再発性多発軟骨炎 RPC: relapsing polychondritis
再発性多発軟骨炎とその疫学
・再発性多発軟骨炎(以下RPC: relapsing polychondritis)とは稀なリウマチ性疾患で、軟骨の炎症を特徴とする疾患である。
・1923年にJaksch-Wartenhorstが本疾患について初めて記述し、1960年にPearsonらによって再発性多発軟骨炎という病名が提唱された。
・主に軟骨や強膜に存在するⅡ型コラーゲンに対する自己免疫機序が病態の主体と考えられている。
・イギリスでは年間140万人に1人の割合で発症し、標準化死亡比は2.16と報告される。
・発症時の年齢のピークは40~55歳であるが、小児や超高齢者でも発症例が報告されている。
・30~50%で気道における合併症が生じる。気道病変が生じる患者の予後は不良である。
・聴力障害や視力障害を伴う場合にはQOLに大きな影響を及ぼす。
・RPC患者の約30%が他の自己免疫疾患を併存すると報告されていて、なかでも関節リウマチ(RA)が最多頻度とされている。
臨床経過
・比較的突発的に発症することもあるが、軽症例では緩徐な経過で進行する。
・典型的には鼻梁部の軟骨炎、耳介軟骨炎(なお耳朶には軟骨がないため圧痛がみられない)、眼の炎症、関節の炎症、気管支の炎症などがみられる。
・喉頭気管支における軟骨を侵す場合には死亡率が高まる。
罹患臓器とその症状
<耳>
・耳介軟骨炎はRPCで最も一般的な症状である。
・外耳の発赤や腫脹、圧痛がみられる。なお、耳朶には軟骨が存在しないため、圧痛などを伴わないことも特徴である。
・耳介における軟骨炎を繰り返すことで、外形の変化が生じることがあり、ときにカリフラワー耳などと称されることがある。また軟骨が菲薄化することで、皮下の血管が目立ちやすくなることがある(Blue ear sign)。
・一般的な症状とはいえないが、ときに感音性難聴、耳鳴がみられる。
<眼>
・眼症状も一般的である。発症時にみられないケースでも、経過中に発症する可能性が高い。
・強膜にはⅡ型コラーゲンが存在するため、強膜炎を生じるが、通常は前部強膜炎となる。
・ときに結膜炎も伴う。
・ごく稀ながら網膜静脈閉塞症、視神経炎、網膜剥離などの合併例も報告されている。
<鼻>
・耳介軟骨炎よりは頻度は低いが、鼻軟骨炎もみられる。
・鼻甲介の炎症による疼痛が特徴で、鼻閉もみられる。
・ときに不可逆的な鞍鼻を呈することがある。ほか鼻出血、鼻漏などもみられる。
<関節>
・肋軟骨を侵すと胸痛が生じ、比較的頻度は高い。単独で生じることは稀であるが、RPC患者でみられる頻度は高い。
・RPCにおける関節痛は非対称性で、小関節と大関節の両方を侵し得る。ただし、体軸関節に影響を及ぼすことはない。
・稀ながら腱鞘炎の報告もある。
<心血管>
・大動脈基部拡張による大動脈弁閉鎖不全症は最も一般的な心血管系合併症である。
・僧帽弁閉鎖不全症もみられる。
・洞性頻脈は比較的よくみられ、また房室ブロックを生じることもある。
・稀ながら心膜炎、心筋炎の合併の報告もある。
・そのほか脳動脈瘤や腸骨動脈瘤など、大動脈以外の部位における動脈瘤を合併例がある。
<皮膚>
・皮膚所見は紫斑、丘疹、結節など様々である。皮膚症状はRPCで比較的みられやすい。
・アフタ性潰瘍や皮膚潰瘍がみられることもあり、局所的な血管炎による影響と考えられている。
・口腔内潰瘍、陰部潰瘍などのベーチェット病に類似した症状と、軟骨炎とが併存した場合にはMAGIC症候群(mouth and genital ulcers with inflamed cartilage syndrome)と称される。
<中枢神経系>
・神経系を侵す頻度は低いが、なかでも最も一般的な合併症としては第Ⅴ脳神経、第Ⅶ脳神経の麻痺が知られる。
・そのほか脳炎、髄膜炎、脳卒中、動脈瘤も報告される。
<腎臓>
・腎臓を侵すことは稀であるが、もしも合併した場合には予後不良である。
・メサンギウム増殖性糸球体腎炎が生じることがある。そのほかIgA腎症、尿細管間質性腎炎の合併例も報告される。
<消化管>
・消化管を侵す頻度は依然として不明。
・炎症性腸疾患(IBD)の合併例が報告されている。
<喉頭気管軟骨および肺>
・RPC患者の半数以上で、経過のなかで呼吸器系の合併症が生じる。そのうち約半数は気道症状で生じる。
・呼吸器合併症および肺炎はRPCにおける一般的な死因とされる。
・喉頭軟骨炎はRPC患者の半数以上でみられ、嗄声、気管の圧痛、咳嗽、呼吸困難、喘鳴などといった症状が出現する。多発血管炎性肉芽腫症でみられるような限局性声門下狭窄を呈することは稀である。
・喉頭軟骨炎や気管気管支軟骨炎はときに致命的な気道狭窄を誘発する可能性がある。
診断/アセスメント
・診断はMcAdamの診断基準などに基づいて行われるが、悩ましい場合には軟骨生検が有用なこともある。
・RPCが疑われる患者の初期評価では疾患活動性や治療反応性の指標となるCRPやESRを含めるべきとされている。そのほかANCAによるスクリーニング、尿検査、腎機能の評価などはRPCと類似する多発血管炎性肉芽腫症の鑑別に有用なことがある。
・そのほか聴力検査、眼科診察、心電図、心エコー検査などの心血管系の評価も行うことが一般的である。
・臨床経過のなかで新規の呼吸器症状が生じた場合には呼吸機能検査、胸部X線撮影、胸部CT撮像を検討する。RPCではしばしば閉塞性換気障害が認められる。なお、閉塞性換気障害は呼吸器症状が生じる前に認められることも多い。
・胸部CT撮像を行う場合には呼気時の撮像をできると良い。吸気時の撮像よりもRPC患者の異常を捉える感度がより高いと考えられている。
・MRI撮像は気管や喉頭の軟骨炎の評価に有用な場合がある。
・PET-CTは病変の範囲の評価に有用な場合がある。
治療
・治療は主に症状緩和を目的としている。
・RPCは稀な疾患であるため、RCTは実施されていない。したがって薬物治療はこれまでの経験やExpertの意見に基づいて決定されることがある。
・薬物治療としてはNSAIDs、ステロイド、免疫抑制薬、TNF-α抗体製剤などが検討される。
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<参考文献>
・Kingdon J, Roscamp J, Sangle S, D'Cruz D. Relapsing polychondritis: a clinical review for rheumatologists. Rheumatology (Oxford). 2018 Sep 1;57(9):1525-1532. doi: 10.1093/rheumatology/kex406. PMID: 29126262.
・Borgia F, Giuffrida R, Guarneri F, Cannavò SP. Relapsing Polychondritis: An Updated Review. Biomedicines. 2018 Aug 2;6(3):84. doi: 10.3390/biomedicines6030084. PMID: 30072598; PMCID: PMC6164217.