Kolbの経験学習 Experiential learning

序論

・Kolbらは1975年に具体的経験、観察と省察、抽象的概念、新しい概念の現実への応用の4要素からなる経験学習(experiential learning)のモデルを提唱した。

・経験学習のモデルは学習プロセスの研究に関して有益な枠組みであった。

・このモデルは以下の前提に基づいて成立している。

  1. 学習は具体的経験(concrete experience)、省察的観察(reflective obserbation)、抽象的概念化(abstract conceptualization)、能動的実験(active experimentation)の4つの段階を通じて進行する循環的プロセスである。
  2. 有効な学習はこの4つの段階を全て経ることを必要とする
  3. 学習者個人はこれらの段階のいずれかを好む傾向があり、その傾向が個人の学習スタイルを形成する

経験学習モデル

経験学習モデル(The experiential learning model)は学習が経験の変容のプロセスであるという見解に基づいている。このモデルは以下の4つの学習モードが循環的に結びついたものである。

  1. 具体的経験(concrete experience)
  2. 省察的観察(reflective obserbation)
  3. 抽象的概念化(abstract conceptualization)
  4. 能動的実験(active experimentation)

・①について; 直接的で感情面で関係する経験を通して学ぶ段階。たとえば新しい仕事に挑戦したり、他者との対話を通じて新たな視点を得たりすることが挙げられる。

・②について; 経験について深く考え、異なる視点から観察し、意味を見出そうとする段階。このプロセスでは矛盾やギャップに気づくことが重要とされる。

・③について; 観察から導かれた知見を、理論や概念に統合する段階。これは論理的思考や体系的な理解を必要として経験を理論的枠組のなかに位置づけることを目指す。

・④について; 理論や概念に基づいて、新たな状況で実際に行動を起こす段階。仮説をたてて試行錯誤し、次の経験を生み出すことで、学習サイクルが再び始まる。

・この4つの学習モードは円環的に連続しながら相互に影響を及ぼす。KolbとFryはこの循環を「学習サイクル(Learning cycle)」と予備、効果的な学習はこのサイクルを完全に一巡することに依存すると主張した。

・なお、個々人でこのサイクルのなかで好む学習モードが異なることも強調されていて、それが「学習スタイル(Learning styles)」という概念につながる。

学習スタイル

・KolbとFryは学習者が経験学習のサイクルのなかでどの段階に最も強い好みを持つかに基づいて、学習スタイル(Learning styles)を区別できると述べている。

・この視点では全ての人が4つの学習モードを利用できるが、通常は1~2つのモードを好む傾向にあるとされている。

・KolbとFryはこれらのスタイルが固定化されるものでなく、学習の文脈や経験蓄積により変化する可能性があると述べている。また、学習スタイルの特定を通じて、教育者は学習者の強みと課題を理解し、より効果的な教育的支援が可能になるとしている。

・この考え方に基づき、以下の4つの基本的な学習スタイルが提示された。

  1. 発散型(Diverging)
  2. 同化型(Assimilating)
  3. 収束型(Converging)
  4. 適応型(Accommodating)

・①について; 具体的経験と省察的観察を好む。様々な視点から物事を考えるのが得意で、アイデア生成や人間関係に優れる。芸術や文化的活動に親和性がある傾向。

・②について; 抽象的概念化と省察的観察を好む。理論的な枠組みや体系的なモデルの構築を好み、論理的・分析的な情報処理を得意とする。科学や数学において力が発揮されやすい。

・③について; 抽象的概念化と能動的実験を好む。実践的な応用や技術的課題の解決に向いていて、問題解決志向が強い。工学や応用化学の分野でよく用いられる。

・④について; 具体的経験と能動的実験を好む。直感的、実験的に行動し、新しい体験を積極的に試す傾向がある。他者の情報をもとにして、素早く行動に移す能力に長ける。

教育およびトレーニングへの実践的応用

・KolbとFryは経験学習モデルが教育およびトレーニングにおいて幅広い適用性を有すると述べている。

・経験学習は全人的な学びを可能にする。これは認知的側面だけでなく、感情的および行動的な側面を含む学習であり、学習者の自己理解や自己成長をも支援する教育モデルである。

・特に以下の3つの視点が強調されている。

  1. 学習スタイルの診断と個別化
  2. 学習サイクルに基づくカリキュラム設計
  3. 教育者の役割

・①について; 学習者の学習スタイルを理解することで、教育者は個々の学習者に適した教育法や教材を提供できる。たとえば、具体的経験を好む学習者には実習やフィールドワークが効果的であり、抽象的概念化を好む学習者には理論的な講義や読書が適している。

・②について; 効果的な教育プログラムは、4つの学習モードすべてを取り入れる必要がある。これは、単一の指導法に依存することなく、多様な学習機会を提供することを意味する。たとえば、ある講義では新しい概念を導入し(抽象的概念化)、それをケーススタディで観察し(内省的観察)、ロールプレイで体験し(具体的経験)、プロジェクトで実行する(能動的実験)というように、学習サイクルを通して設計することが望ましい。

・③について; 経験学習の枠組みにおいて、教育者の役割は知識を一方的に伝達することではなく、学習者が自らの経験を通じて学ぶことを支援することにある。教育者は、学習者の経験に耳を傾け、反省を促し、理論と実践を橋渡しする促進者(facilitator)として機能する。

グループ学習への実践的応用

・経験学習は個人の学習だけでなく、グループの学習と発達(group learning and development)においても強力な枠組みとなる。

 <グループダイナミクスの理解>

・グループが効果的に学習するためには、個々のメンバーが持つ学習スタイルだけでなく、グループ全体の学習スタイル(集団としての傾向)にも注目する必要がある。たとえば、あるグループが省察的観察に偏っていれば、意思決定が遅れたり、行動に移るのが困難になる可能性がある。そのような場合は、能動的実験を重視するメンバーの意見を意識的に取り入れることで、バランスを取ることができる。

 <グループの学習サイクル>

・Kolbらは、グループもまた「経験 → 観察 → 概念化 → 実験」という学習サイクルを経ると考える。たとえば、ワークショップにおいて参加者が一つの体験を共有し、それについてグループで振り返り、共通の理解を形成し、今後の行動計画に落とし込むというプロセスは、この学習モデルと一致する。

 <ファシリテーターの指導>

・グループ学習における指導者(ファシリテーター)の役割もまた、伝達者ではなく、学習サイクルを促進する存在である。彼らは、グループの体験や観察を引き出し、グループ内の多様な視点やスタイルが活かされるように支援する。とくに、議論の偏りを防ぎ、異なる学習モードへの移行を意識的に促すことが求められる。

 <実践的応用>

・この枠組みは、組織開発(organizational development)、チームビルディング、リーダーシップ訓練など、多くの実践的な場面で応用されている。経験学習は、単なる知識伝達を超えて、組織や集団の変革(transformation)を促進するプロセスであると位置づけられている。

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<参考文献>

・Kolb DA, Fry R: Toward an applied theory of experiential learning. Theories of Gropu Process. John Willey, London, 1975.

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