未破裂脳動脈瘤
はじめに
・脳動脈瘤(intracranial aneurysms)とは、脳内血管の動脈壁が異常に拡張した状態であり、非外傷性くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage)の最も一般的な原因である。
・くも膜下出血は死亡率が高いため、未破裂脳動脈瘤(UIA: unruptured intracranial aneurysms)の形成リスクを早期に検出し、それを軽減する手段を講じることは合理的な戦略とされている。
・68件の有病率に関する研究(21カ国、83の集団、94,912人)を含むシステマティックレビューでは、併存疾患のない平均年齢50歳の集団におけるUIAの全体的な有病率は3.2%と推定された。
・女性、30歳以上(特に50代でピーク)、家族歴(UIAまたはSAH)、高血圧、常染色体優性多発性嚢胞腎の家族歴を有する患者で有病率はより高かった。
・嚢状動脈瘤(saccular aneurysms)は全体の約90%を占め、内頸動脈(ICA)、前・後交通動脈(Acom, Pcom)、中大脳動脈(MCA)などの分岐部に好発する。
・後方循環系では、脳底動脈分岐部(BA)や小脳動脈(CA)の分枝部に多い。稀なタイプとして、真菌性動脈瘤(mycotic aneurysms)、動脈損傷に起因する解離性動脈瘤(dissecting aneurysms)などがある。
・患者の最大20%で複数の脳動脈瘤を有する。動脈瘤の形成は、内弾性板の変性、内皮機能障害、血流力学的ストレスに加えて、血管壁の不安定化をもたらす炎症が関与していると考えられている。
リスク因子
・未破裂脳動脈瘤(UIA: unruptured intracranial aneurysms)の形成に関わるリスク因子は、修正可能なものと修正不可能なものに分類される。
・修正可能なリスク因子には、喫煙と高血圧がある。
・くも膜下出血の既往がない206例のUIA患者と574名の対照群を対象とした症例対照研究では、喫煙および高血圧がUIA形成に関する独立したリスク因子であることが確認された。
・また、高コレステロール血症および定期的な身体活動は、UIAのリスク低下と関連していた。ただし、高コレステロール血に関してはスタチン内服が寄与している可能性がある。
・多施設共同症例対照研究では、リスク因子の相乗効果が確認され、女性かつ喫煙者ではUIA形成リスクが4倍、喫煙者かつ高血圧のある女性ではリスクが7倍に達することが示された。さらに、大量のアルコール摂取は、くも膜下出血のリスク因子であると同時に、UIA形成のリスク因子である可能性も示唆されている。
・修正不可能なリスク因子には、女性であること、加齢、遺伝的素因(動脈瘤の家族歴)などがある。UIAの形成リスクは男性より女性で高く、とくに50歳を超える女性でその傾向が顕著である(女性:男性のリスク比は約2:1)。この性差は、ホルモンが媒介因子として関与している可能性を示唆する。
・また、遺伝的要因もUIA形成に関与している。116,570名を対象とした大規模なシステマティックレビューとメタアナリシスでは、CDK2NB、EDNRA、SOX17といった遺伝子の一塩基多型(SNP)がUIA形成の主要因として特定された。
・常染色体優性多発性嚢胞腎、エーラス・ダンロス症候群、家族性アルドステロン症Ⅰ型、もやもや病、胸部大動脈瘤などの遺伝性疾患は、UIA形成のリスク上昇と関連している。
・UIAまたはくも膜下出血の家族歴がある場合、UIA形成のリスクは約3倍に上昇させ、破裂のリスクは2.5倍に上昇する。特に喫煙かつ高血圧のある人では破裂リスクが最大17倍に達することもある。家族歴を有する者では、UIAがより小さなサイズで、より若年でくも膜下出血を引き起こす傾向がある。
未破裂脳動脈瘤の自然経過
・UIAの破裂リスクは、治療方針の決定やリスク管理にとって重要な要素であるが、その自然経過については正確にはわかっていない。
・予後予測の精度には限界がある。
・動脈瘤の増大および破裂のリスク因子には、以下が挙げられる。
- 女性であること
- 高血圧
- 喫煙
- 動脈瘤の大きさ(7mm以上)
- 動脈瘤本体に小さな不整な突出(daughter sac)があるケース
- 複数の動脈瘤の存在
- 内頸動脈や脳底動脈の部位に位置すること
- 動静脈奇形の合併
臨床症状
・UIAは通常、無症状であり、画像検査によって偶発的に発見されることが多い。
・一方で、症候性のUIAでは脳神経麻痺(動眼神経麻痺)、痙攣、顔面痛、片麻痺、視覚障害などがみられることがある。これらの症状は、圧迫あるいは血栓塞栓症によるものであり、動脈瘤の部位により異なる。
・UIAを有する患者では頭痛がよく見られるが、多くは動脈瘤に直接起因するものではない。UIA関連の頭痛は非特異的であり、時に片側性、拍動性、あるいは片頭痛様として現れることもあるが、持続的あるいは激烈な痛みとして出現することもある。
・重要なのは、「雷鳴頭痛(thunderclap headache)」との鑑別である。これは「人生最悪の頭痛」と形容されるような突発的かつ激しい痛みであり、動脈瘤性くも膜下出血を否定するために直ちに画像診断が必要となる。
・また、新たに出現した頭痛は、UIAが症候性に移行していることもあれば、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)、頸動脈解離、脳静脈血栓症、頭蓋内低髄液圧症候群、頭蓋内感染など、他の疾患と関連している可能性もある。
・病歴聴取では、喫煙、高血圧、UIAやくも膜下出血の家族歴、遺伝性症候群の有無といったUIA形成のリスク因子について十分に確認すべきである。
画像検査
・未破裂脳動脈瘤(UIA)は通常、高リスク患者に対するルーチン検査や、症状(例:慢性頭痛、めまい、脳神経麻痺、視野障害、片麻痺、眼瞼下垂、散瞳、複視、顔面痛、または動脈瘤からの血栓塞栓症による虚血症状)を呈する患者のスクリーニング検査で偶発的に発券される。
・比較的感度の高い検査として、CTAやMRAが挙げられる。これらは特に高リスク患者の定期的スクリーニングに適している
・一方、デジタルサブトラクション血管造影検査(DSA)は、動脈瘤の特徴を詳細に評価し、非常に小さな動脈瘤の検出や治療計画の策定に優れており、依然として診断の標準的な画像検査モダリティとなっている。
・また、CTAやMRAで異常が認められなかった場合でも、症状や家族歴などから強くUIAが疑われる場合には、DSAの実施が推奨される。
リスク評価と治療方針の決定
・UIAのマネジメントは、多職種によるアプローチと共有意思決定(shared decision-making)を基本とし、動脈瘤破裂のリスクを評価するために、患者と動脈瘤の両側面の要因を考慮することとなる。
・以下のスコアリングシステムが臨床判断に用いられる。
①PHASESスコア:
・Population(人種)、Hypertension(高血圧)、Age(年齢)、Size(動脈瘤の大きさ)、Earlier subarachnoid hemorrhage(過去のくも膜下出血)、Site(動脈瘤の部位)を基にして破裂リスクを推定する。
・このスコアは、6つの前向きコホート研究(合計10,272個のUIA、8,382人の患者、中央値1〜21年の追跡)を基に開発された。スコアにより5年間の破裂リスクを予測できる(例:PHASESスコア5で5年破裂リスクは約1.3〜1.7%程度)。
・ただしこのスコアには喫煙歴、家族歴、動脈瘤の形状といった既知のリスク因子が含まれていないことや、後ろ向き解析に基づくスコアであり、前向き研究による検証がなされていないことなどのLimitationが存在する。
・ほかにも、国際UIA研究(ISUIA)では、前方循環にある10mm未満のUIAの年間破裂リスクは0.05%と非常に低いと報告された。一方で、日本のUCAS Japan研究や小型UIA検証研究(SUAVe)などでは、7mm未満でも0.54%の年間破裂率が報告されており、後方循環のUIAではより高リスクとされる。
②UIATS(Unruptured Intracranial Aneurysm Treatment Score):
・多職種専門家69名により作成されたもので、治療関連リスク要因を組み入れた個別化マネジメント支援ツール。
③フィンランドスコア、UCASスコア:
・それぞれ国内コホートを基にした簡便な予測モデルで、前者では「年齢・喫煙・動脈瘤径・部位」の4要素を用い、後者では日本人データ6608件を基に作成された。
・年齢は治療判断において重要であり、高齢者に対する介入では生命予後や併存症とのバランスが課題となる。また、成長する動脈瘤は破裂リスクを増すため、ELAPSSスコア(Earlier SAH、Location、Age、Population、Size、Shape)を用いた将来の成長リスクの評価も提案されている。
保存的治療
・無症候性で小さなUIA(7mm未満)が偶発的に発見された場合、多くは破裂リスクが低いため、保存的治療が推奨される。この場合、動脈瘤の増大に関連する修正可能なリスク因子への対処が中心となる。
・マネジメントで重要なのは禁煙、血圧管理(特にコントロール不良例では増大リスクが高い)、患者教育(破裂の兆候や救急受診のタイミングを含む)、長期的な画像フォローアップである。
・コントロール不良な高血圧症が存在すると、高血圧症がない患者の約6倍、コントロールされている高血圧症の患者の約4倍ほど増大リスクが高まるとされている。
・患者には、くも膜下出血のリスク、警告症状(雷鳴頭痛、脳神経麻痺など)、直ちに受診すべき症状、そして定期的なフォローアップの重要性について説明する必要がある。
・画像フォローアップにはCTAやMRAが用いられ、通常は以下のように実施される。
- 診断後6か月ごとに実施し、安定していれば年1回へ延長
- 36か月のフォローアップ期間に0.5mm以上の拡大を認めた場合は、より頻回なサーベイランスや介入を検討
- より安全かつ低侵襲な治療法の登場により、近年は7mm未満でも介入対象となることが増えている(年齢、部位、合併疾患を加味)
血管内治療
・血管内治療(Endovascular Therapy)にはコイル塞栓術をはじめとした複数の方法が存在する。
・治療法の選択において、動脈瘤の形態、部位、術者の熟練度に基づいて決定される。
・血管内治療と外科的クリッピングを比較したCollaborative Unruptured Endovascular versus Surgery試験があり、このTrialでは対象患者の97%が前方循環のUIAで平均径7.8mmであった。その291例の患者が外科的クリッピングと血管内アプローチに割り付けられて研究が行われた。結果として、1年後の治療失敗率は外科的クリッピング群で9%、血管内群で19%(相対リスク2.07、P=0.02)ということ、血管内治療では神経学的合併症が少なく(12% vs. 22%、P=0.04)かつ入院期間も短いことなどが示された。
外科的治療
・外科的クリッピングは、UIAに対する従来の標準的治療であり、開頭術により動脈瘤頸部にクリップを留置する手法である。
・特徴として、動脈瘤閉塞率は血管内治療より優れること、入院期間は比較的長く、神経学的合併症リスクが比較的高いことなどが挙げられる。
・若年者、前方循環系に位置する10mm未満の動脈瘤、血管内治療が困難なケースが良い適応となる。
スクリーニング
・米国心臓協会(AHA)および米国脳卒中協会(ASA)は以下のような対象におけるスクリーニングを推奨している(クラスI、エビデンスレベルB)。
- 女性
- 喫煙者
- 高血圧患者
- UIAまたはくも膜下出血の家族歴が2名以上ある者
- 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)を有する者
・スクリーニングの費用対効果に関する分析では
- 高リスク者に対しては、20歳以上から5〜7年ごとのCTAまたはMRAによるスクリーニングの実施を支持
- リスクのない一般集団に対するスクリーニングでは、メリットは得られない
とされている。
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<参考文献>
Christopher S, et al. Unruptured Intracranial Aneurysms. N Engl J Med 2025;392:2357-2366.