2型糖尿病 type 2 diabetes
スクリーニングと予防
・2型糖尿病(T2D: Type 2 diabetes)には長い無症候期があり、その間に網膜症や微量アルブミン尿などの早期合併症を発症することがある。早期診断と治療は予後を改善する。
・米国糖尿病学会(ADA)の2024年ガイドラインでは35歳以上の成人においてT2Dスクリーニングを実施することを推奨していて、リスク因子(例: BMI高値)を有するケースではそれ以前からのスクリーニング実施を推奨している。
・USPSTFは過体重や肥満を有する成人に対して3年ごとにスクリーニングを推奨している。
・T2Dの一次予防には以下の方法が有効である。
- 生活習慣の改善(カロリー制限と運動)
- 必要に応じたメトホルミンの使用
・なかでも①が最も効果的であり、5~10%の減量を目指し、150分/週以上の中等度の強度の運動が推奨される。RCTでは3年間でT2D発症率は29%から14%へと低下した(The Diabetes Prevention Program)。なお、メトホルミン800mg 1日2回投与した群でも軽度の発症率低下が認められたが、特に60歳以上の患者では効果が乏しかった。
・新規にT2Dと診断された患者が早期に集中的な血糖管理(intensive glycemic control)を行うことで、たとえその後に血糖値が再び悪化しても、将来の合併症リスクを低く抑えられる効果が知られ、「レガシー効果(Legacy effect)」と呼ばれる。実際、早期の血糖管理により得られる合併症予防の恩恵の多くは治療開始から少なくとも10年ほど経過してから明確に現れることがある。したがってT2Dの管理において、診断早期からの適切な介入は重要である。
非妊娠患者におけるT2Dの診断
・高血糖の典型的症状(口渇, 多飲, 多尿, 体重減少)を有し、随時血糖値 200mg/dL以上であれば診断が可能である。症状が不明確な場合は異なる検体もしくは同一検体における2つの異常所見(例: 空腹時血糖(FPG)とHbA1c)によって診断される。
・診断閾値は以下の通り:
- FPG≧126mg/dL(7.0mmol/L)
- HbA1c≧6.5%
- 75gOGTTで2時間値≧200mg/dL
ただし、HbA1cと実際の血糖値とが乖離している場合には血糖値の測定による診断が優先される。
診断後の初期評価
・初期評価では心血管リスク因子および糖尿病合併症の把握を行う。
ADAは以下の内容を推奨している:
・病歴:食事, 運動, 睡眠, 体重, 家族歴, 社会歴, ワクチン接種歴,
抑うつ, 不安, 勃起障害, 摂食障害などの精神症状
・身体診察:BMI, 血圧, 心雑音, 神経障害, 足病変, 皮膚病変
高齢者では認知機能の評価も実施
・検査:HbA1c, 脂質プロファイル, 腎機能(尿中Alb/Cr比, 血清Cr), 肝酵素
・眼科受診(散瞳下眼底検査)
・心理社会的評価(経済的問題, サポート体制など)
治療の目標
・減量により過体重や肥満の患者の血糖コントロールが改善することから、ADAは最低でも5%以上の減量を目標にすることが推奨される。
・新規に診断されたケースでは可能な限り血糖値を正常化することで、将来的な合併症リスクを軽減することができる。ただし、低血糖を回避するように注意する。
・多くの非妊娠成人患者において、HbA1c<7.0%が推奨されるが、年齢、ADL、罹病期間、併存疾患、低血糖リスクなどに基づき、個別性に配慮したケアが重要となる。
非薬物療法
・非薬物療法としては生活習慣の改善(食事療法+運動療法)が基本となり、HbA1c低下と心血管疾患(CVD)リスク軽減に有効である。
<食事療法>
・食事療法(dietary intervention)では特にDASH食や地中海食が心血管保護作用を有する。
・特に過体重or肥満(BMI≧25(アジア人≧23))を有する患者では5~10%の減量を目標として、食事プランを組むこととなる。
・具体的な推奨事項:
- カロリー摂取を500~1,000kcal/日ほど減らすことを目安とする。
- 低カロリー食品(例: 低脂肪タンパク質(赤身肉や加工肉は回避), 果物, 非デンプン性野菜)を中心に据える
- 糖質を制限する
- 飲料は水などを中心として、加糖飲料(ジュースを含む)は回避する
- 脂質は不飽和脂肪酸(ナッツ類, 魚類, オメガ3脂肪酸)を推奨
- 高食物繊維食を積極的に摂取する
<運動療法>
・運動療法について、ADAは150分/週以上の有酸素運動と2回/週以上のレジスタンス運動が推奨されている。
薬物治療
・生活習慣の改善のみで不十分な場合、6~8週間を目安に薬物療法を開始する。なお、重度の高血糖(随時血糖値が常に180mg/dL以上など)、または症状(口渇, 多飲多尿, 体重減少)を有する患者では直ちに薬物療法を開始する。
・第一選択薬としてはメトホルミンが基本となる。ただし、アテローム硬化性心血管疾患(ASCVD)やCKDを有する患者ではSGLT2阻害薬やGLP-1RAを第一に選択することも検討可能である。
・チルゼパチド(マンジャロ®)はHbA1cおよび体重の低下効果が最も高いとされている。
<経口血糖降下薬の一覧表>

インスリンの導入
・症候性の重度高血糖や妊娠例では早期の導入を要する。
・通常は1日1回の基礎インスリン(Basal)から開始し、必要に応じて追加する。
・GLP-1RAやメトホルミンとの併用による治療も選択可能である。
・デグルデク(トレシーバ®)では低血糖リスクが低いというエビデンスがある。一般的な開始用量は0.1~0.2単位/kgである。
・利用可能なインスリン製剤の多くは作用発現と持続時間が異なる。ほとんどの患者でインスリン治療を受けている患者でHbA1cが1~2%低下し、特定のレジメンが優れているということはない。インスリン治療では低血糖リスクが高く、しばしば体重増加をきたす。
・目標血糖値を達成するために1日2回のインスリン注射でよい患者もいれば、より頻回の注射(食前注射など)を要する患者もいる。
・空腹時血糖値が正常であるにも関わらず、HbA1cが高値のままであれば、通常、1日のうちで最も多い食事の前の投与から開始する食前インスリン投与を考慮してもよい。
<各種インスリンの作用発現と機序>

<インスリン療法の絶対的適応>
①インスリン依存状態
②高血糖性の昏睡(DKA, HHS)
③重症の肝障害, 腎障害を有しているとき
④重症感染症, 外傷, 中等度異常の外科手術のとき
⑤糖尿病合併妊娠(ニシン糖尿病で, 食事療法のみで適切なマネジメントをできないときを含む)
⑥静脈栄養時の血糖コントロール
<インスリン療法の相対的適応>
①インスリン非依存状態のケースでも, 著明な高血糖(例: 空腹時血糖値 250mg/dL以上, 随時血糖値 350mg/dL以上)を認めるとき
②経口薬のみで良好な血糖コントロールが得られないとき
③痩せ型で栄養状態が低下しているとき
④ステロイド治療時に高血糖を認めるとき
⑤糖毒性を積極的に解除するとき
自己血糖モニタリングとCGM
・インスリン使用者においては標準的な治療といえる。
・非インスリン使用者でも行動変容を促す手段として一定の効果を有していると考えられている。
・CGMは特に頻回注射や持続注入療法を行っているケースで推奨される。
・標準的な血糖測定器を使用していて、長時間作用型インスリンを使用している場合、一般的に1日1回の空腹時血糖の測定が推奨される。空腹時血糖値が正常化した後に、HbA1cが高値のままであれば食前および食後の測定が有用である。
T2D合併症のリスク低下に有効なその他の介入法
・血糖コントロールに加えて、ASCVD発症リスクを低下させることが重要である。
・具体的には以下の内容が挙げられる:
- 禁煙治療(喫煙はASCVDおよび糖尿病合併症の主要なリスク因子)
2. 高血圧症の管理(ADAなどは130/80mmHg未満を推奨)
3. 脂質低下療法:
・40歳以上のT2D患者では中~高強度のスタチンを使用(LDL-Cに無関係)
・多くのASCVDリスクを有するケース, 既往を有するケースでは
LDL-Cを一次予防なら70mg/dL未満に, 二次予防なら55mg/dL未満を目指す。
・スタチン不耐例ではペムペド酸またはPCSL9阻害薬を考慮する。
4. 体重管理や肥満への介入
・生活習慣の改善が基本であるが達成困難であればGLP-1RAや肥満手術を考慮。
・そのほか精神疾患のスクリーニングを検討する。糖尿病には抑うつ、不安、摂食障害などの精神疾患を合併することがある。
・SDHの影響も検討する。背景に経済的困窮などの健康の社会的決定要因(SDH)が存在することがある。
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<参考文献>
・Crawford AL, Laiteerapong N. Type 2 Diabetes. Ann Intern Med. 2024 Jun;177(6):ITC81-ITC96. doi: 10.7326/AITC202406180. Epub 2024 Jun 11. PMID: 38857502.