心アミロイドーシス cardiac amyloidosis
はじめに
・アミロイドーシス(Amyloidosis)とは、タンパク質の誤った折り畳み(ミスフォールド)により形成されたβシート構造を有する線維状タンパク質が細胞外に沈着する一群の疾患であり、沈着した大量のアミロイド線維が組織構築を破壊し臓器機能障害を引き起こす 。
・心アミロイドーシス(CA: cardiac amyloidosis)は拘束型心筋症として発現し、その主要サブタイプには、骨髄由来の単クローン形質細胞が産生する免疫グロブリン軽鎖(light chain)由来の免疫グロブリン軽鎖型心アミロイドーシス(AL: immunoglobulin light chain cardiac amyloidosis)と、肝臓で産生されるトランスサイレチン(TTR: transthyretin)が誤って折りたたまれてアミロイド線維を生じるトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR: transthyretin cardiac amyloidosis)がある 。
・ATTRは、遺伝子変異を伴わない野生型(wtATTR: wild-type transthyretin amyloidosis)と、TTR遺伝子変異を有する遺伝性変異型(hATTR: hereditary transthyretin amyloidosis)に分類される 。
・CAは他の心疾患と臨床像が重なるため過小診断されることが多く、拡張型心不全患者の約13%、変性大動脈弁狭窄患者の約16%、肥大型心筋症と診断された患者の約9%に認められる。また、剖検研究では80歳代の約4分の1に心筋アミロイド沈着が認められた 。
分類と疫学
<ALアミロイドーシス>
・免疫グロブリン軽鎖型心アミロイドーシス(AL心アミロイドーシス: immunoglobulin light chain cardiac amyloidosis)は脳を除く全ての臓器にアミロイド線維が沈着し得るが、特に腎臓では74%、心臓では60%の症例で頻繁に関与する。
・心臓の関与は予後を決定づける重要な因子であり、心不全症状で発症したAL患者の中央値生存期間は、適切な治療が行われなければ約6ヶ月である。
<野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシス>
・野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシス(wtATTR: wild-type transthyretin amyloidosis)は、高齢者において最も一般的なCAのタイプとして認識されつつある。
・1987~2009年には全CA症例の3%未満だった発症頻度が、2010~2015年に14%、2016~2019年に25%へと指数関数的に増加した。
・この傾向は、非侵襲的な画像診断モダリティ(骨シンチグラフィーなど)によるスクリーニング・診断の進歩によって疾患の認識が飛躍的に向上したことを反映している。
・wtATTRはほぼ例外なく高齢者(診断時中央値年齢75歳)に発症し、男性および白人に多く、90%以上の症例で心臓が関与する。診断後の全生存期間中央値は3.6年と報告されている。
<遺伝性トランスサイレチン型心アミロイドーシス>
・遺伝性トランスサイレチン型心アミロイドーシス(hATTR: hereditary transthyretin amyloidosis)は、TTR遺伝子の120以上の異なる変異によって引き起こされ、常染色体優性遺伝形式をとる。
・hATTRは、変異種およびアミロイド線維のタイプに応じて、発症年齢、地理的分布、主要表現型(心筋症、神経障害、またはその混合型)、および疾患経過に顕著な多様性がある。
・世界的に最も頻度が高いV30M変異は、早発型(50歳未満)と遅発型のいずれも生じ、前者はスウェーデン、ポルトガル、日本の流行地域で神経症状優位に、後者は非流行地域で心臓症状と重度の神経症状を伴って発症する。
画像検査
<心電図>
・12誘導心電図で示される低電位(両側肢誘導QRS振幅<5 mm、前胸部誘導<10 mm)はCAの古典的所見であり、肥厚を示す心エコー所見との不一致が特徴的である。
・これは、実際の心筋肥大ではなく、アミロイド浸潤による厚みによるためである。
・ただし、wtATTR例の約35%、AL例の約55%でしか低電位を認めず、低電位のみられない症例もある。
・また10%程度のCA患者では左室肥大(LVH)基準を満たす高電位を示すことがあり、低電位のみを頼りにすると診断遅延を招く恐れがある。
・偽梗塞パターン(pseudo-infarct pattern)は約50%、脚ブロックや房室ブロック、心房細動/粗動なども頻繁にみられ、これらは全身性浸潤病変による伝導障害を反映している。
・一度房室ブロックは将来的なペースメーカー植込みリスクを示唆する。
<心エコー>
・CAを疑う初期スクリーニングとして最も使われるモダリティであり、肥大型心筋症や高血圧性心筋症、ファブリー病、大動脈弁狭窄症との鑑別に有用。
・左室(LV)壁肥厚は著明で、ほとんどが対称性であるが、wtATTRでは23%に非対称肥厚を認める。
・wtATTRはALよりも壁肥厚が高度(しばしば15 mm超)ですが、一部に正常厚の症例もある。
・まれにアクティブなLV流出路狭窄を呈し、肥大型閉塞性心筋症を模倣することがある。右室肥厚・機能障害、左・右房拡大、心房中隔肥厚などもよくみられ、心筋のgranular speckled appearanceは特異的ではない。
・低流出・低勾配大動脈弁狭窄、低い組織ドプラ速度(E波, mitral annulus)、上昇したE/e比などの拡張機能障害はほぼ全例に共通する。
<心MRI>
・三次元的な構造・機能評価、高空間分解能、定量的組織性状評価が可能。ただしATTRとALの区別はできない。
・詳細は割愛する。
<シンチグラフィ>
・詳細は割愛する。
生検
・Monoclonal gammopathyを検出した症例では、AL(immunoglobulin light chain cardiac amyloidosis)が疑われるため、確定診断には必ず組織生検(biopsy)が必要である 。
・Congo red染色はアミロイド同定に有用であり、免疫組織化学(immunohistochemistry)や質量分析(mass spectrometry)でAL/ATTRの病型区別を行う 。
・心内膜生検(endomyocardial biopsy)は感度100%だが、心室穿孔や心タンポナーデ、致死性不整脈など重篤な合併症リスクを伴う
・腹部脂肪組織穿刺吸引生検(abdominal fat pad aspiration biopsy)は手軽だが、wtATTR(wild-type transthyretin amyloidosis)では感度約15%と低く、標本不良例も多いため信頼性に欠ける。
バイオマーカーとステージング
・BNPおよびNT-proBNPはCA患者でほぼ例外なく上昇し、診断および予後評価に重要な指標となる。また、トロポニン(troponin)の慢性的な軽度上昇は予後不良と関連する
・wtATTRのステージングシステムの一つは、トロポニンT閾値0.05 ng/mLおよびNT-proBNP閾値3,000 pg/mLを用い、いずれも閾値以下のステージI、いずれか一方超過のステージII、両者超過のステージIIIと分類する。4年全生存率はステージI 57%、ステージII 42%、ステージIII 18%と推定された
・同じくwtATTR/hATTRで、トロポニンの代わりにeGFR<45 mL/minを閾値とした改訂ステージでは、ステージI~IIIの中央値生存期間がそれぞれ69、47、24ヵ月であった
・ALのMayoステージングでは、トロポニンT<0.035 μg/L(またはトロポニンI<0.1 μg/L)とNT-proBNP<332 ng/Lを正常上限とし、両者正常のステージI、いずれか一方異常のステージII、両者異常のステージIIIと定義。中央値生存期間はステージI 27.2ヶ月、ステージII 11.1ヶ月、ステージIII 4.1ヶ月であった 。
マネジメント
・心不全の管理、不整脈の管理などが中心となり、適応があれば疾患修飾療法も選択される。
<心不全>
・CA患者は心不全関連入院のリスクが高く、非アミロイド性心不全患者と比べて入院日数・死亡率が増加し、ループ利尿薬が第一選択となる。減塩食と併用し、腎機能許容範囲内でのスピロノラクトン投与も検討する。
・フロセミドも使用可能だが、バイオアベイラビリティと吸収の安定性からトラセミドなどが推奨される。過度の利尿は低血圧や腎機能悪化を招くため注意が必要 。
・収縮機能障害を伴うCAでは、ガイドライン推奨薬の多くが許容性に乏しい。β遮断薬は負性変力・変時作用により代償性頻拍を阻害し、ACE阻害薬/ARBは起立性低血圧や腎機能悪化を誘発しうる。非DHP系CCB(例: ベラパミル, ジルチアゼム)は重度の負性変力・ブロック、ショックを起こすため非推奨とされる。一方、ジゴキシンは低用量で血中濃度と腎機能を頻回にモニターしつつ慎重に使用すれば安全とされる 。
<心房細動>
・心房細動はCAで最も頻度が高い不整脈で、wtATTRで特に多い。
・レートコントロール薬は起立性低血圧や心不全増悪を招きやすいため、洞調律復帰が望ましく、電気的除細動前には経食道エコーで心内血栓を除外する。
・抗不整脈薬のなかでアミオダロンは比較的安全であり、抗凝固療法はCHA₂DS₂-VAScにかかわらず推奨される 。
<心室性不整脈>
・ALでより高頻度に認められる。
・カテーテルアブレーションの有効性は大規模データがなく、症例報告レベルにとどまる
・ICDによる予防目的植込みは生存改善を示すエビデンスに乏しく、個別に判断する必要がある 。
<徐脈性不整脈>
・アミロイド浸潤による房室伝導障害でATTR患者の約10%がペースメーカー植込みを要する。
・wtATTRで特に多く、右室ペーシング負荷増大による心機能悪化を防ぐため、両室ペーシング(CRT)への移行が推奨される 。
<アミロイド特異的疾患修飾療法(Amyloid-specific Disease-modifying Therapies)>
・RNA干渉薬のパチシラン(オンパットロ®)などが使用可能な場合がある。
・詳細は割愛する。
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<参考文献>
・Bukhari S. Cardiac amyloidosis: state-of-the-art review. J Geriatr Cardiol. 2023 May 28;20(5):361-375. doi: 10.26599/1671-5411.2023.05.006. PMID: 37397865; PMCID: PMC10308177.