多発性骨髄腫の診断とマネジメント
疫学/病態生理
・多発性骨髄腫(MM; multiple myeloma)は、オーストラリア、北アメリカ、西ヨーロッパなどの先進国において65歳以上の高齢者で最も多く発生する。
・米国の2017年のデータでは、50~54歳で人口10万人あたり8.2件から、80~84歳で同50.6件へと、年齢とともに発症率が増加している。
・多発性骨髄腫の発症原因は明らかでないが、リスク要因として男性、消防士など特定職業、肥満、ダイオキシンへの曝露、9.11米国同時多発テロの初動対応者などが報告されている。
・米国では、白人(6.1/10万人)に比べて黒人(14/10万人)で発症率が高い。
・ほぼすべての多発性骨髄腫の患者は意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance; MGUS)から始まる。
・MGUSは65歳以上の3~5%、80歳以上の10%で認められ、年間約1~2%の割合でActiveな多発性骨髄腫へ進行し、20年後の進行リスクは約18%である。
・くすぶり型多発性骨髄腫(smoldering multiple myeloma; SMM)はMGUSより進行した形質細胞障害で、米国では年間約4100人が診断される。SMM患者の約10%が毎年、多発性骨髄腫へ進行する。従来、SMMの標準的なマネジメントでは3~6か月ごとにヘモグロビン、血清クレアチニン、血清カルシウム、血清Free light chain、血清および尿蛋白電気泳動(免疫固定含む)、全身骨画像検査を行い、臓器障害の徴候が出現した時点で介入することである。
・進行リスクが高いSMM患者にはレナリドミド(lenalidomide)治療を検討し、多発性骨髄腫合併症の発症の遅延または回避を目指す。
臨床像
・ミネソタ州の1027例の新規に診断された多発性骨髄腫患者では,ヘモグロビン値<12 g/dLを貧血と定義し73%で認められた。骨X線撮影での異常(主に骨融解性病変)は79%に認められ、血清クレアチニン上昇は19%に認められた。その他の所見として高カルシウム血症(13%),リンパ節腫大(1%),白血球減少(20%),血小板減少(5%)が認められた。
・新規診断時に約3.3%が髄外病変(画像検査で1ヵ所以上の骨外形質細胞腫を認める),中枢神経系(CNS)浸潤,または形質細胞白血病がみられた。
・骨髄外病変は診断時および再発時により予後不良で進行性の経過を示す。
・CNS浸潤は髄膜病変または脳神経障害として呈し,治療はシタラビン,メトトレキサート,または両者の髄腔内投与を行い,生存期間中央値は約7ヵ月である。
・形質細胞白血病は末梢血中に形質細胞が20%以上存在する状態と定義し,自家造血幹細胞移植を受けた患者でも4年生存率は28%である
・多発性骨髄腫患者の約10~15%が経過中に免疫グロブリン軽鎖アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)を合併する。ALアミロイドーシスは変性した軽鎖(アミロイド)が主要臓器に沈着し,心筋症や腎症による臓器機能障害をきたす合併症である。蛋白尿,巨大舌(macroglossia),眼窩周囲皮下出血,顎下腺腫大,原因不明の心筋症などを認める患者では,骨髄などのCongo-Red染色を実施してアミロイドの存在証明を目指すべきである。
診断
・多発性骨髄腫が疑われる患者の初期評価としては血算(分画を含む)、血清Cre、血清Ca、Alb、LDH、β2-ミクログロブリン(β2MG)、血清Free light chain検査、血清蛋白電気泳動および免疫固定、24時間蓄尿(尿蛋白電気泳動および免疫固定)、骨イメージング検査(全身低線量CT、全身MRI、全身PET-CTなど)が検討される。
・多発性骨髄腫患者の約86%で、血清蛋白電気泳動検査を実施すると、モノクローナルガンモパチー(monoclonal gammopathy)が認められる。
・24時間尿蛋白検査ではBence-Jones蛋白(BJP)の定量を行うこととなる。
・多発性骨髄腫ではネフローゼ症候群レベルの尿蛋白が出現することがある。
・血清free light chain検査を実施する理由はκ(カッパ)鎖とλ(ラムダ)鎖を確認することである。骨髄腫細胞は通常、κ鎖とλ鎖のどちらかのlight chainを分泌する。なお、κ/λ比は骨髄腫のタイプや進行リスクなどの評価に有用なことがある。
・骨髄穿刺吸引および生検は、すべての疑われる患者に実施する。
・画像検査について、全身X線撮影は溶骨病変の検出感度が低いため、より感度の高い以下のモダリティが推奨される。
- CT撮像:骨融解病変の検出に優れる
- PET-CT:骨病変および腫瘍代謝活性を評価
- MRI:骨髄病変を高感度で検出し、とくにSMM患者で病変の焦点を検索する際に有用
・診断基準は日本血液学会のHPを参照可能。
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<参考文献>
・Cowan AJ, Green DJ, Kwok M, Lee S, Coffey DG, Holmberg LA, Tuazon S, Gopal AK, Libby EN. Diagnosis and Management of Multiple Myeloma: A Review. JAMA. 2022 Feb 1;327(5):464-477. doi: 10.1001/jama.2022.0003. PMID: 35103762.