クネビンフレームワーク
クネビンフレームワークの構成要素
・クネビンフレームワーク(The Cynefin Framework)は、組織や政策立案における意思決定を支援するために設計されたセンスメイキング(sense-making)ツールである。
・クネビンフレームワークの価値はそれを使用する人々の意思決定能力や状況理解力を高める点にある。
・目的は特定の状況や問題に対して共通理解を形成し、不確実性の中で意思決定を支援することである。
・クネビンフレームワークには、以下の5つの主要な領域が存在する。これらは、状況に応じて異なる意思決定モデルを必要とする。
<秩序領域(Ordered Domain)>
・Known(既知)/Simple: 因果関係が明確であり、再現可能で予測可能な領域。標準的な手順やベストプラクティスが適用可能。
・Knowable(知り得る)/Complicated: 因果関係は存在するが、時間や空間にまたがるため完全に把握するには専門知識が必要な領域。
<非秩序領域(Un-ordered Domain)>
・Complex(複雑): 因果関係は存在するが、それは後から振り返ってはじめて理解できるものであり、予測が困難。パターンをマネジメントし、新たな意味を見出すことが求められる。
・Chaos(混沌): 因果関係がまったく見いだせず、状況が急速に変化する領域。即時の介入が必要。
<Disorder(無秩序)>
・上記4つの領域のいずれにも分類できない状況。意思決定者が異なる視点や価値観を持ち、共通理解が形成されていない状況。
・これらの領域は固定されたものではなく、状況に応じて動的に変化する。
・特に、秩序領域から非秩序領域への移行や、その逆の移行には特別な注意が必要である。
・例えば、「Complex(複雑)」から「Chaos(カオス)」への移行には、即時的かつ適応的な対応が求められる一方で、「Known(既知)」から「Knowable(知り得る)」への移行にはより段階的な理解が必要である。
・Harvard Business Review. A Leader’s Framework for Decision Making. 2007.にわかりやすい図が提示されている。
クネビンフレームワークの適用
・クネビンフレームワークは、単なる理論的な枠組みではなく、組織が直面する複雑な問題に対する意思決定支援ツールとして機能する。
・特に、不確実性が高く、従来の手法では対処が難しい状況において、その効果が発揮される。
・フレームワークを活用することで、組織は状況の特性に応じた適切な対応戦略を選択できるようになる。
・これにより、既知の問題に対しては標準的な手法を適用し、未知の問題に対しては探索的なアプローチを採用することが可能となる。
・組織が新たな状況に適応し、継続的に学習するための枠組みとしても利用される。
・既存の知識が通用しない複雑な状況においては、過去の経験や「ベストプラクティス」に頼るのではなく、新たなパターンや意味を見つけ出すことが求められる。
・このプロセスは、探索(Probe)、認識(Sense)、対応(Respond)のサイクルを通じて実現される。
・フレームワークは、リーダーが異なる状況に応じて適切な意思決定スタイルを選択するためのガイドとしても機能する。
・例えば、秩序領域においては「命令型」のリーダーシップが有効である一方、複雑領域では「促進型」のリーダーシップが求められる。
・Chaos(カオス)領域においては、迅速な行動と決断力が必要であり、状況の安定化を図るために即座に介入する必要がある。
・不確実性や混乱が避けられない現代において、組織は迅速かつ柔軟に対応する力を求められる。
・クネビンフレームワークは、このような状況に対するレジリエンス(回復力)を高めるためのツールとしても有効である。
・異なる領域間での移行がスムーズに行えるよう、状況の変化に対する早期の察知と適応が求められる。
・フレームワークは、複数のステークホルダーが異なる視点や価値観を持つ場合においても、共通理解を形成するための重要な手段となる。
・特に、組織内での合意形成や集団意思決定の場面で、その有効性が発揮される。
・異なるドメインでの経験や知識を持つメンバーが、共通の言語で状況を評価し、意思決定を行うことが可能となる。
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<参考文献>
・Kurtz CF, Snowden DJ. The new dynamics of strategy: Sense-making in a complex and complicated world. IBM systems journal. 2003; 42(3): 462-483.
・Harvard Business Review. A Leader’s Framework for Decision Making. 2007.