銅欠乏症 copper dediciency
・銅欠乏症(Copper deficiency)は多彩な臨床症状を呈し、鑑別疾患として挙げられないことも多く、しばしば見逃されやすい。
・治療が遅れることで神経学的症状が不可逆的なものになることもある。
疫学/生理学
・銅は必須微量元素であり、胃、十二指腸、空調で吸収され、肝臓を介して全身へと運搬される。銅は多くの重要な酵素の補酵素として機能し、特に骨髄や神経系において重要な役割を担っている。
・過去の報告では銅欠乏症上の原因としては上部消化管手術歴が47%、亜鉛過剰摂取が16%、吸収不良(例: 炎症性腸疾患, セリアック病)が15%とされている。また、長期的な静脈栄養やアルコール過剰使用も原因となる。なお、約20%は原因が特定できない。
・上部消化管手術によるものでは特にRoux-en-Y再建法による合併症がよく知られる。
・体内において、亜鉛と銅は互いに拮抗する作用を有している点に留意する。これは亜鉛は腸管細胞で銅が結合する蛋白を増加させ、腸管細胞に銅をトラップして吸収を抑制するためと考えられている。たとえば亜鉛過剰状態になると銅が欠乏しやすいことが知られる。
主な臨床所見
・銅欠乏症では主に血液学的異常と神経学的異常が認められる。臨床的には亜急性脊髄連合変性症様の神経症状や骨髄異形成症候群様の血液異常をきたしやすい。
・血液学的には白血球減少や多彩な貧血(MCVは様々で大球性~小球性のいずれもあり得る)が認められるが、血小板減少を認めることは比較的稀である。主な鑑別疾患としてはビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症、薬物中毒、感染症、自己免疫疾患、骨髄異形成症候群(MDS)、再生不良性貧血、骨髄浸潤を合併したリンパ腫など幅広い。なかでもビタミンB12欠乏症では血液学所見のほか、神経学的所見もみられることがあり、病像が類似している点に留意する。
・なお、NEJMのClinical imageにおいて、ときに銅欠乏でみられる末梢血スメアでの異常所見が紹介されている。
診断/治療
・診断には血清銅とセルロプラスミンの測定を要する。
・銅補充により血球異常は比較的迅速に改善する。しかし、神経学的症状の改善は治療開始時期によって異なり、治療が遅れると不可逆的なものになったり、改善が部分的なものに留まったりする。したがって、早期の診断が重要である。
・治療としては一般的2mg/day(推奨摂取量(0.9mg/day)の約2倍)の銅の経口補充が推奨される。ただし、銅欠乏状態では腸管機能にも異常がなければ、腸管からの吸収効率が高まるため、それ以上の過剰な投与は不要である。なお、1日あたり2~3杯の純粋なココア摂取で0.4~0.6mg/dayの銅に相当するとされていて、参考文献に挙げた症例報告では1日2~3杯のココア摂取による治療が選択された。ココアによる治療の有効性については検証が十分でないが、症例報告では複数の有効性が示唆されている。
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<参考文献>
・Fujikawa H, Haruta J. Copper Deficiency: An Overlooked Diagnosis. Cureus. 2023 Nov 20;15(11):e49139. doi: 10.7759/cureus.49139. PMID: 38130564; PMCID: PMC10733163.
・Jaiser SR, Winston GP. Copper deficiency myelopathy. J Neurol. 2010 Jun;257(6):869-81. doi: 10.1007/s00415-010-5511-x. Epub 2010 Mar 16. PMID: 20232210; PMCID: PMC3691478.