治療負担理論 Burden of Treatment Theory
目次
要約
・治療負担理論(Burden of Treatment Theory)は患者とその支援ネットワークが医療システムとどのように相互作用し、その中でどのように治療作業を実行するかを理解するための構造的モデルである。
・この理論は、患者が直面する病いの負担(burden of illness)と治療の負担(burden of treatment)がどのようにキャパシティ(capacity)に影響を与えるかに焦点を当てている
<1. 社会的ネットワークとキャパシティ>
・患者が治療に取り組む能力は、その患者が属する社会的ネットワークの強度と質に大きく依存する。これには、以下の要素が含まれる。
- 関係性(Relationality):支援者との相互作用と関係の強度
- 社会資本(Social Capital):情報や物質的な支援へのアクセス
- 社会的スキル(Social Skill):他者と協力し、支援を引き出す能力
・これらの要素は、患者が治療に取り組む際の基本的なリソースであり、これらが強固であれば、患者のキャパシティも高まる。
<2. キャパシティの動員と作業の実行>
・患者のキャパシティは、以下の4つの主要な領域で動員される。
- 意味づけ(Sense-making):治療計画や症状の理解と内在化
- 認知的参加(Cognitive Participation):治療に対する積極的な関与と責任の共有
- 集団的行動(Collective Action):支援ネットワークとの協力による作業の実行
- 反射的モニタリング(Reflexive Monitoring):治療成果の評価と計画の再調整
・これらの要素は相互に関連し合い、患者が治療に取り組むための基本的な枠組みを形成する。
<3. 構造的レジリエンスとキャパシティの維持>
・患者が長期にわたり治療に取り組むためには、その支援ネットワークの構造的レジリエンス(structural resilience)が重要である。
・これは、以下のような要素によって構成される。
- ネットワークの安定性:支援者の継続的な関与とネットワークの維持
- 社会的スキルの強化:他者と協力し、支援を引き出す能力
- 社会資本の拡充:情報や物質的な支援の確保と効果的な活用
・これらの要素が強固であるほど、患者のキャパシティは安定し、治療成果も向上する可能性が高い。
<4. 構造的脆弱性とキャパシティの低下>
・一方で、キャパシティが低下すると、以下のような問題が発生する可能性がある。
- 治療負担の増大:複雑な治療計画に対する抵抗感や自己管理の困難さ
- ネットワークの崩壊:支援者の喪失や関係の断絶
- 社会的孤立:孤立感や心理的ストレスの増加
・これらの要因は、患者のキャパシティをさらに低下させ、治療成果を悪化させる可能性がある。
<5. 改善のための戦略>
・患者のキャパシティを維持し、治療成果を向上させるためには、以下のような取り組みが求められる。
- ネットワークの再構築:新たな支援者の発掘や関係の再構築
- 心理的支援の強化:孤立感の軽減や精神的なサポート
- 情報の共有と更新:治療に関する知識や情報の定期的なアップデート
・これらの取り組みは、患者が治療に積極的に取り組むための基本的な基盤であり、キャパシティの向上に直接寄与する。
<6. 結論>
・治療負担理論は、患者とその支援ネットワークが医療システムとどのように相互作用し、その中で治療に取り組むかを理解するための重要な枠組みを提供する。
・この理論は、患者のキャパシティが単なる身体的・認知的能力にとどまらず、社会的ネットワークや環境要因にも大きく依存していることを示している。これにより、患者の治療成果を向上させるための新たな介入戦略の設計が可能になる。
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背景
・1940年代後半、アメリカの社会学者タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons)は、「病者役割(sick role)」というモデルを提唱した。
・このモデルは、患者と医師の関係が個人的で私的なものであるとする考え方に基づいており、医学教育や臨床実践において長く受け入れられてきた。
・しかし、パーソンズがこのモデルを提案した時期から既に、この関係は大きく変わりつつある。
・特に1970年代以降のグローバルなバイオメディカル産業の拡大、そして生命科学と技術革新の発展により、医療提供の形態は劇的に変化した。
・これにより、患者は単なる受動的な存在から、より積極的に自身の健康を管理し、複雑な自己管理や電子媒体を活用する存在へと変わっていった。
・こうした変化は、患者が単に医師の指示に従うだけでなく、自己効力感(self-efficacy)、自己管理能力(self-management)、モチベーションを維持することが求められる新しい患者像を生み出した。
治療負担と自己管理
・現代の医療は、患者が単に病気の症状に耐えるだけでなく、治療そのものが負担となる現実を反映している。
・特に、慢性疾患や多疾患併存(multimorbidity)の患者にとって、この治療負担は重要な課題である。
・患者は、複雑な治療計画の遵守や自己モニタリング、健康状態の自己管理に加え、自己効力感や動機付けを維持する必要がある。
・これらの要求は、患者やその支援者に大きな精神的、身体的負担をもたらす可能性がある。
構造的な変化と患者の役割
・現代の医療システムは、これらの役割を再定義し、患者により大きな責任を求めるようになっている。
・具体的には、患者は症状の再発を防ぎ、病気の進行を抑えるための「日常的な作業(patient work)」を求められるようになった。
・これは、「再設計された患者像(re-engineered patient-hood)」とも呼ばれる新しい患者像であり、患者は単なる受動的な存在から、能動的な「共同生産者」や「協力者」へと転換している。
患者と社会的ネットワークの重要性
・患者が治療負担に対処する能力(capacity)は、その個人だけでなく、家族や友人といった社会的ネットワークにも依存している。
・これらのネットワークは、物理的、心理的、感覚的な支援を提供し、患者が治療計画を実行する上で重要な役割を果たしている。
・特に、高齢者や慢性疾患を持つ患者にとって、これらのネットワークの存在は、治療の成功や生活の質に大きな影響を与える。
・社会的ネットワークの規模や強度は時間とともに変化し、支援の度合いも異なるため、これらのネットワークの維持は容易ではない。
構造的レジリエンスと患者のキャパシティ
・患者が治療に取り組む能力は、単に個人の機能的なパフォーマンスに依存するだけでなく、社会的スキルや社会資本(social capital)にも大きく依存する。
・これには、他者との協力関係を築き、維持する能力や、必要な情報や物資を得るためのネットワークを利用する能力が含まれる。
・さらに、患者の回復力(resilience)も重要であり、これは生物学的な破綻や社会的な危機に対処する能力に関わっている。
患者のキャパシティと治療負担
・治療負担理論(Burden of Treatment Theory)は、患者とそのネットワークがどのように医療システムと相互作用し、その中での役割を果たすかを理解するための構造的モデルである。
・このモデルは、患者のキャパシティがどのように治療の負担に影響を与えるかを明らかにする。
・具体的には、以下の要因がキャパシティに影響を与える。
- 患者自身の身体的および心理的な能力
- 社会的ネットワークの強度と質
- 医療提供者の管理方針やサービスへのアクセスのしやすさ
・これらの要因が組み合わさり、患者のキャパシティが高まるかどうかが決定される。
・さらに、これらのキャパシティがどのように医療の利用や治療の成果に影響を与えるかを理解することが、より良い患者支援につながる。
キャパシティの動員
・患者とその社会的ネットワークが医療サービスと効果的に関わるためには、キャパシティ(capacity)の動員が不可欠である。
・ここでいうキャパシティとは、患者やその支援者が医療システムと相互作用し、治療やケアに必要な活動に参加するための能力を指す。
・これは、単に身体的・精神的な機能だけでなく、社会的なつながりや物質的・認知的な資源も含む広範な概念である。
<1. エージェンシー(Agency)>
・エージェンシーとは、患者やその支援者が健康問題に取り組むために行う一連の行動を指す。
・これは、疾患や障害の身体的、心理的、感覚的な側面が、日常生活への参加や社会的な関係にどのような影響を与えるかに大きく依存する。
・エージェンシーは、個々の患者の状態や能力だけでなく、その人が利用できる物質的・認知的なリソースにも影響される。
・これらのリソースは、患者が医療サービスに積極的に関与し、治療に取り組むための基盤となる。
<2. 関係性(Relationality)>
・エージェンシーが発揮されるかどうかは、患者が属する社会的ネットワークにも依存している。
・これには、患者を支える家族、友人、医療専門家といった「関係性」の要素が含まれる。
・これらの関係性は、患者が治療計画を実行し、健康状態を維持するために必要な支援を提供する重要な役割を果たす。
・孤立した患者:社会的なつながりが乏しい場合、患者は必要な支援や情報にアクセスすることが困難になり、治療への取り組みが制限される可能性がある。特に高齢者や慢性疾患を持つ患者では、関係性が脆弱である場合が多い。
・強固な社会的ネットワーク:一方で、強固な社会的ネットワークを持つ患者は、他者からの支援を得やすく、複雑な治療計画にもより積極的に取り組むことができる。このようなネットワークは、物質的支援だけでなく、心理的な励ましや情報共有の場としても機能する。
<3. 統制(Control)>
・医療提供者や関連機関が患者に提供するサービスの内容は、しばしば厳格に管理されている。
・これには、以下のような要素が含まれる。
- 標準化:診療ガイドラインや技術的な基準に基づく一貫性のあるケア
- 集中化:専門化や効率化を目的とした医療機関の組織再編
- リソース配分:地域や患者の特性に応じた資源の配分
・これらの統制は、患者が医療サービスにアクセスし、適切なケアを受けるための機会に直接影響を与える。
・また、医療機関の運営や政策決定が患者の行動にどのような影響を与えるかを理解することは、治療負担を軽減するための重要な視点である。
<4. 機会(Opportunity)>
・患者が医療サービスに参加するためには、機会も重要な要素である。
・これは、以下の要因に依存する。
- 地理的なアクセス:住居から医療機関への距離や交通手段
- 経済的な要因:治療費や薬剤費への支払い能力
- 時間的な制約:仕事や家族の世話と治療の両立
・これらの要因は、患者が治療に取り組むキャパシティに直接影響を与え、その結果、医療サービスの利用状況や治療成果にも反映される。
<5. キャパシティの動員モデル>
・これらの要素(エージェンシー、関係性、統制、機会)は、患者が医療サービスを利用する際の基本的な枠組みを形成している。
・具体的には、患者やその支援者がどの程度積極的に治療に取り組むかは、これらの要素がどのように相互作用し、強化されるかに依存する。
・これらの関係は、以下のように視覚化することができる。
①エージェンシーは、患者の能力と意欲に基づくものであり、その実現は関係性の支援によって強化される。
②統制は、医療提供者が設定するサービスの枠組みを定義し、患者の行動に制約を与える。
③機会は、患者がこれらの要素を活用するための条件を提供する。
・これらの要素が効果的に組み合わさることで、患者のキャパシティが動員され、治療成果が向上する可能性が高まる。
キャパシティと戦略的アクション
・個々の患者の診断と治療が医学的には妥当であっても、医療利用のダイナミクスを理解する際に、単一の患者のみを分析単位とすることは適切ではない場合がある。
・これは、患者が個別の存在である一方で、家族や友人、その他の非公式な支援者、さらには医療専門職といった社会的ネットワークに取り囲まれているためである。
・これらのネットワークは、患者が治療に取り組む際の支援や意思決定に重要な役割を果たし、しばしば集団として医療資源を利用する能力を形成する。
<1. 拡張された分析単位>
・医療システムの利用に関するダイナミクスを理解するには、患者個人だけでなく、その患者を取り巻く社会的ネットワークも考慮する必要がある。
・これには、以下のような関係が含まれる。
- 家族や友人などの非公式な支援者
- 訪問看護師やソーシャルワーカーなどの医療専門職
- 地域コミュニティや患者会などの社会的支援ネットワーク
・これらのネットワークは、患者が医療サービスを利用する際の意思決定や治療計画の実行において重要な役割を果たす。
・さらに、これらのネットワークは、患者の身体的、認知的、および社会的な能力に影響を与え、治療に取り組む力を増強または制約する要因となり得る。
<2. 知識と信念の共有>
・これらのネットワークは、単に物理的な支援を提供するだけでなく、知識や信念を共有する場としても機能する。
・例えば、健康に関する意思決定は、個々の患者だけでなく、その支援者や家族といったネットワーク全体で行われることが多い。
・これは、「分散意思決定(distributed decision-making)」として知られるプロセスであり、複数の参加者が共通の目標に向かって協力する形で実現される。
例:認知症患者のケアにおいては、患者本人だけでなく、その家族や介護者も含む集団での意思決定が求められる。
<3. 構造的な制約とキャパシティ>
・患者とそのネットワークが医療サービスを利用する際、そのキャパシティは以下の要因によって制約される。
①関係性(Relationality):患者が利用できる社会的ネットワークの規模や強度
②統制(Control):医療提供者が設定する治療計画やケアの枠組み
③機会(Opportunity):患者が医療サービスにアクセスするための物理的、経済的、時間的な条件
・これらの要因は、患者が医療サービスを利用する能力に直接影響を与え、治療結果にも大きく関与する。
・具体的には、患者のキャパシティは、以下の3つの主要な要素に依存する。
①機能的パフォーマンス(Functional Performance):患者が治療計画を実行するための身体的、認知的能力
②社会的スキル(Social Skill):他者と協力し、支援を引き出す能力
③社会資本(Social Capital):社会的ネットワークを通じて得られる情報や資源
<4. キャパシティとネットワークの関係>
・これらの要素は、以下のような関係で相互に影響を及ぼし合う。
・機能的パフォーマンスは、患者の身体的・認知的能力に依存し、これが低下すると他者への依存度が高まる。
・社会的スキルは、患者が周囲の人々と効果的に関係を築く能力に関連し、これが弱いと支援を得ることが困難になる。
・社会資本は、患者が情報や資源にアクセスする能力であり、これが強固であれば治療成果が向上する。
・これらの要素が組み合わさることで、患者やそのネットワークが医療サービスを利用する能力が決まる。
・また、これらの関係は時間とともに変化し、患者が直面する課題や病状の進行に応じて動的に変化する。
<5. 戦略的アクション>
・患者とそのネットワークが医療サービスを利用するためには、単なる反応的な行動ではなく、計画的で戦略的な行動が求められる。
・これは、患者が以下のようなタスクに取り組む際に重要である。
- 物理的および情報的なタスクの実行
- 支援者との関係の構築と維持
- 必要な情報や資源へのアクセス
・また、これらのタスクは、患者が病状の変化や治療計画の変更に対応する際に特に重要である。
・さらに、患者のキャパシティは、社会的ネットワークの支援とリソースの動員に大きく依存するため、これらの関係が強固であればあるほど、患者の治療成果も向上する可能性が高い。
Patient workの構造とパフォーマンス
・患者が日常生活において治療負担に対応するために行う作業は、多岐にわたる複雑なプロセスで構成されている。
・これらの作業は単なる身体的なケアにとどまらず、感情的・社会的な要素も含む。
・そのため、患者やその支援ネットワークがどのようにこれらの作業(work)を組織し、実行するかを理解することは、治療成果やQOL(Quality of Life, 生活の質)を向上させるために重要である。
<1. Patient workの主要な領域>
・Patient workは、以下の4つの主要な領域に分類される。
- 意味づけ(Sense-making)
- 認知的参加(Cognitive Participation)
- 集団的行動(Collective Action)
- 反射的モニタリング(Reflexive Monitoring)
・これらの領域は、患者が治療に取り組むための基本的な枠組みを形成し、それぞれが相互に関係し合いながら患者のケアの質を決定する。
<1. 意味づけ(Sense-making)>
・意味づけは、患者やその支援ネットワークが治療計画や症状管理のタスクを理解し、内在化するプロセスである。
・これは、以下の要素を含む。
- 問題の認識:病気や症状がどのように日常生活に影響を与えるかの理解
- 治療計画の理解:医師からの指示や治療方針を正しく理解する能力
- 自己効力感の形成:自己管理に対する自信の獲得
・患者がこれらの要素を適切に理解し、内在化できなければ、治療計画に対する積極的な参加が難しくなる。
<2. 認知的参加(Cognitive Participation)>
・認知的参加とは、患者やその支援者が治療に積極的に関与し、治療計画に対する責任を共有するプロセスである。
・これは、以下のような活動を含む。
- 関係性の形成と維持:医師や看護師、家族との信頼関係の構築
- 治療タスクへの参加:治療計画に基づく自己管理やモニタリングの実施
- 情報共有:症状や治療に関する情報の収集と共有
・これらの要素が整っていると、患者はより効果的に治療に取り組むことができる。
<3. 集団的行動(Collective Action)>
・集団的行動は、患者やその支援ネットワークが治療計画を実行し、必要なリソースを動員するプロセスである。
・これには以下の要素が含まれる。
- 作業の分担:家庭内や支援ネットワーク内での役割分担
- 責任の共有:各メンバーが治療に対する責任を持つこと
- リソースの動員:物質的・情報的な資源の確保と配分
・これらの活動は、患者が治療計画に従うための重要な基盤であり、集団的な取り組みが求められる。
<4. 反射的モニタリング(Reflexive Monitoring)>
・反射的モニタリングは、患者やその支援者が治療の進行状況や成果を評価し、必要に応じて計画を修正するプロセスである。
・これは以下の要素を含む。
- フィードバックの収集:症状や治療反応の記録
- 計画の再評価:治療計画の有効性や実現可能性の評価
- 適応と改善:治療計画や自己管理方法の調整
・これらの活動は、患者が自己管理を効果的に行うために不可欠であり、治療成果に直接的な影響を与える。
<5. Patient workの統合モデル>
・これらの4つの領域は、相互に関連し合いながら患者作業の全体像を形成する。
・これらを組み合わせた統合モデルは、以下のような特徴を持つ。
- 相互依存:各領域が独立して機能するのではなく、相互に依存し合う関係にある
- 動的な適応:患者や支援ネットワークが状況の変化に応じて適応する能力
- 持続的な調整:治療計画や支援の必要性に応じた継続的な調整
・これらの要素が適切に機能することで、患者はより効果的に治療計画に取り組み、QOLの向上が期待できる。
<6. 構造的な脆弱性と安定性>
・Patient workは、患者やその支援ネットワークが直面する物理的・心理的な負担や社会的なプレッシャーに対して脆弱である。
・これらの要因が重なると、患者のキャパシティが低下し、治療成果が悪化する可能性がある。
- ネットワークの変動:支援者の喪失や関係の希薄化
- 経済的な制約:治療費や通院費の負担
- 感情的な支援の欠如:孤立感や心理的なストレス
・これらの要因に対処するためには、社会的ネットワークの強化やリソースの確保が重要であり、これがPatient workの安定性を高める鍵となる。
不安定さは一般的なことである
・患者とその社会的ネットワークが行うworkは、本質的に不安定である。
・これは、患者が直面する病気の進行や社会的状況の変化により、その関係が絶えず揺らぐためである。
・特に、慢性疾患や多疾患併存(multimorbidity)の患者にとって、これらの不安定性は日常的な課題であり、ケアの質や治療成果に大きな影響を与える。
<1. 関係性の不安定性>
・患者の社会的ネットワークは、以下のような要因により常に変動する。
- ネットワークの変動:支援者の死別や健康状態の悪化、転居や関係の希薄化
- 社会的孤立:支援者が減少することで患者が孤立するリスク
- 心理的負担:患者やその支援者が精神的な疲労やストレスに直面すること
・これらの要因は、患者のキャパシティを低下させ、治療計画への参加意欲を損なう原因となる。
<2. 外部からの影響>
・患者とその支援ネットワークは、外部からの予期せぬ衝撃(impact)にも脆弱である。
・具体的には、以下のような要因が関係性の不安定性を引き起こす。
- 経済的な困難:仕事の喪失や医療費の増加
- 物理的な障害:交通手段の喪失や居住環境の変化
- 社会的な変化:医療機関の閉鎖やサービスの縮小
・これらの外的要因は、患者が必要な治療や支援を受ける能力に直接的な影響を与える。
<3. 時間の経過とネットワークの変動>
・患者の関係性は、時間の経過とともに変化する。
・特に、以下のような状況ではネットワークが不安定になりやすい。
- 高齢化:友人や家族の死別、支援者の減少
- 病状の悪化:患者の機能的パフォーマンスが低下することによる支援の必要性の増加
- 心理的な消耗:長期にわたる看護や介護による支援者の疲弊
・これらの要因は、ネットワークの規模や強度に影響を与え、患者が必要な支援を得ることを困難にする。
<4. 構造的レジリエンスの低下>
・患者とその支援ネットワークが不安定になると、これらのネットワークの「構造的レジリエンス(structural resilience)」が低下する。
・これは、以下のような要因により引き起こされる。
- ネットワークの断絶:支援者の喪失や関係の断絶
- 社会的孤立:支援ネットワークの縮小や崩壊
- リソースの不足:経済的な困難や情報不足
・これらの要因は、患者が治療に取り組む能力を低下させ、QOLの悪化や治療成果の低下につながる可能性がある。
<5. ネットワークの再構築>
・不安定なネットワークを再構築し、維持することは重要である。
・これは、患者が治療に取り組むための基本的な基盤であり、以下のような戦略が求められる。
- 関係性の再構築:新しい支援者の発掘やネットワークの拡大
- 心理的支援の強化:孤立感の軽減や心理的なサポートの提供
- リソースの確保:経済的支援や交通手段の改善
・これらの取り組みは、患者のキャパシティを向上させ、治療成果の改善につながる。
<6. ネットワークの維持>
・患者のキャパシティを維持するためには、ネットワークが長期的に安定して機能することが重要である。
・これは、以下のような取り組みによって実現できる。
- 支援者のケア:支援者自身の健康と幸福の維持
- 情報の共有と更新:治療に関する知識や情報の共有
- 社会的つながりの強化:孤立を防ぐための定期的な交流
・これらの取り組みは、患者が治療計画に積極的に取り組むための重要な要素であり、関係性の安定性を高めることができる。
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<参考文献>
・May CR, Eton DT, Boehmer K, Gallacher K, Hunt K, MacDonald S, Mair FS, May CM, Montori VM, Richardson A, Rogers AE, Shippee N. Rethinking the patient: using Burden of Treatment Theory to understand the changing dynamics of illness. BMC Health Serv Res. 2014 Jun 26;14:281. doi: 10.1186/1472-6963-14-281. PMID: 24969758; PMCID: PMC4080515.