急性口腔病変 acute oral lesions

急性口腔病変とその疫学

・口腔病変は感染症、自己免疫疾患、外傷、全身性疾患、薬剤性など様々な要因により生じる。

・その多くは自然治癒し、検査や治療を要さないことも少なくない。

・症状の持続期間、出現頻度、症状の性質(例: 疼痛, ヒリヒリ感, 知覚過敏)について質問することが一般的である。

免疫介在性疾患

 <再発性アフタ性口内炎/アフタ性潰瘍>

・再発性アフタ性口内炎(以下RAS: reccurent aphthous stomatitis)は単純に口内炎とも呼ばれ、人口の最大20%でみられる免疫介在性疾患である。

・RASは小児期、思春期に発症し、40歳以上では出現頻度が低くなる

・患者によっては年に数回から、毎月のように出現するケースもある。

・女性のなかには月経開始の数日前に小さなアフタ性潰瘍が出現する人もいる。この場合、大きさも深さも様々である。

・正確な病態生理は明らかとなっていないが、一部の患者は遺伝的要因、ストレス、ホルモン変化、免疫学的要因、局所の外傷、喫煙、過敏性反応、ビタミンB12やビタミンDの欠乏などが関係していることが明らかとなっている。

・重要なことは貧血消化管疾患(例: Crohn病)などの全身性疾患によりアフタ性潰瘍を合併する可能性があることであり、そちらの可能性も考慮することが重要である。

・RASは通常、口唇や頬粘膜に出現し、治癒した後に瘢痕を残さない。また、通常は1cm未満の大きさで単発性である。必要に応じてデキサメタゾン軟膏を利用することも可能である。

・直径1cm以上で疼痛が明瞭なアフタ性潰瘍ではHSV感染症による影響も想定する。通常は7~10日以内に自然治癒する。重症例では体重減少などを来し得る。

全身性疾患に関連したアフタ性口内炎では1~2週間で自然治癒することは少ない

ビタミンB1/B2/B6/B12、葉酸、鉄分が欠乏している患者でもアフタ性潰瘍が生じることがある。疑わしい場合には血液検査で確認をすることが望まれる。

・10~20歳の若年者ではPFAPA症候群も鑑別に挙げられる。

セリアック病はグルテン蛋白に対する過敏反応によって生じる小腸を主座とする自己免疫疾患である。セリアック病患者の3~61%はアフタ性潰瘍が生じることがある。消化管症状(例: 下痢, 吸収不良)を伴う患者では血清学的検査(抗組織トランスグルタミナーゼIgA抗体(tTG抗体))と十二指腸生検による精査を検討する。セリアック病患者であれば、グルテンフリーの食事で症状が改善するはずである。

・アフタ性潰瘍は潰瘍性大腸炎(UC)Crohn病(CD)でもみられることがある。そのほか口唇腫脹、歯肉/口腔粘膜の腫脹、口角炎を伴うこともある。

 <多形紅斑(Erythema multiforme)>

・多形紅斑はHAD-DRw53やHLA-Aw33などとの関連性が示唆される急性発症でSelf-limitedな経過をたどる皮膚粘膜疾患である。

・多くは20~40代の男性に好発する。

特定の薬剤(抗けいれん薬, NSAIDs, サルファ剤)、感染症(HSV感染に伴う過敏反応、M.pneumoniae)、月経が発症に関連し得る。

・倦怠感、頭痛、発熱、咽頭痛が病変出現の数日~2週間前に先行することがある。

・口腔内のアフタ性潰瘍は疼痛を伴う。

・皮膚病変は対称性に出現し、丘疹性紅斑が出現する。主に四肢遠位部の伸側にみられやすい。

・眼および外陰部の粘膜が侵されることもある。

・各病変は2~4週間程度続き、瘢痕を残さずに治癒する。

・診断は通常、臨床的に行われるが、悩ましい場合には生検が検討される。

・治療には鎮痛薬投与をしつつ、重症例ではステロイド全身投与も検討可能である。<感染性疾患>

感染性疾患

 <ヘルペス性歯肉口内炎>

ヘルペス性歯肉口内炎HSV-1またはHSV-2の初感染に伴う症状として現れる。これらのウイルスに初感染した患者の約20~30%で、7~10日間続く疼痛を伴う口腔内アフタ性潰瘍が出現する。

・症例の約90%HSV-1由来である。なお、HSV-2由来のケースでは外陰部粘膜も侵されやすい。

・初発のヘルペス性歯肉口内炎は6歳までに発症することが多いが、20代でも発症することがある。

・通常、口腔粘膜に1~5mmの疼痛を伴う小水疱病変が複数みられ、歯肉の腫脹および粘膜出血もみられる。小水疱は破裂して、多発性の潰瘍を形成する。ときに無症状であるが、通常は疼痛を伴う。

・口腔内病変が出現する前に、発熱、倦怠感、頚部リンパ節腫脹がみられることがある。

・診断は通常、臨床的に行われるが、感染者との最近の接触歴が参考になることもある。必要に応じて病変部からのウイルスPCR検査でも診断が確定できる。

・対症療法が基本となり、鎮痛薬やうがい薬などで対処することが多い。通常は抗ウイルス薬は不要であるが、発症3日以内に投与を開始すれば有症状期間を短縮できる。

・一部はヘルペス脳炎を合併する。

 <HSVの再活性化>

・HSVは初感染の後、通常は三叉神経節(V3)に潜伏し、身体的または精神的ストレスなどにより再活性化する。なお、HSVの再活性化は約40%で経験する。

・HSV再活性化では口唇ヘルペスとして顕在化しやすく、口唇に紅暈を伴う水疱が集族する。特に発症初期は病変部からウイルスが分離されるため、その時期には他の健常者との接触を避けるべきである。

・また再活性化例でも前述の歯肉口内炎として発症することもある。

・発症48~72時間以内に抗ウイルス薬の局所または全身投与により有症状期間を短縮できる場合がある。

 <水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)>

・VZVはHHV-3に属し、急性感染あるいは再活性化時にHSV-1またはHSV-2感染症と同様の症状が出現することがある。

 <コクサッキーウイルス>

・コクサッキーウイルス感染症には手足口病とヘルパンギーナの2病型が挙げられる。

・手足口病はときに成人でも発症するが、通常は5歳未満の小児で発症する。

・特にエンテロウイルス71とコクサッキーウイルスA16によって生じる。

・コクサッキーウイルスA6が原因の場合では体幹、四肢、顔面に小水疱、痂皮などの非典型的な病変をきたすことがある。

・本邦では特に夏季に流行する。数年おきに流行する傾向があり、その間に手足口病に罹患したことのない小児が増える。

・主に糞口感染、飛沫感染、接触感染などで感染は広がる。

・発症1週間以内が最も感染力が強い。なお、ウイルスは便中に最長で4~8週間含まれるという報告もある。なお、エンテロウイルス71の家庭内感染率は52~84%という報告がある。

・潜伏期間は3~6日間とされる。

・手足口病は主に手掌および足底における斑状、丘疹状発疹と、発熱、有痛性の口腔内潰瘍によって臨床診断される。診断に悩む場合にはエンテロウイルス、コクサッキーウイルスに関する血清学的検査やPCR検査も検討されるが、一般医療機関では難しいかもしれない。

・皮疹は直径2~6mm程度で、紅斑もみられ、小水疱へと進展し、最終的に無痛性の浅い潰瘍に至る。ただし、ときに皮疹は非典型的な所見を呈する。

・有痛性口腔内潰瘍は軟口蓋を含む口腔内の後部に生じる。ときに舌や頬粘膜にも所見を伴い、疼痛で食事摂取などもままならないこともある。

・皮疹や口腔内潰瘍の病変は通常、7~10日間程度で消失する。

・手足の爪が剥離することもある(爪甲脱落症)。また、爪の変形や爪溝が生じることもある。

・稀ではあるが、無菌性髄膜炎、急性弛緩性麻痺、脳脊髄炎などの合併症を生じることがある。特にエンテロウイルス71による場合が多い。その他の合併症として、肺水腫、肺出血、心不全、呼吸不全が挙げられる。

・手足口病はSelf-limitedな経過をたどり、原則として支持療法が中心となる。

・鎮静薬、解熱薬、十分な経口的水分補給を行う。

・疼痛や発熱についてはアセトアミノフェン、イブプロフェンで対処が可能である。

・抗ウイルス薬は使用できない。アシクロビル(ACV)を利用した13例を対象とした臨床試験では24時間以内の発熱および皮疹の改善を示したと報告されているが、十分なエビデンスとはいえない。

・適切に水分補給ができないケースや、前述の神経系合併症、心肺における合併症がみられるケースでは入院を検討する。

・免疫グロブリン静注療法(IVIG)の実施は推奨されていない。アジアにおいては重症例においてIVIGを使用するケースもあり、主に心肺系の合併症への進展予防を期待されているようである。

その他の潰瘍性病変

 <周期性好中球減少症>

周期性好中球減少症は好中球エラスターゼ遺伝子ELANEの突然変異により生じる稀な遺伝性疾患であり、通常21日周期で好中球が減少する

・患者の97%で好中球減少期において口腔内アフタ性潰瘍が生じる。

・潰瘍は比較的深く、疼痛を伴うことが多い。

・患者は1週間に数回、G-CSF製剤による治療を受ける必要がある。

口腔内衛生を徹底し、定期的に歯周病に関するメンテナンスを受けることが重要である。

 <Traumatic ulcers>

熱傷、機械的損傷、化学的損傷の後に潰瘍が生じることがある。

・化学的損傷にはアスピリンなどの薬剤、酸への曝露、次亜塩酸ナトリウム溶液(歯科で使用)、ニンニクを含む食品などにより生じ得る。

・原因を除去することが治療としては優先される。生活習慣の改善、補綴の調整なども含まれる。原因を除去しても潰瘍が治癒しない場合には悪性腫瘍の可能性やほかの基礎疾患が存在している可能性を想定する必要がある。

・Traumatic ulcersでは生検を行うと壊死と著明な好酸球浸潤が認められることがあり、これはTUGSE(Traumatic ulcerative glanuloma with stromal eosinophilia)という疾患でみられる所見である。TUGSEは40~60代で後発し、特に義歯を利用している人に多い。発症率において性差はない。臨床的には急速に拡大する持続性の潰瘍となり、悪性腫瘍が疑われることが多いが、TUGSE自体は良性疾患であり、生検後に自然治癒することが多い。

 <壊死性唾液腺化生>

壊死性唾液腺化生(Necrotizing sialometaplasia)は主に小唾液腺の虚血に伴う反応性の上皮細胞増殖を指し、通常良性の経過をたどる。

・悪性腫瘍に類似するため、診断には生検を要する。適切に診断ができれば経過観察のみで良く、特別な治療を必要としない。

・特に硬口蓋粘膜に好発し、次いで軟口蓋、口腔底に生じやすい。

・病変は1cm以上の疼痛を伴う、境界明瞭な隆起性紅斑として現れることが多い。

その他の急性口腔病変

 <粘液瘤>

・粘液瘤(mucoceles)は小唾液腺からの粘液漏出により生じ、機械的要因により生じやすい。

・小唾液腺を含むあらゆる粘膜表面に発生するが、下口唇、口腔底、頬粘膜にみられやすい。

・10代を含む若年者に好発するが、あらゆる年齢で発症し得る。

・1cm未満、単発で境界明瞭な円形の病変である。

・無症状なケースもあるが、審美的な問題をきたすこともあり、多くの場合は外科的切除を行うこととなる。

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<参考文献>

・France K, Villa A. Acute Oral Lesions. Dermatol Clin. 2020 Oct;38(4):441-450. doi: 10.1016/j.det.2020.05.005. PMID: 32892853.

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