解釈的医療 interpretive medicine
目次
General practiceの本質
・現代の臨床実践において、正当な知識やエビデンスの使用は重要な要素である。
・これらは、診療における患者中心性(patient-centredness)の質にも大きな影響を与える。
・Evidence-Based Medicine(EBM, 証拠に基づく医療)やその政策実施形態であるScientific Bureaucratic Medicine(SBM, 科学的官僚主義的医療)は、科学的知識を臨床経験よりも重視する認識論に基づいており、疾病に関する客観的な知識や、その知識の確実性を定量的に評価する枠組みを提供している。
・これらのモデルは、専門的な診断や治療が求められる二次医療においては適切かもしれないが、総合診療のように複雑で動的、かつ不確実な状況に対応することが求められる診療領域においては、適用が疑問視される場合がある。
・総合診療は「Interpretive Medicine(IM, 解釈的医療)」というモデルでより適切に説明できるとReeveは提唱する。
・解釈的医療とは、個別の病い体験を共有し、解釈する動的なプロセスを通じて、個人が日常生活を維持するための創造的な能力(creative capacity)を支援するために、幅広い知識を批判的かつ慎重に使用することを指す。
・総合診療においては、このような解釈的な知識生成が日常的な業務の一部であるが、その質を外部から評価する枠組みが十分に整備されていない。
・これを補うために、質的研究の分野で確立されている「知識の質」を認識する理論に基づき、総合診療における知識生成の質を評価するための枠組みが提案されている。
現代のナレッジと実践
医療における知識の使用方法に関して、反射的な実践から客観的な証拠に基づく実践へのシフトが進んでいる。
この変化は、主にEvidence-Based Medicine(EBM, 証拠に基づく医療)の導入によりもたらされたものである。
①EBMの基盤となるナレッジ:
・EBMは、統計解析に基づく疫学的研究から得られた知識を「最良の根拠」として重視するモデルであり、科学的方法に基づく客観的知識を提供する枠組みである。
・これにより、臨床医や患者の「opinion」よりも、集団における定義された疾患に関する経験的観察に基づく知識が優先されるようになった。
・このような「最良の根拠」は、知識の確実性を定量的に評価することが可能であり、その階層性において、臨床経験よりも高い位置づけにある。
②プロフェッショナルの役割とその変化:
・医療従事者の役割は「自己規律」に基づく反射的実践から、客観的に定義された基準に基づく実践へと変化した。
・これにより、専門職による診療の「専門的意見」が組織的なシステムによる「客観的評価」に取って代わられるようになった。
・これは、医療提供者が独自に定義し実践する能力に対する信頼の低下を意味しており、患者中心のケアの質にも影響を与えている。
③臨床判断と意思決定:
・EBMの枠組みにおいては、医療従事者は「最良の根拠」を慎重かつ明示的に適用し、個々の患者に対するケアの意思決定を行うことが求められる。
・このプロセスは、臨床経験や患者の価値観も考慮するべきであるが、その比重は相対的に低くなっている。
・したがって、患者の個別的な状況に応じた解釈的な判断は、標準化されたガイドラインに従うことによって制約される傾向にある。
④解釈的医療への展望:
・本章では、これらの問題点に対する批判的考察を踏まえ、総合診療におけるより柔軟で包括的なアプローチとして「解釈的医療(Interpretive Medicine)」の導入が提案されている。
・これは、患者と医療従事者が共に病いを解釈し、個別の文脈に応じたケアを実現するための枠組みであり、EBMの限界を補完するものとして位置づけられる。
解釈的理解
・総合診療におけるインタビューや診察は、単なる「事実の採掘(mining)」ではなく、患者と医療従事者が共に行う「旅(travelling)」であるべきだという視点がある。
・これは、伝統的なEBM(Evidence-Based Medicine, 証拠に基づく医療)やSBM(Scientific Bureaucratic Medicine, 科学的官僚主義的医療)が採用する、客観的な事実発見を重視するモデルとは対照的である。
・従前のモデルは、診察を「真実の病態」を発見するプロセスと見なし、その質を「正確な診断」に基づいて評価する。
・一方で、「旅」のメタファーは、診察を患者と医師が共に新しい意味を創造する対話的なプロセスと捉える。
・これは、患者が単なる情報の提供者ではなく、自己の健康状態を共に理解し、その改善に積極的に関与する存在として位置づけられることを意味する。
・実際、患者は単なる「医療の消費者」ではなく、自らの健康に対して複雑で洗練された判断を行う能動的な主体であることが、補完代替医療(CAM)の文献からも明らかになっている。
・これらの患者は、単に従来の医療に不満を抱いているわけではなく、自身の健康ニーズに基づき、様々な知識を駆使して適切な治療法を選択している。
・また、患者中心のケアに関する専門的な記述では、患者が診察において積極的に関与し、自己の健康に関する共通理解を形成する役割が強調されている。
・しかし、現実の臨床現場では、このような「共に旅する」アプローチがどの程度実践されているかについては疑問も残る。
・これは、診察における患者と医師の間で、単一の病態モデルではなく、複数の異なる解釈が同時に存在し得ることを示している。
・Reeveらは、うつ病患者との総合診療に関する研究において、医師と患者が異なる概念モデルを持ち込む場合、その診察結果やガイドライン準拠のケアの実現にどのような影響を与えるかを検討した。その結果から、患者や医師が単一の概念モデルに基づいて診察に臨むという仮定は不適切である可能性が示唆された。状況的要因や生物学的要因が複雑に絡み合い、単純な病態モデルに収まらないことが明らかになっている。
・総合診療は、疾患の同定ではなく病いの解釈に基づくものであり、ナレッジは単に「発掘」されるものではなく、医師と患者が共に「旅」をする中で構築されるものである。
・これは、診察を単なる技術的な診断プロセスとして捉えるのではなく、個々の患者の人生や背景を理解するための社会的な相互作用と位置づけることを意味する。
・したがって、診察の質は、その過程で生み出される共同の理解や、患者の生活に対する影響によって評価されるべきである。
・さらに、EBMやSBMが主張するような外部から評価された決定支援ツールの導入は、新たな形のパターナリズムを生み出す可能性がある。
・これは、従来の医師中心の意思決定から患者への権限移譲を目指す動きとは対照的。
・むしろ、患者と医師が共に健康を理解し管理するための能動的な役割を支援する新しい知識モデルが必要とされている。
解釈的医療の導入
・これまで議論してきたように、EBM(Evidence-Based Medicine, 証拠に基づく医療)やSBM(Scientific Bureaucratic Medicine, 科学的官僚主義的医療)は、総合診療のモデルとしては不十分であり、その支配的な立場が患者中心の総合診療アプローチを脅かしている。
・EBMとSBMは、最良の知識を定義することによって確実性を追求しますが、臨床実践における不確実性は避けられない現実である。
・これは科学的探求の本質に由来するものであり、集団から得られた知識を個々の患者にどのように適用するかという認識論的な不確実性(epistemological uncertainty)の問題も含まれる。
・また、この問題は複雑系理論(complexity theory)が提起する、異なる視点から得られた知識を統合するというより広範な課題の一部でもある。
・具体的には、遺伝学や分子生物学、生理学や薬理学、社会学、さらには「非科学的」とされる一般市民や暗黙の専門知識(tacit professional knowledge)をどのように組み合わせて、個々の患者に対する一貫した理解を形成するかという問題である。
・実際の総合診療においては、複雑で不確実な状況に対処することが日常的な経験です。
・Griffithsらは、医師がこうした不確実性に対処するために用いる戦略として、暫定的な診断や再評価を含む動的な実践モデルを提唱している。
・これは、医療が確実であるというのは神話であるという考え方に基づいている。
・しかし、SBMやEBMの限界が認識されている一方で、それに代わる包括的な理論的枠組みは未だに存在していない。
・私たちは、総合診療における知識の質を評価し、その価値を証明するための枠組みを必要としている。
・そこで、本章では、私自身の批判的レビューや他者の研究に基づき、「Interpretive Medicine(解釈的医療, IM)」という新たな枠組みを提唱される。
・解釈的医療とは個別の病いの経験を共に探求し解釈することを通じて、個人が日常生活を維持するための創造的な能力(creative capacity)を支援するための、批判的で慎重なナレッジの活用を意味する。
・さらに、これまで強調されてきたように、診察は単なる技術的なプロセスではなく、患者と医師が共に新たな意味を見出す対話的なプロセスである。
・これは、Holistic Care(全人的ケア)やPatient-Centered Care(患者中心のケア)の専門的記述においても支持されているアプローチである。しかし、これまでの取り組みでは、そのモデルが患者の生活に与える具体的な影響についての証拠が不足しているのも事実。
・Cassellは、医療の役割を「苦痛の軽減」と定義しましたが、Carelは、たとえ病気であっても「幸福」を感じることができるのか、という問いを投げかけている。
・これは、私たちが軽減しようとしている「苦痛」とは何か、どのようなケアが優先されるべきかという基本的な疑問に関わる問題である。
・さらに、アルマ・アタ宣言が掲げた「すべての人に健康を(Health for All)」という目標も、個々の患者にとって具体的に何を意味するのかを再考する必要がある。
・これらの課題を踏まえ、本章では、患者が日常生活を維持し、自己の人生を生き続けることを支援することが総合診療の目標であると提案される。これこそが、総合診療における基本的な成果であり、患者中心のケアの本質といえる。
個別のケアにおける自己の定義: 創造的能力(Creative capacity)
・これまでの議論から、総合診療における理論の中で最大の概念的欠落は、「自己(self)」に関する明確な定義が存在しないことだと考えられている。
・専門的な記述では、しばしば「人間中心のケア」や「個人の支援」といった言葉が用いられるが、それが指す「個人(person)」とは具体的に何を意味するのかが明確に定義されていない。
・哲学者たちは何世紀にもわたり「自己」の本質について議論してきたが、ここで「真の自己」の本質に関する結論を求めるつもりはない。
・しかし、総合診療におけるケアの対象となる「個人」の概念モデルは必要であると主張されている。
・生物学的な「自己」の概念(病気を生物学的な機能不全と捉える見方)の限界は、総合診療においては長年にわたり認識されてきた。
・これは、例えばNarrative medicineの文献においても取り上げられている。
・Narrative medicineの視点では、病いや臨床ケアの理解は、意味の連続性を維持する必要性に基づいて定義される。
・一方で、社会学的な文献では、病いが日常生活における個人的な前提や社会的構造に与える破壊的影響に焦点を当てた「自己」の記述も存在する。
・これらの視点は、いずれも病いを逸脱状態として捉え、その否定的な状態を修正することを重視している。
・しかし、これらのアプローチにはそれぞれ欠点がある。
・生物学的な自己の概念は、病いの社会的文脈を十分に考慮していないが、従前の自己の概念は、治療可能な身体的問題を十分に説明できない場合がある。
・また、Narrative的な自己の概念は、自己をあまりにも認知的に捉え、身体感覚の経験を軽視しているという批判もある。
・これに対し、WilliamsとBendelowは、感情的な自己の概念が、心と身体、および外部世界との相互作用を包含する「橋渡し」として機能することを提案している。これは、総合診療における患者が抱える多様な要素を統合する理論的枠組みの必要性を示唆している。
・Carelの「創造的能力(creative capacity)」の概念は、このような統合的な自己のモデルを提供するものである。
・Carelは、自己を単なる身体の容器として捉えるのではなく、「世界に存在すること(being within the world)」として捉え、自己は心身と社会的文脈が結びついた「身体化された意識(embodied consciousness)」であるとしている。
・ここでは、「存在(being)」は単なる生存以上のものであり、自身の意志や行動を通じて世界と関わる動的なプロセスとして定義される。
・病いはしばしばこの「身体化された自己」に対して破壊的な影響を与えるものとして理解されるが、それが適応能力を促進する契機にもなり得るとCarelは主張している。
・つまり、逆境が創造的な反応の源泉となり、それが成長や発展をもたらすこととなる。
・このような動的な自己の概念は、慢性疾患や再発性の病いに取り組む総合診療において特に重要である。
・実際、医療従事者は日常的に、単なる症状の管理以上に、患者がその日常生活を維持する能力を支援する役割を担っている。
・これは、総合診療が単なる診断や治療の場ではなく、患者が自己の創造的能力を発揮し、日常生活を取り戻すことを支援する場であるべきであることを意味している。
・例えばReeveが末期癌の患者と関わった研究では、患者たちが「癌そのもの」よりも、「日常生活を続ける上での障害」としての病いに焦点を当てていることが明らかになった。
・患者らは病いが引き起こす破壊的な側面だけでなく、それが日常生活における自己の創造的能力に与える影響についても深く理解していた。
・これは、病いが単なる否定的な状態ではなく、適応や成長の契機にもなり得ることを示している。
・さらに、Biddleらの研究では、若者が日常生活を維持するために抱える苦悩や、その限界点を超えた時に援助を求めるという動的な自己のモデルが示されている。
・これは、自己が単に病いから解放されるべき存在ではなく、その中で自己を再構築し、成長する能力を持つことを示している。
General practiceの基本的側面としての”Creative capacityの支援”
・Carelの「自己」に関する考察、およびこれまでに示された実証的な知見は、病気そのものではなく「病い」に対処することで苦痛を軽減しようとする全人的で個人中心のケアを重視する総合診療の基本的なモデルを支持している。
・これは、病気の診断や治療にとどまらず、患者がその日常生活を維持し、創造的な能力を発揮できるよう支援することを目指している。
・このような「自己」の理論的枠組みは、個別ケアにおける「自己」の定義を提供し、医療従事者がその実践の質や成果を個別または集団で評価するための基準を与える。
・さらに、自己の能動性(self-agency)を支援し促進することで、General practiceは持続可能な地域社会の発展や社会資本の向上にも貢献する。
・これは、地域の複合診療所における二次医療的な疾患中心のケアとは異なる、地域に根ざしたプライマリ・ケアのあり方を直接的に問い直すものである。
・創造的能力(Creative capacity)の支援を総合診療の基本的要素とすることは、患者がその日常生活において能動的に生きるプロセスを支援することを意味し、総合診療医を単なる技術者ではなく、自律した専門家として位置づける。
・これはまた、患者が単なる医療消費者として扱われるのではなく、自己の健康を維持し、地域社会に積極的に関与する主体として支援されるべきであるという考え方を強調する。
・したがって、創造的能力(Creative capacity)を支援することは、持続可能な健康を目指す取り組みを促進する手段でもあり、消費主義的な医療からの脱却を図る重要な要素といえる。
解釈的医療の実践
・これまでに述べたように、解釈的医療(Interpretive Medicine, IM)は、個人の創造的能力を支援するための解釈的スキルに基づく総合診療のモデルである。
・SBM(Scientific Bureaucratic Medicine, 科学的官僚主義的医療)やEBM(Evidence-Based Medicine, 証拠に基づく医療)とは異なり、IMの採用は全く異なる診察体験をもたらす可能性がある。
・例えば、感情的または心理的な苦痛を訴える患者の場合、SBMやEBMモデルでは、スクリーニングや診断ツールを用いて病名を特定することが重視される。
・治療の選択は現在のガイドラインやプロトコルに従って行われ、これらから逸脱する場合には、その正当性を専門家が証明する責任がある。
・優れたコミュニケーションスキルは、医師と患者の関係を強化し、信頼と共感を育むために利用されるが、最終的に診察の質はプロトコルへの準拠に基づいて評価される。
・一方、創造的能力の支援を重視するIMのモデルでは、「リスク」の評価も含まれるかもしれないが、患者自身の説明や努力、さらには医療従事者の暗黙知(tacit knowledge)も考慮される。
・このアプローチでは、抗うつ薬や心理療法も引き続き使用される可能性があるが、それらはあくまで患者の創造的能力の維持と発展を支援する場合に限られる。
・ここでの専門家の責任は、外部からの「disease model」のケアの使用を正当化することにある。
・身体的な疾患の場合でも、創造的能力を重視することは意思決定を支援する上で有用。
・現在の医療モデルでは、糖尿病や冠動脈疾患、高血圧や脂質異常症といったリスク因子の管理において、定義されたプロトコルから逸脱する際には専門家がその正当性を証明する必要がある。
・これは、ポリファーマシー(多剤服用)や治療中止のタイミングに関する課題を引き起こし、患者と医療従事者の両方にとって困難な問題となることがある。
・一方、IMのアプローチでは、治療の利益とリスクは単に死亡や罹患率に基づくのではなく、「身体化された意識(embodied consciousness)」の動的な連続性に対する影響に基づいて評価される。
・したがって、意思決定は、医療従事者と患者の間で、病いや自己に関する異なる見解を特定し統合することを含む。
・これは、患者の創造的能力を最もよく支援する「管理計画(management plan)」などを共に構築するプロセスである。
・医療従事者との相互作用や知識の使用が、創造的能力を支援する場合もあれば、その逆に妨げる場合もあることが示されている。したがって、総合診療における「Quality」の理解は、使用される知識そのものよりも、その知識がどのように使用されるかに焦点を移す必要がある。
解釈的医療の提供; 解釈を行うためのスキル
・解釈的医療(Interpretive Medicine, IM)を実践するためのプロセスは、専門職教育や実践に関する記述、そして診察プロセスや内省的実践に関する文献の中で示されている。
・この解釈プロセスの基本は、アリストテレスが述べた2つの知的徳(intellectual virtues)、すなわち「sophia(ソフィア)」と「phronesis(フロネーシス)」の使用にある。
①ソフィア(sophia):
・ソフィアは学術的な研究に基づいて外界の知識を所有し、それを活用する能力を指す。
・これは、人間の経験に関する生物学的および伝記的な理解も含む。
・総合診療においては、SBM(Scientific Bureaucratic Medicine, 科学的官僚主義的医療)やEBM(Evidence-Based Medicine, 証拠に基づく医療)で重視される要素がそれに相当する。
②フロネーシス(phronesis):
・フロネーシスは通常「実践的知恵(practical wisdom)」と訳され、知識を行動に移すための知恵を指す。
・本稿の文脈では、「どのように(how)」知識が使用されるかに重点を置き、単なる「何を(what)」知るかではない。
・これは、内的および外的な知識を批判的に統合し、個別化されたニーズ評価を構築する能力であり、患者が日常生活を維持するための動的なニーズを支援するものである。
・Cassellが述べたように、フロネーシスは病気(disease)と病い(illness)という「二つの医学の文化」の間のギャップを埋めるために必要な「判断力(judgement)」でもある。
・つまり、正常な機能や疾患に関する知識を、個々の患者の病いに適用する能力がそれに相当する。
・医療教育において、これは内省的または専門的な判断力、個人的な知識、あるいは能力として認識されており、教育者はこれを省察、フィードバック、目標形成を通じて育成しようとする。
・このように、IMは、個々の病いの経験を動的に、共同で探求し解釈するための批判的で慎重な専門的知識の使用を意味し、患者が日常生活を維持するための創造的能力を支援することを目的としている。
探索と解釈(exploration and interpretation)
・フロネーシスはまた、臨床実践における解釈的な側面も包含している。
・これは、異なる視点を統合し、個々の患者に合わせて構築する能力である。
・この知的能力は、専門的な知識や経験から派生し、長年の実践を通じて発展してきたものである。
・これは、直感的または暗黙の知識(tacit knowledge)として専門職の中に蓄積されており、単なる外部からの研究成果を超えた高度な洞察を含んでいる。
・こうした暗黙知は、臨床現場と学問の世界がそれぞれ異なる知識生成と検証のプロセスに依存していること、さらにそれらの蓄積にかけてきた時間の長さに起因している。
・しかし、この側面がSBMにおいて軽視されていることは、患者の創造的能力を支援するケアを提供する上での根本的な欠陥を示している。
・解釈的医療は、単に「データを収集する」作業ではなく、患者の生活に即した意味のあるケアを構築するための知識の統合と解釈を含むものである。
教育と実践における解釈的医療の発展
・解釈的医療(Interpretive Medicine, IM)の実践を支えるスキルは、単なる知識の習得にとどまらず、複雑な状況において知識をどのように統合し、批判的に適用するかという能力に関わる。
・これは、総合診療医が日々直面する臨床的な不確実性や患者個々のニーズに対応するために不可欠なスキルである。
①知識の統合と批判的適用:
・IMの実践は、異なる知識体系(生物学的、心理学的、社会学的、伝記的な理解など)を統合し、個々の患者に対するケアを提供する能力に基づいている。
・これは、単に病気(disease)の診断にとどまらず、患者が抱える複雑な病い(illness)の経験を理解し、それに応じたケアを提供することを意味する。
・これは、医療従事者が自己の経験や直感的な知識を活用し、患者との関係を通じて学び続ける能力に依存する。
②反省と自己認識:
・IMを実践する医療従事者は、自己のバイアスや価値観、信念を認識し、それが患者との関係にどのように影響するかを理解する必要がある。
・これは、自己認識と批判的省察を通じて得られる洞察に基づいており、専門職としての成熟度を高めるために重要である。
・これには、定期的なフィードバックやメンタリングが有効である。
③実践における学びの継続:
・IMの発展には、医療教育の現場での実践的な経験が欠かせない。
・これは、単なる教科書からの学習ではなく、患者との対話や実際の診療を通じて培われる知識であり、臨床現場での経験が不可欠。
・医療従事者は、日々の診療で得られた洞察を通じて、より洗練された解釈的スキルを育むことが求められる。
④知識と判断力の育成:
・IMを効果的に実践するためには、単なるデータの収集や分析だけでなく、状況に応じて適切な判断を下す能力が必要。
・これは、患者個々の状況やニーズに応じたケアを提供する上で重要な要素である。
⑤共感と患者中心のケア:
・IMの基本原則の一つは、患者がその日常生活を維持し、その創造的能力を発揮できるよう支援することである。
・これは、単に症状を治療することにとどまらず、患者が抱える困難や挑戦を理解し、それに応じた支援を提供することを意味する。
・共感は、このプロセスにおいて中心的な役割を果たす。
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<参考文献>
・Reeve J. Interpretive medicine: Supporting generalism in a changing primary care world. Occas Pap R Coll Gen Pract. 2010 Jan;(88):1-20, v. PMID: 21805819; PMCID: PMC3259801.