Bow hunter症候群

Bow hunter症候群

・Bow hunter症候群とは頚部回旋による椎骨動脈(VA)、後下小脳動脈(PICA)の血流不全をきたし、それに伴って失神などの症状をきたす症候群を指す。

・比較的稀で、保存的加療で対処されることもあるが、外科的治療を要するケースもある。

分析

・1952年から2011年11月までに、43編の論文が124例について報告していた。

・最大規模の報告では、頸椎下位(C3–7)が原因であるものが20例、C1–2が原因であるものが17例であった。

・本研究では結果として合計126例を分析対象とした。

疫学

・2例の小児症例、3例の思春期症例、および121例の成人症例が報告されている。

・狭窄部位は、C7より近位の椎骨動脈V1セグメントが5例(4%)、C3〜C7のV2セグメントが73例(58%)、C1–2のV3セグメントが45例(36%)、C1より遠位のV4セグメントが3例(2%)であった。

・典型的な発症年齢は50〜70歳代であり、V1での発症年齢は平均54±7歳、V2は57±12歳、V3は53±18歳であった。

・全成人の診断時平均年齢は57±11歳であった。

・性別比は全体で男性:女性=2:1であり、V1では80%、V2では74%、V3およびV4では61%が男性であった。

・VAの狭窄は左右ほぼ均等に分布し、左側が49.5%、右側が36.7%、両側性が13.7%であった。

・小児例では、C1–2の骨性奇形や後頭下部骨隆起(suboccipital bony protuberance)によるVA圧迫が認められた。

・頚椎下位では、肥厚した鈎椎関節(uncovertebral joint)の骨棘による圧迫が最多であり、まれに外側椎間板ヘルニアによる圧迫もみられた。

・その他、上位横突起の前根と下位椎体の上関節突起の剪断によるVA圧迫、VAの慢性解離、椎骨前走行異常によるVAのC4での横突孔進入に起因する圧迫、線維性バンドおよび狭小な斜角椎骨角(scalenovertebral angle)によるV1セグメントでの動的閉塞も報告されている。

・多くは自然発症であるが、外傷後に発症する例も報告されている。

・診断までの期間は中央値で12か月(範囲:1週間〜20年)であった。

症状

・Bow hunter症候群は定義上、頸部回旋によって誘発される可逆性症状を呈する。

・最も多く報告された症状は、失神、失神前症状(near-syncope)、ドロップアタック(drop attacks)、めまい(vertigo)、浮動感(dizziness)、視覚障害(impaired vision)であった。

・その他、運動麻痺(paresis)、神経学的欠損(deficits)、疼痛(pain)も報告されている。

検査

・評価には、動的血管造影(dynamic angiography)、デジタルサブトラクション血管造影(DSA)、CT血管造影(CTA)、MR血管造影(MRA)(いずれも3次元再構成を含む)、頭蓋外および頭蓋内ドップラー超音波(extracranial and transcranial Doppler sonography)、単一光子放射断層撮影(SPECT)が用いられていた。

・実際的には超音波検査での椎骨動脈血流低下、MRAやCTAでの椎骨動脈圧排所見を確認することがある。

治療

 <保存的加療>

・治療戦略が記載されていた116例のうち、合計9例(8%)は初期に保存的治療を受けていた。

・このうち4例では、外科的治療が推奨されたにもかかわらず、患者が保存的治療(頸椎カラー装着、過度の頸部回旋を避ける、アスピリン服用)を選択した。

・別の1例では、症状がカイロプラクティック操作のような極端な頸部回旋時のみ誘発されるため、保存的治療が選択された。

・さらに別の患者では、Bow hunter症候群が対側VAの解離(dissection)によって生じ、解離が再開通(recanalization)すると症状が消失した。

 <血管内治療/バイパス手術>

・2例ではステント留置が行われた。

・うち、1例では、椎骨動脈(VA)近位部の動脈硬化性狭窄(ostial atherosclerotic stenosis)と頸椎下位でのVA狭窄が併存しており、近位部動脈硬化性狭窄へのステント留置後に灌流圧が上昇し、頸椎下位の狭窄を乗り越えた結果、症状が消失した。

・もう1例では、PICA-PICA間のバイパス術が施行された。

 <減圧術>

・治療戦略が記載されていた116例のうち、85例(73%)で減圧術が行われた(V1:5例中4例(80%)、V2:63例中52例(83%)、V3/V4:48例中29例(60%))。

・追跡データが得られた75例中65例(87%)では症状が改善または消失していた。

・一方で、6例(8%)では症状が残存または持続していた。

・残存症状として、めまい、片麻痺、浮動感、失神発作の持続が挙げられている。

・1例ではC1–2の追加固定により症状が改善した。4例では症状が再発し、うち2例は追加固定術、1例は抗凝固療法、1例は同一部位の2度の減圧術および他部位での追加減圧術により改善した19,25。さらに、C1–2不安定性のため、1例が追加固定術を受けている。

 <固定術>

・C1–2またはそれより遠位で狭窄を認めた48例中13例(27%)が固定術を受けていた。

・C1–2固定は減圧術単独と比較しても良好な成績を示した。

・C1–2固定は、特に高度の関節不安定性(atlantoaxial instability)を伴う症例で有用とされた。

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<参考文献>

・Jost GF, Dailey AT. Bow hunter's syndrome revisited: 2 new cases and literature review of 124 cases. Neurosurg Focus. 2015 Apr;38(4):E7. doi: 10.3171/2015.1.FOCUS14791. PMID: 25828501.

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