IgA血管炎/Henoch-Shonlein紫斑病

IgA血管炎とその疫学

・IgA血管炎(Henoch-Schonlein紫斑病(HSP)とも呼ばれる)は小児の血管炎として一般的な疾患であるが、成人にも発症することがある。

・患者の90%以上10歳未満で、平均発症年齢は6歳とされている。

・小児の発症率は10万人年あたり10~20人である。

・IgA血管炎の診断のゴールドスタンダードは2010年に発表されたEULAR/PRINT/PRESによる分類基準となっている。この分類基準は小児発症例に適用した場合、感度100%、特異度87%であった。なお、成人症例に適用した場合、感度99.2%、特異度86%であることも判明している。

・IgA血管炎の診断に特異的な臨床マーカーは存在しない。

・IgA血管炎の発症例の大半は先行感染(通常、上気道感染症)を伴う。最も一般的に関連する病原体は連鎖球菌、パラインフルエンザウイルスである。小児発症例ではヒトパルボウイルスB19が関与しやすいことも知られている。

EULAR/PRINT/PRESの分類基準

  1. 下肢優位に生じる紫斑(必須項目)
  2. 以下のうち1つ以上が該当.
    • 急性経過のびまん性の腹痛 
    • 病理検査でIgA優位の沈着を伴う白血球破砕性血管炎や増殖性糸球体腎炎
    • 急性経過の関節炎or関節痛
    • ④蛋白尿or血尿を伴う腎障害

臨床症状/臨床経過

・IgA血管炎の典型的な4徴としては紫斑、関節痛(or関節炎)、消化器症状、腎障害が挙げられる。

・これらの臨床症状は数日~数週間の経過で生じる。症状の出現順序は様々であるが、一般的に紫斑と関節痛が初期からみられやすい

・小児患者150人を対象にした研究では全ての患者触知可能な紫斑が認められたと報告された。なお、関節炎が74%、腎障害は54%、消化器症状は51%で認められた。

・一方で、成人患者260人を対象にした研究によると、成人例でも全ての患者触知可能な紫斑が認められていた。なお、関節炎は62%、糸球体腎炎は70%、消化器症状は53%で認められた。

・また、成人患者75人と小児患者208人を比較した研究によると、小児患者では成人患者に比して関節炎腹痛の頻度がより高かった。一方で、成人患者では下肢の浮腫高血圧症のケースがより多かったことが報告された。

・なお、頻度は低いが、中枢神経限局性血管炎、精巣出血、間質性肺炎とそれに伴う肺胞出血なども認められることがある。

 <皮膚症状>

・通常、点状出血または触知可能な紫斑として認められる。ただし、ときに紅斑性丘疹や蕁麻疹も認められる。

・ときに水疱病変や壊死性病変に進行することがある。

・皮疹は下肢や臀部にみられやすい。ただし、患者の約1/3で体幹および上肢にも皮疹が認められると報告されている。なお、出血性の皮膚所見が消失するとヘモジデリン沈着による皮膚の色素沈着が数週間ほど続くことが多い。

 <関節症状>

・患者の約15%では関節炎が初発症状となる。

・通常は非破壊性の他関節痛が膝関節や足関節に生じる。ときに手関節などにも症状が生じることがある。障害された関節においては疼痛、腫脹が生じる。

 <消化器症状>

・患者の10~40%では消化器症状が皮膚症状に先行する。

・消化器症状は腸管壁に免疫複合体が沈着することで生じると考えられている。

・16歳未満の患者221人を対象にした研究では57%で腹痛が認められていた。また、黒色便は8%、吐血は1%程度で認められていた。

・重症例では急性腹症様の腹痛を呈する。合併症としては腸管穿孔、腸重積、腸管虚血などが知られる。

・便中カルプロテクチンは消化器症状がIgA血管炎によるものかどうかの判定に関して信頼性の高いマーカーとなり得ることが示唆されている。

 <腎障害>

・小児患者の20~55%で皮疹出現から1~3ヶ月以内に腎障害が生じる。IgA血管炎により、腎実質が障害されるとIgA腎症を生じる。

・症状は顕微鏡的血尿や、軽度の蛋白尿からネフローゼ症候群、腎炎、腎不全まで様々である。

・最も一般的な所見としては顕微鏡的血尿であり、通常は発症後4週間以内に認められる。

・高血圧症はIgA血管炎の発症時あるいは軽快時にみられることがある。

 <中枢神経症状>

・稀であるが、IgA血管炎で中枢神経症状がみられることがあり、通常は発症から2~4週間後に出現する。

・典型的な症状としては頭痛、発作(seizures)、めまい、異常行動などが挙げられる。稀であるが、運動失調、頭蓋内出血、単神経障害などが知られる。

治療

・通常は良性の経過をたどるため、鎮痛薬、補液などによる対症療法が基本となる。

腎障害を合併するケースではステロイド治療が行われる。ステロイド治療の有用性については議論が分かれている。そのほかシクロホスファミドやシクロスポリンなどの免疫抑制薬が使用されることもある。そのほか持続性蛋白尿がみられるケースではACE阻害薬またはARBの投与が推奨される。薬物治療のエビデンスに関する詳細は割愛する。

・ステロイド投与による腎障害の予防的効果は示されていない。なお、ステロイド投与により、腹痛の重症度と持続期間を軽減する効果は示唆されている。

・下腿浮腫が顕著なケースでは圧迫療法(例: 弾性ストッキング)も検討される。

IgA血管炎と悪性腫瘍

・悪性腫瘍の2~5%は血管炎の発症に関連している。また、その大半は血液腫瘍に関係していることが示唆されている。なお、血管炎は悪性腫瘍と診断される前に発症することもあれば、後に発症することもある。

・一方で、ことIgA血管炎に限定すると血液腫瘍よりも固形腫瘍に関連しやすく、特に消化管、呼吸器、尿路の悪性腫瘍と関連性がある。

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<参考文献>

・Hetland LE, Susrud KS, Lindahl KH, Bygum A. Henoch-Schönlein Purpura: A Literature Review. Acta Derm Venereol. 2017 Nov 15;97(10):1160-1166. doi: 10.2340/00015555-2733. PMID: 28654132.

・Ronkainen J, Koskimies O, Ala-Houhala M, Antikainen M, Merenmies J, Rajantie J, Ormälä T, Turtinen J, Nuutinen M. Early prednisone therapy in Henoch-Schönlein purpura: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. J Pediatr. 2006 Aug;149(2):241-7. doi: 10.1016/j.jpeds.2006.03.024. PMID: 16887443.

・Samuel S, Bitzan M, Zappitelli M, Dart A, Mammen C, Pinsk M, Cybulsky AV, Walsh M, Knoll G, Hladunewich M, Bargman J, Reich H, Humar A, Muirhead N. Canadian Society of Nephrology Commentary on the 2012 KDIGO clinical practice guideline for glomerulonephritis: management of nephrotic syndrome in children. Am J Kidney Dis. 2014 Mar;63(3):354-62. doi: 10.1053/j.ajkd.2013.12.002. Epub 2014 Jan 11. PMID: 24423782.

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