NBMのスキルを学ぶ(part.3)
目次
NBMの実践のための第一歩
・NBMの実践における第一歩は「患者の語りに耳を傾け、それを探求し、共感すること」である。
・より複雑なナラティブが現れるにつれ、物語の意味を理解し、隠れた意味を明らかにする必要が出てくる。
・診察を振り返り、他者と議論することは、物語を読み解き、患者の理解を深め、相互作用のダイナミクスへの洞察を得る助けとなる。
・この段階で、新たなスキルを学ぶ必要が生じるため、コミュニケーション技術、カウンセリングなどの研修を受けることも勧められる。
・また、バリント・グループや、困難な症例や不確実性のマネジメントを議論する小グループへの参加も、洞察力や省察的スキルの育成に有益である。
ナラティブの探求と聴取
・患者の物語を引き出し、深く探求することは、NBM初心者には気後れするかもしれないが、実際には「絵を描くこと」に例えることができる。
・絵は一度では完成せず、何度も手を加えられ、修正される。
・同様に、患者の物語も診療のたびにより明確にされていく。
・初心者にとっては、簡潔で実践的な戦略が助けになる。
・Charonが提唱した「4つの分断(4 devides)」(死との関係、病いの文脈、疾患因果への信念、恥・罪・恐れ)にも常に注意を払うべきである。
省察(reflection)
・絵画が鑑賞されるためには、観察し、考察する時間が必要である。
・それと同様に、ナラティブを理解するためには「省察」が重要である。
- 省察は人によって得意・不得意があるが、スキルとして育成することができる。
- 挑戦的・複雑な症例を議論する小グループへの参加は、省察力を養う上で効果的である。
- 経験豊富でNBMに精通したリーダーがいることが望ましく、その存在により議論はより焦点化され、生産的になる。
・創作的な文章を書くことも、省察スキルの育成に役立つ。ポートフォリオもその一助と成る。
・創作的執筆は想像力を広げ、臨床実践にも利益をもたらす。
・ナラティブスキルは「聴く→書く→省察する→議論する→再度振り返る」のプロセスにより発達する。
反省と再帰(Reflection and reflexivity)
・ここまでに述べたのは「実践後の振り返り(reflection on action)」である。
・これに対し、「再帰性(reflexivity)」とは、自己の感情や反応を他者理解の手がかりとすることである。
・バリント・グループや小グループでの議論は、患者と医師の役割、医師自身の感情や反応も含めて省察を深める。
・このような訓練と経験を通じて、「自己・他者・相互作用」を並列でなく同時に捉える力が育つ。
・これが「実践中の振り返り(reflection in action)」の最も高度な形であり、NBMにおける重要な能力である。
芸術とNBM
・19〜20世紀初頭には、芸術は教養の中核であった。
・現代では、医学の科学技術的側面が強調され、芸術の価値が軽視されている傾向がある。
・しかし、NBMは芸術的感性、人間への共感的まなざしを再び医学にもたらす。
・芸術は以下の理由でナラティブ・スキルの発達に資する:
- 想像力を刺激し、創造性を育てる
- 洞察力と内省的能力を深める
- 他者の主観的経験を理解する能力を養う
- 意味の探索や感情への気づきを促す
・文学、演劇、絵画、写真、音楽、映画など多様な芸術は、感情と象徴を呼び起こす手段であり、対話を通じて理解を深める教材にもなり得る。
参照; NBMの実践のための戦略
NBM初心者が始めるにあたって有用な実践的アプローチは次のとおり:
・患者に関心を示す。患者についてもっと知ろうとする。
「話しすぎてすみません」「時間を取って申し訳ない」などと、患者が謝罪しなくて済むようにする。
・注意深く傾聴する。
・特に診察の冒頭では、話を遮らない。
患者の思考の流れが終わるまで、必ず最後まで話させる。
・開かれた質問(open-ended questions)を使う。
・沈黙は問題ではない。すぐに質問したくなる衝動を抑える。
沈黙を破って再び話し始めた患者の語りには、質問よりも価値があることが多い。
・手がかり(cues)を聞き取り、それをたどる。
・患者のBody languageを観察する。
・もし何らかの理由で物語を中断しなければならない場合には、
次回必ず続きを聞く機会を設ける。
・患者の非協力(noncompliance)は、「物語の遮断」であって、「問題のある患者の性格」と
は考えない。
・決めつけをしない。
・判断を下さない。
・問題の「マネジメントを急がない」。
・Charonが提唱する「4つの分断(the 4 divides)」に注意を払う:
- 死との関係
- 病いの文脈
- 疾患因果についての信念
- 羞恥・罪悪感・恐れ
・「なぜこの患者がこのタイミングでこの問題を持ち込んだのか」がはっきりしない場合には、自問してみる。
「なぜこの患者が今この問題を?」
それを患者にそのまま問い返してもよい。
参照; NBM実践の利点
NBMを実践することによる主な利点:
・コミュニケーションの改善
・患者の病歴聴取における情報の正確性向上
・医学的証拠の異なる解釈(法的含意を含む)への理解
・医師自身の偏見や恐れを明らかにする(自己省察)
・医師―患者関係の向上(信頼と共感の促進)
・意思決定の共有(共同構築)の促進
・医療過誤の構造的理解と予防
・医学的知識の「移ろいやすさ」と継続的学習の重要性への気づき
・同僚との関係やチーム医療の効果性の向上
・職業満足度の向上、燃え尽きの予防
(自己認識、セルフケアへの配慮、レジリエンスの形成)
―――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Zaharias G. Learning narrative-based medicine skills: Narrative-based medicine 3. Can Fam Physician. 2018 May;64(5):352-356. PMID: 29760254; PMCID: PMC5951649.