異文化感受性発達モデル

異文化感受性発達モデル(DMIS)

異文化感受性発達モデル(DMIS; Developmental Model of Intercultural Sensitivity)はMilton Bennettによって1986年に提唱され、以降も改訂が重ねられてきた、異文化コミュニケーション・エンゲージメント・公平性の分野で広く影響を与えているモデルである。

「Bennett Scale」とも呼ばれ、人が文化の違いをどのように経験し、解釈し、関わるのかを説明し、文化の多様性をより深く理解し、円滑な異文化関係を築くための発達的な道筋を示している。

・DMISは、数十年にわたる学術研究や学校・コミュニティ・組織における異文化の実地観察に基づき形成されている。

・なお、Bennettは以下のように述べている。「文化の違いに対する知覚的な捉え方が複雑になるにつれて、文化の経験はより洗練され、異文化関係における能力発揮の可能性が高まる。文化の違いがどのように経験されているかを理解することで、異文化コミュニケーションの効果を予測でき、発達を促す教育的介入も可能になる。」

・また、Bennettは2004年に次のように述べている。「長年にわたり、さまざまな人々が異文化なシチュエーションにうまく対処したり、逆に全くうまくいかなかったりする様子を観察してきた。その結果、なぜ異文化コミュニケーション能力が発達するのか、あるいはしないのかを説明したいと考えるようになった。そうすることで、教育者や研修担当者がより良い支援を提供できると考えた。」

・DMISは、親子の関わり、熟議対話、人種的公平性、組織の多様性など幅広い分野で実践者に活用・適用されている。

・DMISは、異文化感受性と異文化コミュニケーションに関する6つの発達段階を示している。

・その6段階とは以下の通りである。

  1. 否認(Denial)
  2. 防衛(Defense)
  3. 最小化(Minimization)
  4. 受容(Acceptance)
  5. 適応(Adaptation)
  6. 統合(Integration)

・これらの段階は、個人・集団・組織にも当てはまり、ただし評価方法は対象によって異なる。

・また、DMISは「文化の違いに対する2つの基本的な志向性」を区別する。

  1. エスノセントリズム(Ethnocentrism):「自文化が現実の中心であり、当たり前だと考える志向」
  2. エスノリラティビズム(Ethnorelativism):「自文化も多様な文化の一つに過ぎず、他文化も同等に有効だと捉える志向」

・エスノセントリックな段階では、文化の違いを否定・防衛・軽視し、エスノリラティブな段階では、文化の違いを受容・適応・統合していく傾向にある。

①否認(Denial)

文化の違いを認識できず、あるいは無関係と見なす段階。

・他文化を「外国人」「移民」「アジア人」など曖昧で画一的なカテゴリーにまとめたり、知性や努力といった先天的特性の欠如として文化の違いを否定的に捉える。

・教育現場においては「彼らの家庭は教育を重視していない」といった偏見が表れる。

・多くの場合、悪意はなくとも無知ゆえに他者を傷つけ、差別的な見方を支持する傾向がある。

②防衛(Defense)

文化の違いを「我々 vs 彼ら」として捉え、自文化を他文化より優位に置いたり、偏見や差別の議論に被害者意識で反発する段階

・教育現場では公平な教育資源配分に反対する保護者の抗議活動などが該当する。

③最小化(Minimization)

自文化の価値観が普遍的だと考え、文化の違いを無視・軽視する段階。

・「人間は皆同じ」などの発言が典型例です。

・表面的な多文化理解にとどまり、本質的な文化の違いや偏見の議論を避ける傾向がある。

④受容(Acceptance)

文化が価値観や行動様式を形作ることを理解し、他文化の視点や背景を尊重できる段階(例:LGBTQ+学生グループの設立支援など)。

・なお、受容は他文化に賛同・同調することではなく、存在とその意義を認めることを意味する。

⑤適応(Adaptation)

他文化の視点を理解し、感情面でも知的にも共感でき、異文化間で自然かつ適切に交流できる段階。

・Bennettは「相互適応(mutual adaptation)」と呼び、単なる同化(assimilation)とは異なり、元の文化的アイデンティティを保ちながら異文化環境に効果的に適応することを強調している。

⑥統合(Integration)

自らのアイデンティティが多文化的に拡張され、状況に応じて異なる文化的枠組みを使い分けられる段階。

・この段階は、異文化環境で長期間生活する人や、多文化的な背景を持つ人に多く見られる。

・教育現場では、多文化的・多言語的なカリキュラムや多様な教職員構成が、この段階の発達を促進する。

関連概念

①退行(Retreat):

・通常、DMISは一方向に進行するが、文化の違いへの不安や批判的な指摘を受けることで、防衛段階へ逆戻りする場合がある。

②逆転(Reversal):

・自文化を過度に否定し、他文化を理想化する段階。

・表面的な他文化賛美と、自文化に対する未熟な自己批判が特徴で、例えば「すべての白人は抑圧者」といった極端な見方がこれに該当する。

―――――――――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・Avtor Aadnja posodobitev. Developmental Model of Intercultural Sensitivity. Najboljsa Spletna Igralnica. https://organizingengagement.org/models/developmental-model-of-intercultural-sensitivity/

 (閲覧: 2025年06月24日)

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です