していて、Triggered routineはInductive foragingありきの概念と思います。

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<参考文献>

・Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach. Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358. doi: 10.1370/afm.2264. PMID: 29987086; PMCID: PMC6037523.

・Mauksch LB. Questioning a Taboo: Physicians' Interruptions During Interactions With Patients. JAMA. 2017 Mar 14;317(10):1021-1022. doi: 10.1001/jama.2016.16068. PMID: 28291896.

・Auerbach AD, Kripalani S, Vasilevskis EE, Sehgal N, Lindenauer PK, Metlay JP, Fletcher G, Ruhnke GW, Flanders SA, Kim C, Williams MV, Thomas L, Giang V, Herzig SJ, Patel K, Boscardin WJ, Robinson EJ, Schnipper JL. Preventability and Causes of Readmissions in a National Cohort of General Medicine Patients. JAMA Intern Med. 2016 Apr;176(4):484-93. doi: 10.1001/jamainternmed.2015.7863. Erratum in: JAMA Intern Med. 2016 Oct 1;176(10):1579. PMID: 26954564; PMCID: PMC6900926.

・Haasenritter J, Biroga T, Keunecke C, Becker A, Donner-Banzhoff N, Dornieden K, Stadje R, Viniol A, Bösner S. Causes of chest pain in primary care--a systematic review and meta-analysis. Croat Med J. 2015 Oct;56(5):422-30. doi: 10.3325/cmj.2015.56.422. PMID: 26526879; PMCID: PMC4655927.

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