急性好酸球性肺炎/慢性好酸球性肺炎(AEP/CEP)
急性好酸球性肺炎(AEP)とその疫学
・急性好酸球性肺炎(AEP)は1969年にCarringtonらにより肺への好酸球浸潤を特徴とする肺疾患として初めて報告された。
・急性好酸球性肺炎(AEP)と慢性好酸球性肺炎(CEP)は肺への好酸球浸潤、ステロイド治療へ反応性がみられることなどの共通点を有するが、一方で臨床経過、誘因などにおいて部分的に異なる。
・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、器質化肺炎(COP)などと鑑別を要することがある。
・新規の喫煙開始や、喫煙習慣の変化(本数の増加や喫煙の再開)が発症に関連ことが指摘されている。なお、短期間の受動喫煙でもAEPを発症する可能性がある。患者の50~80%がAEP発症の2ヶ月以内に喫煙を開始していたという報告がある。また、患者の11~29.4%がAEP発症前に喫煙を再開していたか、あるいは喫煙量が増加していたと報告されている。
・正確な病態は不明であるが、喫煙などの吸入抗原による過敏反応が原因という仮説が建てられている。実際、喫煙以外にも花火の煙を吸入後に発症したり、消火活動に参加した後に発症したりという報告がある。
・十分に研究されているとはいえないが、イラクの研究では推定発症率は100,000人年あたり9.1例と報告されている。
・好発年齢は20歳前後で、男性に多い。
・気管支喘息などのアレルギー性疾患を有することは稀(10%未満)。
・ごく少数ながら、特発性AEPも存在する。
AEPの臨床症状/臨床経過
・AEPは急性経過で発症し、咳嗽、悪寒を伴う発熱などを特徴とする。
・患者の約80%以上で呼吸困難、咳嗽、発熱、悪寒が認められる。喀痰はあまり目立たないことが多い。
・患者の30~50%で筋肉痛、胸痛が認められる。
・ほとんどのケースが誘因に曝露してから数日以内に発症する。
・AEP患者のほとんどは酸素飽和度(SpO2)<90%となり、酸素投与を必要とする。
・血液検査ではWBC増多、CRP上昇がみられる。興味深いことは末梢血好酸球増多(>500/mm3)は全体の約30%のみでしか認められないとされる点である。ただし、数日間で好酸球増多に至ることが多い。
・したがって疑った場合には好酸球増多よりは胸部CT所見を参考にして、診断を行うことも多い。
・気管支肺胞洗浄液(BAL)中の好酸球増多(通常40%以上)と報告されている。さらにBAL中の好中球数もある程度増加する。
AEPの画像所見
・AEPの胸部X線撮影では両側性の散在性の透過性低下がみられ、ときにKerley B lineも認められる。
・CT撮像ではほとんどの症例で両側性のびまん性すりガラス様陰影(GGO)が認められ、ウイルス性肺炎との鑑別が求められることもある。患者の70~90%で小葉間隔壁肥厚も認められる。また患者の90%以上で両側性の胸水貯留もみられる。
・陰影の分布はランダムなパターンであることが一般的であるが、中枢よりは末梢に目立ち、約30%の症例では下葉優位の分布となることが知られている。また、AEPに特異的な所見ではないが、間質性肺疾患(ILD)でもみられるCrazy paving appearanceもAEP患者の約28%で認められる。
AEPの診断/治療
・modified Philit criteriaがAEPの診断に用いられることがある。
・AEPではステロイド全身投与により数日以内に急速に改善することが典型的である。
・AEP患者では一部自然軽快することがある。
・重度の呼吸不全を呈するケースでは高用量コルチコステロイドの静脈内投与が選択される。
・最適な治療期間についてはコンセンサスが得られていないが、通常ステロイド治療は2週間で十分と考えられる。
・CEPとは異なり、喫煙を中止できれば再発はせず、完全な回復が得られることが通常である。
慢性好酸球性肺炎(CEP)の疫学
・小規模なレトロスペクティブ研究によると、CEPの年間発症率は人口10万人あたり0.23例と推定されている。
・CEPは小児や高齢者を含めてあらゆる年齢で発症する可能性がある。ただ、発症例の多くは30~50歳代で、女性に好発することは知られている。
・気管支喘息などのアレルギー性疾患が併存しているケースが半数以上を占める。
・AEPとは異なり、CEP患者で喫煙者であることは稀で(<10%)、60%以上の患者は喫煙歴がないことで知られる。
CEPの臨床症状/臨床経過
・咳嗽(60~90%)、呼吸困難(20~50%)などの呼吸器症状が数ヶ月続くことは珍しくない。発熱、喀痰貯留、喘鳴がみられることもある。
・食欲不振、体重減少もときにみられ、胸痛を自覚するケースもある。
・AEPと異なり、呼吸不全に至ることは頻度としては少なく、酸素飽和度低下の幅は軽度に留まる。
・発症初期に末梢血好酸球増多がみられにくいAEPとは対照的に、CEPでは末梢血好酸球増多はほとんどの患者で認められ、IgE値も上昇していることが確認できる。また、WBCとCRPの軽度上昇もみられる。
・BAL中の好酸球増多の平均割合は40~60%とされる。
CEPの画像所見
・CEPでは末梢優位の非区域性に分布する浸潤影がみられる。末梢側が比較的スペアされやすいは肺水腫での画像所見との対比から、Photographic negative patternとも称される。
・ただし、Photographic negative patternはCEPに特異的な所見とはいえない。またCEP患者の約25%程度でしか認められないという報告もある。
・浸潤影やすりガラス様陰影(GGO)はCEPにみられやすい画像所見である。特に末梢優位に分布することが典型的である。
・Reversed halo signがみられることがあるが、こちらもCEPに特異的な所見ではない。
・CEPでは陰影が移動したり、大きさが変わったりすることがあり、Wandering pneumoniaとも呼ばれる。
・胸水貯留をきたすことは稀で、全体の20%未満という報告がある。
CEPの治療
・ステロイド治療に対する反応性が良好である。反応性が不良なケースでは診断を再考する。
・自然軽快することは稀で(<10%)、CEP患者のほとんどがステロイド治療を必要とする。
・PSL 0.5mg/kg/dayまたは 30mg/day程度から開始し、2週間以内に症状と画像所見の改善が認められることが典型的である。重症例では高用量コルチコステロイド静脈内投与も行われる。
・症状が改善した後はステロイドを漸減し、可能な限り中止を目指す。6~12ヶ月かけて漸減することもあるが、最適なレジメンなどはない。
・3ヶ月で治療を終える群と6ヶ月で治療を終える群とに分けた研究では再発率に有意差が認められなかったという報告がある(52.1% vs 61.9%(P=0.39))。なお、3ヶ月で治療を終える群では当初はPSL 0.5mg/kg/dayで治療され、その後2週間ごとに約20%ずつ減量し、3ヶ月後に中止する方法が採られた。
・CEP患者の再発率は50%以上である。過去の研究では133人のCEP患者のうち、75人(56%)が再発を経験し、38人(29%)が2回以上の再発を経験したという報告がある。再発時には初発時と同様の用量か、あるいはPSL 20mg/日で治療が可能と考えられている。
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<参考文献>
・Suzuki Y, Suda T. Eosinophilic pneumonia: A review of the previous literature, causes, diagnosis, and management. Allergol Int. 2019 Oct;68(4):413-419. doi: 10.1016/j.alit.2019.05.006. Epub 2019 Jun 25. PMID: 31253537.

