脾摘後の感染症およびマネジメント

脾摘後の感染症

・脾摘後の敗血症患者の死亡率は1966年から1996年における報告では46%であった。

・特に肺炎球菌(S.pneumoniae)を起因菌とした感染症が問題となることが多く、しばしば急激な経過で発症し、劇症化する。臨床症状はときに非特異的で、発熱、悪寒、咽頭痛、筋肉痛、悪心/嘔吐、下痢などの短い前駆期を伴う。また、肺炎や髄膜炎を併発することもあるが、感染源を特定しがたいこともある。ショック状態に至ることもあり、また播種性血管内凝固(DIC)や重度の低血糖を合併することもある。

・ときに末梢血塗抹でGPCが確認できるほどに重度の菌血症を合併する。

・脾摘後の敗血症は脾摘後患者の全ての発熱で疑うべきである。

・肺炎球菌以外に、インフルエンザ菌(Hib)、髄膜炎菌に対する抵抗性が低下する。

・脾摘後の敗血症のリスクは脾摘時の患者の年齢、脾摘後の時間経過など、様々な要因により異なる。また、外傷により脾摘術を受けた患者では最も敗血症リスクが低い。一方で、遺伝性球状赤血球症、免疫性血小板減少性紫斑病が原因疾患の場合は中等度のリスクで、サラセミア、鎌状赤血球症、門脈圧亢進症が原因疾患の場合は最もリスクが高いことが知られている。

・少なくとも小児においては敗血症のリスクが脾摘後1年間において最も高い。ただし、その後も基本的に生涯にわたってリスクは高いままと考えられている。

脾臓の機能と脾摘により免疫不全が生じる理由

・脾臓は①血液中の細菌や老化した細胞を除去する機能(phagocytic filter) ②抗体産生機能(液性免疫) の2つの役割を主に担っている。

・脾臓は最大のリンパ組織であり、莢膜を有する細菌のオプソニン化に必要なIgMを産生する臓器である。オプソニン化された細菌は肝臓または脾臓において除去されやすくなる。なお、莢膜を有する細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌(Hib)、髄膜炎菌)はオプソニン化を受けにくい性質があり、基本的に脾臓のみで除去される。それゆえに脾摘後の患者では前述の莢膜を有する細菌に対して易感染性が生じることとなる。

脾摘後のマネジメント

・脾摘後の敗血症、感染症予防のためには①患者教育 ②ワクチン接種 ③予防的抗菌薬投与 の3つの柱が重要となる。

 <患者教育>

・前述のとおり、脾摘後は免疫不全が生じることを理解してもらうことが重要である。

・そのうえでワクチン接種の重要性も共有しつつ、発熱や悪寒などが生じた場合にはなるべく早く病院受診をすることを理解してもらうこととなる。

 <ワクチン接種>

・脾臓摘出が予定されている状況の場合は術前にワクチン接種を行うことが推奨される。

・しかし、ときに脾摘は予定外に行われることもあり(例: 外傷)、その場合には手術後14日間以上を空けて接種することとなる。

・具体的に接種対象となるワクチンは肺炎球菌ワクチン、髄膜炎菌ワクチン、インフルエンザ菌B型(Hib)の3つである。

・肺炎球菌ワクチンは可能であればPCV13の接種を先抗させ、その8週間後以降にPPSV23を接種することとなる。なお、既にPPSV23を接種済みのケースでは1年間以上空けたうえでPCV13を接種することが推奨される。PPSV23は5年間おきに接種を繰り返すこととなる。

・髄膜炎菌ワクチンについては4価髄膜炎菌ワクチン(メナクトラ筋注®)を利用する。メナクトラは2~3ヶ月の間隔で2回接種を行う。なお、その後は5年間隔で接種を行うこととなる。また、PCV13接種を行った場合にはその4週間後以降にメナクトラを接種することとなる。

・Hibワクチンについては1回接種を行うことが推奨されている。

・インフルエンザウイルスワクチンの毎年の接種を行うことも望ましい。これはインフルエンザウイルス感染症が肺炎球菌および黄色ブドウ球菌による肺炎or敗血症の契機となることがあるためである。

・生ワクチンの接種は禁忌とならない。

 <予防的抗菌薬投与>

・予防的なペニシリン系抗菌薬投与の有効性に関しては鎌状赤血球症の小児患者を対象にしたものが主であり、他のケースではその有用性を支持するデータが十分とはいえない。

・生後3~36ヶ月の鎌状赤血球症を有する小児においては予防的抗菌薬の投与により脾摘後の感染症発症率、死亡率が低下することが示されている。

・投与期間は5歳になるまでか、あるいは脾摘後1~2年以上とされている。

・脾摘後患者がイヌ咬傷を起こした際には予防的に抗菌薬投与を行うべきであり、C.canimorsusによる感染症を予防できる可能性が示唆されている。

・脾摘患者で発熱がみられた際には劇症感染症の初期症状である可能性があるため、速やかに抗菌薬投与を行うことが検討される。経験的治療の選択肢として、CTRX静注(or筋注)が検討され、状況に応じてVCM併用も検討する。CTRXはほとんどの肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌、カプノサイトファーガ属に有効である。

―――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・Rubin LG, Schaffner W. Clinical practice. Care of the asplenic patient. N Engl J Med. 2014 Jul 24;371(4):349-56. doi: 10.1056/NEJMcp1314291. PMID: 25054718.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です