免疫関連有害事象 irAEs

irAEsとは何か

・免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)は、従来の細胞障害性化学療法とは薬力学的・薬物動態的に大きく異なる副作用を示す。

・ICIsの投与により腫瘍以外の正常細胞に対する免疫介在性の反応が出現し得る。このような反応は「免疫関連有害事象(immune-related adverse events, irAEs)」と呼ばれる。

・irAEsはあらゆる臓器に影響を及ぼし得る。これはモノクローナル抗体による免疫分子の標的化によって誘発される自己免疫疾患(autoimmune diseases, ADs)のスペクトラムの一部に含まれる。

・irAEsの標準的な分類法は、「Common Terminology Criteria for Adverse Events, CTCAE」に基づいている。CTCAEでは、臓器ごとに分類された有害事象が、重症度に応じて1(軽度)から5(死亡)までの5段階に分類される。

・さらに、個々のirAEの頻度は、ICIsの薬理学的クラス(例:CTLA-4阻害薬、PD-1/PD-L1阻害薬)単剤・併用投与の別によっても異なる。CTLA-4とPD-1/PD-L1は異なる機能を持つため、それぞれに特徴的な臓器特異的irAEの頻度にも違いがある。

・以下は代表的な所見である:

  1. 抗CTLA-4抗体(例:イピリムマブ):大腸炎、下垂体炎、膵炎、神経障害が多い
  2. 抗PD-1/PD-L1抗体:甲状腺炎、白斑、心筋炎、関節炎が多い

・個別の薬剤ごとにみると・・

  1. イピリムマブやトレメリムマブ:皮膚、消化管、腎臓のirAEsが多い
  2. ペムブロリズマブ:関節、肺、肝臓のirAEsが多い
  3. ニボルマブ:内分泌系のirAEsが多い

・単剤治療における臓器特異的irAEの頻度は通常10%未満である。大腸炎、甲状腺炎、下垂体炎、白斑10%程度に達する報告もあるが、それ以外のirAEは概ね5%未満である。

・一貫した知見として、併用療法(例:イピリムマブ+ニボルマブ)では、ほとんどのirAEの頻度が単剤療法の2〜4倍に増加する。

・また、基礎となる癌の組織型によっても、臓器特異的irAEの頻度は変動し得る。

・たとえば黒色腫患者では、皮膚(白斑など)および消化管のirAEが多く、肺障害(肺炎)は少ない。また、非小細胞肺癌患者では、肺のirAE(肺炎など)の頻度が高いなどといった特徴がある。

irAEの発症時期

・irAEの発症時期は、ICI治療の開始から数日後に起こる場合もあれば、1年以上経過してから起こる場合もある。

・irAEは治療開始から最初の4週間の間に生じるリスクが、その後の期間と比べて3倍高い

・全体の約7%のirAEは、治療開始から1年以上経過してから発症している

・発症時期ごとの典型的なirAEは以下の通りである:

①初月(0〜1か月):皮膚irAEが最多

1〜2か月:消化管および肝臓のirAE

③2〜3か月:内分泌irAE

④3か月以降:腎臓irAE

・なお、治療終了後にirAEが発現することもある。

障害臓器と致死率

・irAEの多くは重篤ではないが、一部は不可逆的な臓器不全を引き起こす場合がある。

・たとえば・・・

  1. 内分泌irAE(例:下垂体炎)は、永続的なホルモン補充療法が必要になることがある
  2. 肺irAEは、不可逆的な線維性肺障害を引き起こすことがある
  3. 重度の大腸炎では、まれに結腸摘出が必要となる場合もある

・irAEは、約10%の症例で急性かつ生命を脅かすイベントとして発現する可能性がある。全体の致死率は0.3〜1.3%とされており、症状出現から死亡までの中央値は1か月(併用療法においては2週間)である。

・薬剤クラスごとの致死率の推定値は以下の通り:

  1. PD-1/PD-L1阻害薬:0.4%
  2. CTLA-4阻害薬:1.1%
  3. 併用療法:1.2%

・irAEのうち、最も致死率が高いのは心筋炎(46%)である。そのほか、重症筋無力症、筋炎、ギラン・バレー症候群なども生じ得る。これらが生じるクラスターは予後不良である。

irAEのリスク因子と予測因子

・化学療法に関連する有害事象(AEs)は、累積投与量や臓器予備能と関連することが多いのに対し、irAEはその予測がより困難である。

・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)導入時における、いくつかの人口統計学的特性、免疫学的特徴、基礎疾患の有無などが、irAEの予測因子として検討されてきた。

・一部の研究では、若年者におけるirAE発生率が高いことが示されているが、年齢による明確な差を認めなかった研究もある。臓器別では、内分泌・消化器のirAEは若年者に多く、皮膚・心肺系のirAEは高齢者に多い傾向がある。

・大多数の研究では性差は報告されていないが、内分泌系(特に甲状腺)、心疾患、皮膚irAEは女性に多く、下垂体炎は男性に多いとされる。

・一部の研究では、肥満者はirAEを発症しやすい可能性があると示唆されている。

・特定の行動習慣と臓器特異的irAEとの関連が示唆されており、例えば間質性肺疾患(ILD)は喫煙と、膵炎はアルコール摂取と関連している。

・自己免疫疾患(AD)を有する患者は、ADのない患者と比較して、irAEの発症リスクが2倍に達する。リスク増加の要因としては既存のADがICIによって再燃(flare)する可能性や、他臓器に新たなirAEを発症しやすい遺伝的素因などが考えられている。

・過去の研究によると、irAEの43%は既存ADの再燃または増悪であり、特にPD-1/PD-L1阻害薬投与後に多くみられる。一方、新規に発生するirAEはCTLA-4阻害薬でより多く認められる。

・また、無症候性で自己抗体を保有している場合、irAEの発症リスクが高まる。例えば、抗甲状腺抗体を保有していると甲状腺炎のリスクが上昇する可能性がある。

・また、特に慢性B型肝炎患者では、肝炎の再燃リスクが高く、注意が必要である。

irAEが疑われる場合の検査

・臓器特異的irAE(たとえば、血球減少、肝炎、腎炎、筋炎、内分泌障害)は、無症候性の患者においても検査異常として出現する可能性がある。

・irAEの発現を評価するために推奨されるルーチン検査には以下が含まれる:

  1. 全血球計算(complete blood count, CBC)
  2. 肝機能検査(AST, ALT, ALP, γ-GTP, ビリルビンなど)
  3. 血清クレアチニンと電解質
  4. 甲状腺機能検査(FT4およびTSH)

・加えて、臨床的な疑い程度に応じて他の検査も検討する。

・モニタリングの推奨頻度は以下の通りである:

  1. 単剤免疫療法の場合:投与ごと、または4週間ごと
  2. 併用療法の場合:週1回

・もしも検査異常が認められた場合、以下の観点から慎重に評価すべきである:  

  1. 基礎疾患であるがんに関連した変化の可能性
  2. 感染症など他の病態による可能性

免疫学的検査(例:抗核抗体、リウマトイド因子、特異的自己抗体など)は、特定の自己免疫疾患が疑われる場合に限り、内科医が実施すべきである。なお、がん患者では、臨床的な自己免疫症状がない場合でも、これらの自己抗体が陽性となることがしばしばある。

・無症候性患者に対するルーチンでの画像検査は推奨されないが、特定のirAEが疑われる場合は以下を実施する:

  1. 心筋炎疑い:心電図、心エコー、心臓MRI
  2. 肺炎(pneumonitis)疑い:胸部CT
  3. 下垂体炎・脱髄性疾患疑い:脳MRI
  4. 筋炎疑い:筋肉MRI

・全身性irAE(サルコイドーシス、血管炎、炎症性筋疾患など)が疑われる場合も画像評価が必要になる。

・また、18F-FDG PET/CTは、がんの進行評価において重要であるが、irAEの部位や重症度の評価にも有用であり、とくに多臓器や全身性の病変が疑われる症例では有効である。

irAEに対するマネジメント

・irAEのマネジメントは、従来のがん治療における有害事象管理とは異なる。

・irAEマネジメントにおける2つの重要なポイントは以下の通りである:

  1. 免疫抑制療法の要否を評価すること(有害事象の重症度に基づいて判断)
  2. ICI治療の継続・中止の判断を行うこと

・現在のガイドラインでは、CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)分類に基づき、有害事象の重症度ごとに治療を調整することが推奨されている。

  1. グレード1:症状の管理と慎重な観察
  2. グレード2:中等量のグルココルチコイド投与
  3. グレード3および4:高用量のグルココルチコイド+免疫抑制薬の併用を検討

・ただし、CTCAEによる重症度分類では不十分な場合があり、特に複雑または全身性の症例では、症例ごとの多角的評価が推奨される。

・より強力な免疫抑制治療を選択するかどうかの判断は、以下の因子に基づいて行う:

  1. 日常生活に重大な支障を来す症状の有無
  2. 主要臓器の重篤な機能障害や不可逆的損傷のリスク
  3. 死亡のリスク

・ICI治療を継続するか中止するかの最終的な判断は、腫瘍内科医によってなされるべきである。

・通常、多くのケースで一時的に治療が中断される

・irAEによる毒性が十分に軽快(グレード1以下、かつステロイド換算でPSL 10 mg/日未満)すれば、再開を検討可能

・以下のような場合には、治療の恒久的中止が検討される:

  1. 重篤あるいは生命を脅かすirAE
  2. 再発性irAE
  3. 3か月以内に改善しない中等度irAE

・臨床ガイドラインでは、以下のirAEに対して恒久的な治療中止を推奨している:

  1. グレード3または4の皮膚水疱性、肝臓、膵臓、肺、腎、眼、神経筋系irAE
  2. グレード2〜4の脳炎および心筋炎
  3. グレードに関係なく、ギラン・バレー症候群および脊髄炎

薬物治療

グルココルチコイドは、ほとんどの免疫関連有害事象(irAEs)に対する第一選択の治療薬である。ただし、内分泌系のirAEについては例外があり、甲状腺または下垂体の急性炎症を伴うごく限られた症例を除いて、グルココルチコイドの使用は推奨されない。

・免疫抑制薬は、主にステロイドの用量を減らすための補助薬として使用される。これらの薬剤の中で、どれが最も有効で安全かを示す直接比較試験は存在せず、明確な選択基準はない。

・状況によって静注免疫グロブリン(IVIG)、血漿交換療法が選択される。

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<参考文献>

・Ramos-Casals M, Sisó-Almirall A. Immune-Related Adverse Events of Immune Checkpoint Inhibitors. Ann Intern Med. 2024 Feb;177(2):ITC17-ITC32. doi: 10.7326/AITC202402200. Epub 2024 Feb 13. PMID: 38346306.

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