脳出血 IPH: intraparenchymal hemorrhage

脳出血とその疫学

・脳出血(IPH: intraparenchymal hemorrhage)は脳卒中の6.5~19.6%を占め、依然として死亡率が高い疾患の一つである。

・1年生存率は約40%で、10年生存率は24%という報告がある。

原発性脳出血は全症例の78~88%を占め、その原因としては高血圧症あるいはアミロイドアンギオパチーが最も一般的である。

・続発性脳出血の原因としては凝固異常、脳静脈洞血栓症、もやもや病、血管炎、腫瘍、出血性梗塞、感染性性動脈瘤、脳動静脈奇形(AVM)、動静脈瘻、海綿状血管腫の破裂などが知られる。

・ある研究では高血圧症が脳出血の最大のリスク因子であることが示唆された(OR: 9.18(95%CI: 6.80-12.39)。その他のリスク因子としては喫煙(OR: 1.45(1.07-1.96))、アルコール摂取(1-30ドリンク/月)(OR: 1.52(1.07-2.16))、アルコール多飲(30ドリンク/月以上)(OR: 2.01(1.35-2.99))が示された。

・アミロイドアンギオパチーは皮質下出血の独立したリスク因子とされている。

臨床症状

突発的に出現した頭痛、けいれん発作(seizure)、局所の神経学的脱落(focal neurological deficit)では脳出血の可能性を考慮してWorkupを行うべきである。

突発完成の症状では脳梗塞も鑑別に挙げられるが、特に頭痛、悪心/嘔吐などが認められる場合には特に出血性病態の疑いの方が強まる。

・原発性脳出血に関する研究では患者の60%で上肢の麻痺、50%に下肢の麻痺、59%で構音障害あるいは失語症が認められたと報告されている。また、患者の41%でGCS 13~15,40%で9~12、20%で5~8であったと報告された。

・海綿状血管腫あるいは脳静脈洞血栓症が原因の続発性脳出血では特にけいれん発作(seizure)を伴いやすい。

・血管奇形あるいは静脈洞血栓症が原因の続発性脳出血はより若年発症例が多く、通常は高血圧症が併存していない。

アセスメント/診断

・脳出血の迅速な評価と診断は極めて重要である。脳出血患者の25%は病院への搬送中に状態悪化がみられ、さらに25%は救急部(ER)で状態悪化をきたすとされている。

・救急外来における状態悪化のリスク因子としては抗血小板薬の内服、症状発現から救急外来到着までの時間が3時間未満、脳室内穿破を合併していること、2mm以上の正中偏倚(midline shift)などが挙げられる。

・診断には頭部CT撮像が推奨される。

・初期評価では病歴聴取のほか、症状発現時期の特定、併存疾患(例: 高血圧症)、内服薬(例: 抗血小板薬)、神経学的診察が行われる。

・重症度評価としては原発性脳出血に関してはthe intracerebral hemorrhage scoreが利用可能で、死亡率を予測できる。このスコアリングでは来院時のGCS、年齢、テント下出血の有無、出血、脳室内穿破の有無に基づいて算出される。

CTAでは動静脈シャント、脳静脈洞血栓症、動脈瘤の有無を特定可能である。

治療

神経学的脱落所見を伴う患者のほか、意識障害を有する患者では誤嚥、低酸素血症、高CO2血症による二次的障害のリスクを軽減するために気道確保を行うことが重要。特に脳ヘルニアの合併が切迫しているような患者では気管挿管のうえ、マンニトール投与で、頭蓋内圧を軽減することも検討される。

 <止血と凝固異常>

・凝固因子欠乏や血小板減少に続発する脳出血のケースではそれぞれ凝固因子補充療法または血小板輸血を行うべきである。ワルファリン投与によりPT-INR高値となっているケースではビタミンK製剤(ケイツー®)あるいはプロトロンビン複合体製剤(ケイセントラ®)の静注による拮抗を行うことを検討する。ビタミンK製剤での拮抗によるPT-INRの回復には12~24時間程度要することが多く、即効性を期待する場合には新鮮凍結血漿(FFP)プロトロンビン複合体製剤(ケイセントラ®)の静注による拮抗を行うことを検討する。

・DOAC、特にダビガトラン(プラザキサ®)を使用している患者ではイダルシズマブ(プリズバインド®)による拮抗も選択肢として存在する。

・脳出血患者へのトラネキサム酸(TXA)の経験的投与は推奨されていない。ただし、2018年のTXA vs プラセボによるRCTでは投与90日時点での死亡率や予後に有意差がなかったものの、TXA投与群では重篤な有害事象が低い傾向にあることが示されていて、投与が不適切といいきることはできない。

・抗血小板薬を使用している患者に対して血小板輸血を行うことは非推奨である。投与により死亡率上昇が示唆される研究結果が存在する。

 <内科的治療>

・血腫増大は予後悪化の独立したリスク因子であるが、脳出血症例の最低でも30~38%で生じる。

・血腫増大による二次性脳損傷のリスク軽減のためにsBPを最適化することが重要である。sBP 220mmHgまでの範囲にある患者ではニカルジピンなどの静注製剤を利用し、可能な限り速やかに血圧を140mmHg未満にまで低下させるべきである。

・患者はICUあるいは専門の脳卒中ユニットに入院することが原則である。

・脳出血患者に対する予防的な抗てんかん薬の投与は非推奨であり、むしろ予後を悪化させる可能性が示唆されている。ただし、けいれん発作(seizure)がみられる患者では投与を行うべきである。

・高血糖および低血糖は適宜是正されるべきであり、早期の嚥下リハ、心電図検査、TnTを用いた心臓スクリーニングも行うべきである。

・間欠的空気圧迫法による下肢DVTの予防は実施するべきである。脳出血に関して止血が得られ、安定化が得られた翌日からヘパリン皮下注や低分子ヘパリンの使用を行える。

・重症脳出血症例ではストレス潰瘍の合併なども懸念し、PPIの予防的投与も推奨される。

 <外科的治療>

水頭症の評価、減圧術、血腫除去術の必要性があることを考慮し、緊急で脳神経外科医へのコンサルテーションを行うことが推奨される。

・脳出血患者で、画像検査で水頭症の存在が明らかな場合意識障害が認められる場合では脳室ドレナージの実施が推奨される。大規模臨床試験では原発性脳出血患者の23%、脳室内穿破を伴う患者の55%で水頭症の合併が認められたと報告されている。

・少なくとも3cm以上の小脳出血のケースでは、減圧術およびドレナージ術が検討される。

・テント上脳出血(supratentorial IPH)に対するドレナージ術の有効性についてはエビデンスの確実性が一部低いものの、血腫量が多いケース、臨床症状が悪化傾向にあるケース、昏睡状態にあるケースでは血腫除去術が検討される。

 <続発性脳出血>

・続発性脳出血の早期治療は基本的には原発性脳出血のそれと同一であるが、脳出血の原疾患を特定し対処することも重要である。

・外科的処置が可能な破裂後の脳動静脈奇形(AVM)は切除などが検討されるべきである。また、出血性海綿状血管腫も同様に手術可能な場合には手術を検討する。

出血箇所と手術適応

脳出血の部位に関係なく、血腫量10mL未満の小出血や神経学的所見が軽度な症例は手術適応にならない

被殻出血では神経学的所見が中等症、血腫量が31mL以上でかつ血腫による圧迫所見が高度なものは手術適応が考慮される。

視床出血では血腫除去が一律に推奨されることはない。ただし、脳室内穿破を伴い、脳室拡大の強いものは脳室ドレナージ術を考慮する

皮質下出血脳表からの深さが1cm以下であれば手術適応を考慮する。この場合、開頭血腫除去術が検討される。

小脳出血では最大径が3cm以上(≒≧14cm3)で、神経学的所見が増悪している場合、あるいは小脳出血により脳幹圧迫が生じ、脳室閉塞による水頭症を来している場合には脳室ドレナージ術が考慮される。

成人の脳室内出血では脳血管の異常による可能性が高く、血管撮影などによる出血源の検索を行うことが望ましい。なお、急性水頭症が疑われる場合には脳室ドレナージ術を考慮する。

 ※推定出血量(cm3)=長径×短径×高さ(cm)×1/2

長期的管理

・リハビリテーションを継続しつつ、高血圧症、アルコール摂取、禁煙についての指導を徹底するべきである。

・抗血小板薬の使用を必要とする患者では原発性脳出血を発症後数日以内に抗血小板療法を再開可能であるが、抗凝固療法の再開は1~2ヶ月ほど遅らせるべきという見方もある。特に深在性で、アミロイドアンギオパチーが関連していない原発性脳出血の患者ではその必要性が相対的に高いとされている。

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<参考文献>

・Gross BA, Jankowitz BT, Friedlander RM. Cerebral Intraparenchymal Hemorrhage: A Review. JAMA. 2019 Apr 2;321(13):1295-1303. doi: 10.1001/jama.2019.2413. PMID: 30938800.

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