蛋白漏出性胃腸症 Protein-Losing Enteropathy

概要

・蛋白漏出性胃腸症(Protein-losing enteropathy)は腸管内への血漿蛋白の喪失によって特徴づけられる症候群で、便中α1-アンチトリプシン濃度上昇によって示唆される。

・蛋白漏出性胃腸症では肝疾患や腎疾患が存在しない状況でも、低蛋白血症を呈する。

・疾患というよりは症候群であり、あくまで基礎疾患の特定が重要

・通常は「腸管粘膜の傷害」あるいは「消化管リンパ流の閉塞およびリンパ管拡張による流出障害」によって生じる。

・特徴的な所見、症状としては低蛋白血症(≒低アルブミン血症)、浮腫、栄養素欠乏、易感染性、消化器症状(下痢, 脂肪便, 腹痛, 悪心など)が挙げられる。

・低蛋白血症では血清アルブミンだけでなく、血清ガンマグロブリン、血清リンパ球も低下するため、易感染性を呈する。

・小児例では栄養吸収不良による成長や発達への影響も懸念される。

生理学

・血清アルブミンは血症膠質浸透圧の約80%を担い、そのほか血清pHの維持、抗酸化作用などを有する。

・アルブミンは肝細胞において合成され、1日あたり10~15g産生される。半減期は2~3週間程度とされる。

・低アルブミン血症が生じると、肝臓はそれを感知し、アルブミン産生を亢進させるが、この代償機構は腸管からのアルブミン喪失を十分に補えない。

・アルブミン以外にも血清γグロブリンなどのタンパク質も存在し、蛋白漏出性胃腸症ではγグロブリンも減少することが知られ、免疫不全状態の形成に寄与する。

・蛋白漏出性胃腸症では心拍ごとの圧力でアルブミン、γグロブリン、その他の血清成分を含む液体が末梢血管から間質へと押し出される。炎症により毛細血管の透過性が亢進し、間質への移行はさらに増加する。この間質液はリンパ管を通じて再循環される。リンパ管は通常間質内に開口するような構造を有し、逆流を阻害する弁も有し、胸管を介して鎖骨下静脈へ戻る。リンパ流はその途中でリンパ節による病原体に関するスクリーニングを受けることとなる。

・消化管の絨毛にあるリンパ節を介して、食品由来の栄養素(Ca, Mg, Zn, Fe, Cuなど)が吸収される。なお、血球成分や脂質などもリンパ流に入る。

・腸管上皮細胞はタイトジャンクションにより、間質の環境の恒常性を保っている。この上皮のバリアが破綻し、間質液が腸管管腔内へ漏出することで蛋白漏出性胃腸症が生じる。

びらん性/潰瘍性の粘膜障害をきたす疾患による影響

・腸管粘膜の障害は主に以下のような病態で生じる。

  1. 炎症性腸疾患(IBD)
  2. 消化性潰瘍
  3. 感染症
  4. 悪性腫瘍

・粘膜疾患では血漿蛋白が腸管管腔へ漏出する。これはCrohn病などをはじめとしたIBD、びらん性胃炎、Zollinger-Ellison症候群、偽膜性腸炎などで認められる。そのほか、サルコイドーシス、消化管アミロイドーシスなどが原因となることもある。

・食道や胃、小腸、大腸の悪性腫瘍や転移性腫瘍が粘膜障害をきたし、蛋白漏出性胃腸症の原疾患となることもある。また、AIDS患者ではカポジ肉腫などの鑑別も想定する。

非びらん性の粘膜障害をきたす疾患による影響

・びらん等を伴わない、粘膜における透過性亢進は以下のような病態で生じる。

  1. 炎症
  2. 感染症
  3. アレルギー反応
  4. 粘膜に影響を及ぼす遺伝的異常

・局所の血管炎や炎症性サイトカインの分泌は間質液の貯留を促し、蛋白漏出性胃腸症を悪化させる。

・代表的な疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SjS)、IgA血管炎、尋常性天疱瘡、メネトリエ病、若年性ポリポーシス症候群などが挙げられる。

・アレルギー性疾患としては好酸球性胃腸炎でも蛋白漏出性胃腸症が生じ得る。ケースによるが、原因となる食物抗原の除去により改善することがある。

・セリアック病は小麦に含まれるグルテンや、ライ麦や大麦由来のプロラミンによって惹起される免疫介在性疾患である。絨毛構造の障害とタンパク喪失の程度が相関しやすいこと、グルテン除去食により改善することなどが特徴的である。

リンパ灌流障害をきたす疾患による影響

・リンパ灌流を障害する疾患ではリンパ管の拡張や変性、破綻が生じ、ときに腸管リンパ管拡張症とも呼ぶ。この状態ではリンパ液中のタンパク質が多く腸管管腔内に流出し、重度の蛋白漏出性胃腸症をきたす。対照的に、粘膜障害を背景とした蛋白漏出性胃腸症は軽症例が多く、治療反応性も不良でない。

・二次性リンパ管拡張症の原因としては収縮性心膜炎、慢性心不全、Fontan手術後などが挙げられる。

先天性蛋白漏出性胃腸症

・先天性蛋白漏出性胃腸症(congenital PLE)は特定の遺伝子変異によって特徴づけられる症候群である。

・現状、CD55やATAMTS3などにおける遺伝子変異が知られている。

診断

・蛋白漏出性胃腸症の診断のためには、汎低蛋白血症(panhypoproteinemia)の確認と、それを説明し得る肝疾患および腎疾患が存在しないことの確認とが必要である。

・主に以下のような検査結果の確認を要する。

  1. アルブミン、γグロブリン、その他の血漿蛋白の低下
  2. 浮腫や体腔液の貯留(胸水, 腹水, 心嚢液など)
  3. リンパ球減少(特にCD4陽性T細胞の低下)
  4. 便中α1アンチトリプシン濃度の上昇

・α1アンチトリプシンは消化酵素による分解がされづらいため、腸管からのタンパク漏出を間接的に反映するマーカーとなる。ただし、ある程度まとまった時間の蓄便検査を要するので必ずしも簡易に実施できるものではない。

・そのほか補助的に消化管内視鏡検査(びらん, 潰瘍, ポリープなどの確認)、CT撮像、MRI撮像、シンチグラフィ(リンパ流の確認を含む)、血清学的検査(SLE, シェーグレン症候群, セリアック病などの鑑別)、遺伝子検査(主に先天性蛋白漏出性胃腸症を想定)などが検討される。

治療

・蛋白漏出性胃腸症の治療は原因となる基礎疾患の治療が最も中ようである。したがって、画一的な治療法はなく、原因疾患ごとに異なる。

・栄養療法としては低脂肪、高タンパク食が基本となる。また状況によって、亜鉛や鉄、カルシウム、脂溶性ビタミン(Vit.A/D/E/K)などの補充を行うこととなる。

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<参考文献>

・Ozen A, Lenardo MJ. Protein-Losing Enteropathy. N Engl J Med. 2023 Aug 24;389(8):733-748. doi: 10.1056/NEJMra2301594. PMID: 37611123.

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