複合性局所疼痛症候群 CRPS: complex regional pain syndrome

複合性局所疼痛症候群とその疫学

・複合性局所疼痛症候群(以下CRPS: complex regional pain syndrome)は組織損傷後に創傷が治癒したあとにも疼痛が遷延するような病態を指す。

女性の患者数は男性のそれの3~4倍に相当すると言われている。

・発症のピークは50~70代と推定されている。

四肢の骨折や手術、外傷後に患者の約7%で生じ、多くの患者は1年以内に治癒するが、一部の患者では慢性化する。

・受傷の原因別では骨折後に発症することが最多とされている(全体の40%以上)。しかし、捻挫、挫傷、挫滅、手術なども誘因となることがある。骨折後4ヶ月以内のCRPS発症率は3.8~7.0%とする報告もある。CRPSが明らかな先行する受傷機転なく発症する症例がごく少数報告されているが、大多数は何らかの受傷後に生じる。

・日常生活動作や機能に大きな影響を与えることが多い。

・CRPSを神経障害性疼痛の分類に含めるべきかどうかはエキスパートの間でも意見が分かれる。

神経損傷が明らかでないものCRPS typeⅠとし、以前は反射性交感神経性ジストロフィーと呼ばれていた。一方で、神経損傷が明らかなものCRPS typeⅡとし、以前はカウザルギーと呼ばれていた。

・米国では発症率がTypeⅠは人口10万人あたり5.46人、TypeⅡが0.82人と報告されている。

・CRPSの発症には心理社会的要因も中心的に関連しているという考え方もある。不安、抑うつ状態、怒りなどの心理的要因もまたCRPS患者の慢性疼痛形成に寄与している可能性がある。

2008年 厚労省研究班によるCRPSのための判定指標(臨床用)

病気のいずれかの時期に, 以下の自覚症状のうち2項目以上該当すること.

ただし, それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい.

  1. 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
  2. 関節可動域制限
  3. 持続性ないし不釣り合いな痛み, しびれたような針で刺すような痛み

(患者が自発的に述べる), 知覚過敏

4. 発汗の亢進ないしは低下

5. 浮腫

診察時において, 以下の他覚所見の項目を2項目以上該当すること.

  1. 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
  2. 関節可動域制限
  3. アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック).
  4. 発汗の亢進ないしは低下
  5. 浮腫

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・「診断基準」でなく、「判定指標」とされている理由はCRPSが単一の疾患でなく、複数の病態の集合体であると考えられているためである。

・CRPSの病態生理学的機序は十分に解明されていないため、機序に基づく診断は不可能である。したがって、CRPSの診断は臨床徴候および症状に基づいてなされる。また、診断のゴールドスタンダードとされるような検査も現時点で存在しない。もちろん他疾患の除外を進めることは重要である。

臨床症状/臨床経過

・通常、症状は四肢遠位部から始まる四肢の痛覚過敏、アロディニアが生じる。また、皮膚色調、皮膚温、発汗の変化や、患部の浮腫、発毛変化などが生じることもある。

・特に上肢に症状が生じやすい。

・ときに筋力低下、振戦、ジストニアもみられる。

深部固有覚の異常が認められることもある。

治療

・急性期のCRPSの多くは保存的加療で軽快する可能性が示唆されている。しかし、慢性化したCRPSの臨床症状を改善させることは容易でない。

・慢性化したCRPSでは医学的なアプローチのみならず、心理社会的要因へのアプローチ、理学療法、作業療法もときに有効である。

・CRPSの治療に関する質の高い研究は乏しく、あくまで経験的に治療法が提唱されることが多い。

・2013年のコクランレビューではビスホスホネート製剤、カルシトニン製剤、ケタミン静注、ミラーセラピー、理学療法/作業療法が有効であることが示唆された。また、オランダからのシステマティックレビューでは前述の治療法のほいかに、ビタミンC製剤内服、ステロイド内服、カルシウム拮抗薬などの有効性も示唆された。両者に共通する点としてビスホスホネート製剤、理学療法/作業療法、ケタミンの有効性を示している点が挙げられる。ただし、ケタミンは副作用の観点から実際的に使用は容易でないと思われる。

・急性期のCRPSに対しては炎症鎮火を目的にステロイド内服を試されることがある。PSL 30~40mg/dayで2週間投与し、その後に漸減する方法が有効と報告されている。そのほか、抗けいれん薬(例: ガバペンチン)、抗うつ薬(例: デュロキセチン)なども使用されることがある。ガバペンチンはCRPSの鎮痛に僅かに効果があることが示されていて、感覚障害には有効な可能性があることが1件のRCTで示されている。

・リドカイン貼付製剤の有効性を検討した臨床試験はない。オピオイドが利用されることもあるが、顕著な鎮痛効果をRCTで示せなかった。

・特に慢性化したCRPSにおいて認知行動療法は有効とされている。

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<参考文献>

・Bruehl S. Complex regional pain syndrome. BMJ. 2015 Jul 29;351:h2730. doi: 10.1136/bmj.h2730. PMID: 26224572.

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