肺ノカルジア症

はじめに

ノカルジア(Nocardia)は、土壌、塵、水、植物などに広く存在する。なお、ヒトに病原性を示す放線菌には嫌気性菌放線菌と好気性放線菌とがあり、前者にはActinomyces、後者にNocardia、Rhodococcus、Tsukamurella、Gordoniaが該当する。いずれも抗酸菌に分類される。

・空中の粉塵を吸入することで、肺への感染が起こりうる。

・原因菌としてはN. asteroidesが多い。

・創傷部からの侵入し、皮膚や皮下組織にも感染を引き起こすことがある。

・肺や皮膚から全身へ播種することもある。

疫学・リスク因子

・ノカルジアは1888年にNocardにより初めて報告された。

・現在、ノカルジア属には22種以上が存在し、N. asteroidesがもっとも一般的である。

農業従事者は肺ノカルジア症のリスクが高い。

細胞性免疫不全がリスク因子となる。

免疫抑制薬、ステロイド治療、リンパ腫、サルコイドーシス、全身性エリテマトーデス、アルコール使用症、糖尿病、HIV感染などもリスク因子である。

・近年では、COPDも重要なリスク因子とされている。

臨床像

・肺ノカルジア症(Pulmonary Nocardiosis: PN)は、急性・亜急性・慢性の化膿性感染症として発症し、増悪と寛解を繰り返す傾向がある

・PNは通常、化膿性だが、肉芽腫性や混合型となることもある。

・臨床的には、肺炎、気管支内の炎症性腫瘤、肺膿瘍、空洞性病変などとして現れ、隣接組織に波及して胸水や膿胸を引き起こすことがある。

画像検査

・X線画像では、不整な結節影、網状結節性またはびまん性の浸潤影、胸水などが見られる。

・特に進行したHIV感染患者では、空洞形成ではなく浸潤影として現れることが多く、致命的になりうる。

・このような場合、X線所見は非特異的であるため、肺マイコバクテリア(Mycobacteria)、アクチノマイセス(Actinomyces)、真菌(クリプトコッカス Cryptococcus neoformans やアスペルギルス Aspergillus 属)などによる感染症も鑑別診断として考慮すべきである。

脳膿瘍を形成していることも少なくないため、肺ノカルジア症の診断に至った場合は頭部画像検査の実施を検討する。

臨床検査

・ノカルジアを臨床検体から直接確認できれば診断が確定する

・喀痰、気管支肺胞洗浄液(BAL)、気管支吸引液、気管内吸引液からノカルジアの検出を試みるべきである。

常在菌ではないため、喀痰からの検出でも重要な診断の根拠となる。

グラム染色が有効。

・ほとんどのノカルジアはKinyoun法による酸耐性染色で陽性を示し、アクチノマイセスとの鑑別に有用である。

・培養検査は実施してよいが、コロニー形成まで数週間を要することもある。

・なお、現時点でノカルジア症の診断に有用な血清学的検査はない。

治療

トリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX; ST合剤)は治療の中心となる薬剤であり、これにより予後が改善している。

・成人で腎機能が正常かつ病変が局所に限られる場合、TMPは5〜10mg/kg、SMXは25〜50mg/kgとして、1日2〜4回に分けて投与するのが推奨される。

・脳膿瘍、重症・広範囲あるいは播種性の感染巣、AIDSなどの症例では、TMP 15mg/kg、SMX 75mg/kg のような高用量が経静脈的あるいは経口で投与される。

・特に重症例や中枢神経系・播種性病変を伴う例、免疫抑制例では、単剤療法では死亡率が最大50%に達することがある。そのため、高リスク患者にはAMK+IPM(またはMEPM)の併用、あるいはスルホンアミド+AMK+カルバペネム系または第3世代セフェム系の3剤併用療法が経験的に推奨される。

・AMK+IPMにはシナジー効果が期待されている。

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<参考文献>

・Shariff M, Gunasekaran J. Pulmonary Nocardiosis: Review of Cases and an Update. Can Respir J. 2016;2016:7494202. doi: 10.1155/2016/7494202. Epub 2016 Mar 29. PMID: 27445562; PMCID: PMC4904555.

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