医師自身が患者の立場になった際の医療行為への影響

2020年発行の本邦からのReview article(PMID:31843394)で、医師自身が何らかの疾患を患った際の、その医師自身の経験や診療行為への影響に関して過去の文献をまとめたものです。テーマ自体が興味深く、簡潔に要所をまとめてみます。

<内容>

・医師が罹病体験をした際には疾患や自身の役割に対する認識を変化させ得る。また、医療行為にも影響を及ぼす可能性がある。しかし、これまでにそういったことに関してFocusを当てたReviewはほぼなく、本研究が計画された。

・これまでの研究では医師自身の患者としての予後は一般患者のそれよりも良好である可能性が示唆されている

・しかし、医師が患者の立場にもなるという”病い体験”は多面的に解釈が可能で、

medical self(「患者の立場も有しながら医療者として振る舞う必要があること」)”や

role reversal(“役割逆転”:ここでは「医師が患者の役割にも適応すること」)”といった概念をときに包含することが示唆された。

・そのほかにも”self-treatment”や”self-doctoring”、”wounded healers(「自分の病い体験から得た見識を利用して他者を癒やすことができる人のこと」”といった概念もときに含まれる。

・ローマ時代に編集されたと考えられている「ヒポクラテス大全(Corpus Hippocuraticum)」には「医師は常に健康であるべき」という趣旨の記載もあり、ところによっては医師は健康であることが求められてきた側面もある。しかし近年は医師や医学生の心理的/社会的/身体的Well-beingについての関心が高まりつつあり、医学部や研修病院では学習者のWell-being改善に向けた取り組みもなされている。

・「医師は患者を理解できるようになるために、少なくとも一度は患者になるべきだ」という、ある種の対立概念のような言説も存在する。この言説は医師は患者になるまでは医師と患者との間に質的な差異(本文では”disconnect”と表現されている)があることを暗示しているとも解釈できる。

・本Reviewでは医師が患者の立場にもなるという経験が診療行為にどのような影響を与えるかについて、さらなる研究が必要と強調して締めくくられている。

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<参考文献>

・Morishita M, Iida J, Nishigori H. Doctors' experience of becoming patients and its influence on their medical practice: A literature review. Explore (NY). 2020 May-Jun;16(3):145-151. doi: 10.1016/j.explore.2019.10.007. Epub 2019 Nov 12. PMID: 31843394.

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