急性中毒/トキシドローム Toxidrome

急性中毒とその分類

・急性中毒の診断は臨床診断によるものが多く、また病歴やバイタルサインなど考察するトキシドローム(toxidrome)は重要である。

・トキシドロームはtoxicとsyndromeとを合わせた言葉で、あるカテゴリーに分類される薬剤の中毒で生じる症状の組合せを指す。

・主な分類でいえば、①抗コリン薬中毒 ②交感神経賦活薬中毒 ③セロトニン症候群 ④コリン作動性中毒(コリン作動性クリーゼ) ⑤オピオイド中毒 ⑥鎮静/催眠剤中毒 に大別される。

初期の臨床アセスメント

・トキシドロームの種類に関わらず、全ての患者においてABCの確保、支持療法が行われる。

・気道確保が困難であれば、必要に応じて補助換気、気管内挿管を行うこととなる。

・低血圧であれば、まずは十分な補液を行う。なお、肺水腫などの有害事象が生じないよう、慢性心不全などの併存疾患にも留意しながら補液量を適宜調整する。

尿量は腎灌流量の指標となるため、特に血行動態が不安定な患者においては膀胱留置カテーテル挿入を行う必要性が高い。

・またモニター管理として、酸素飽和度、心電図波形に注意するべきである。

・中毒診療においては①病歴/身体所見/バイタルサインをもとにしたトキシドローム ②血液検査 ③尿検査 ④心電図検査 が特に重要である。

血液検査

・すぐに検査結果が判明しないことも多いが、被疑薬があれば血中濃度測定を実施することも少なくない。

アニオンギャップ(AG)、浸透圧ギャップが参考になることもある。

 <AG開大をきたす原因>

・AG開大をきたす原因は”GOLD MARK”というネモニクスで知られる。

 ・G:Glycols(グリコール(エチレン, プロピレン, ジエチレングリコール)

 ・O:Oxoproline(アセトアミノフェン)

 ・L:L-Lactic acidosis(L-乳酸アシドーシス)

 ・D:D-Lactic acidocis(D-乳酸アシドーシス(主に短腸症候群))

 ・M:Methanol(メタノール)

 ・A:Aspirin(アスピリン)

 ・R:Renal failure(腎不全)

 ・K:Ketoacidocis(ケトアシドーシス)

 <浸透圧ギャップ>

浸透圧ギャップ(正常値 10mOsm/kg・H2O)=実測の血漿浸透圧−計算上の血漿浸透圧

 ※「計算上の血漿浸透圧=2×Na+BUN/2.8+Glucose/18」

・浸透圧ギャップが開大する外因性物質としては

 ・アルコール中毒(メタノール/エタノール/エチレングリコール/プロピレングリコール/イソプロピルアルコール)

 ・マンニトール/グリセオール

 ・慢性腎不全/乳酸アシドーシス/糖尿病性ケトアシドーシス/アルコール性ケトアシドーシス/飢餓性ケトアシドーシス/ショック/高脂血症/高蛋白血症

心電図検査

・心電図検査ではwide QRS、QT延長の有無などについて特に注意して評価をする。

・wide QRSは主に三環系抗うつ薬、抗けいれん薬、抗精神病薬、抗不整脈薬などで生じ得る。

・QT延長は抗精神病薬、抗菌薬、抗不整脈薬を含む様々な薬剤で生じ得るが致死的不整脈(TdPなど)の原因となることもあるため注意を要する。QT延長はKチャネルの遮断作用を有する薬剤で生じる。

・QT延長では先天性QT延長症候群、僧帽弁逸脱症、低カリウム血症、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、低体温、虚血性心疾患、甲状腺機能低下症なども鑑別として重要である。

尿検査

尿中薬物スクリーニングキットが使用されることがある。

・しかし、Kellermannらは尿中薬物スクリーニングが中毒患者のマネジメントに影響を及ぼさないことを指摘している。一方で、ルーチンでの実施を支持するエキスパートもいる。

・いずれにせよ偽陽性や偽陰性の結果が生じる可能性を踏まえて結果を解釈しなければならないのは他の臨床検査と同様といえる。総合感冒薬により覚醒剤に関連する項目が陽性となる場合があることはよく知られている。

治療

・中毒診療の原則としては①全身管理 ②吸収阻害 ③排泄促進 ④拮抗薬の投与 が挙げられ、原因物質次第では全てを網羅することはできない。

・コリン作動性中毒(コリン作動性クリーゼ)の場合にはアトロピン投与が適応となる。アトロピンは静注、筋注、気管内投与のいずれでも投与が可能。プラリドキシム(PAM)は有機リン中毒でのみ使用される。オピオイド中毒ではナロキソンで拮抗させることができる(例: ナロキソン1mL(=0.2mg) 緩徐に静注)。なお、ナロキソンの臨床的有効性を維持できる時間は30~60分間程度であることに留意する。このように中毒の原因によっては拮抗薬が存在する場合がある

・臨床現場で血液透析(HD)が適応となりやすい中毒はカフェイン、テオフィリン、メタノール、エチレングリコール、リチウム、アスピリン、メチルキサンチン、フェノバルビタール、バルプロ酸、カルバマゼピンが知られている。

胃洗浄はエビデンスが十分とはいえないと考えられている。ただし、胃内に薬剤が残存している場合、拮抗薬などの有効な治療法が存在しない場合などでは実施が検討されることがある。なお、胃洗浄の適応の指標として摂取1時間以内かどうかという点が従来使用されていたが、こちらは数十年前のスタディをもとにしていて、明確な根拠とは言い難いという見方もある。

尿アルカリ化を図る場合もある。これは尿アルカリ化により薬剤の再吸収を抑制し、尿排泄を促すことが目的である。主にアスピリン中毒、メトトレキサート中毒、フェノバルビタール中毒、フッ化物中毒などで適応となる。尿アルカリ化には炭酸水素ナトリウムが使用される。

活性炭は多孔質の炭素であり、その表面積の広さを利用して原因薬剤を吸着する作用を有する。ルーチンでの使用は推奨されないが、気道が確保されているケースなどでは検討される。また、特にアセトアミノフェン中毒、カルバマゼピン中毒などでの有効性が示唆されている。

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<参考文献>

・Holstege CP, Borek HA. Toxidromes. Crit Care Clin. 2012 Oct;28(4):479-98. doi: 10.1016/j.ccc.2012.07.008. Epub 2012 Aug 27. PMID: 22998986.

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・Boyle JS, Bechtel LK, Holstege CP. Management of the critically poisoned patient. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2009 Jun 29;17:29. doi: 10.1186/1757-7241-17-29. PMID: 19563673; PMCID: PMC2720377.

・近藤豊.(2023).救急外来Controversy.中外医学社.

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