てんかん/慢性管理 epilepsy

成人のてんかんとその疫学

・てんかんは「24時間以上の間隔をあけて、2回の発作(seizure)が生じるもの」と定義される。ただし、高齢者など再発リスクが高いと考えられる患者では単回の発作で診断されることがある。なお、大脳皮質における過剰放電によっててんかんが生じる。

・てんかん(Epilepsy)は世界中で約7,000万人以上が罹患していると報告されている。

・特に低中所得国ではてんかんに対する治療が十分になされていない事実がある。

・高所得国における発症率は地域ごとの差が小さく、年間10万人あたり約50人と推定される。

・発症のピークは二峰性で、1歳未満の乳児50歳以上の成人とにピークがある。50歳以上の成人のなかでも特に70代でピークに至る

・成人以前のタイミングで発症したてんかんは通常、脳の器質的異常が存在する。なお、腫瘍に関連したてんかんはあらゆる年齢で発症し得る。高齢者で発症する場合は脳血管障害が原因となっていることが多い。

・マネジメントを最適化するにはてんかんを適切に分類することが重要。

・発作はその発生部位により、焦点性(focal)、全般性(generalized)、不明(unknown)に区別される。焦点性発作(focal seizures)は意識障害の有無によって、さらに複雑発作と非複雑発作とに区別される。

併存疾患

・てんかんが単独で発症することは稀で、併存疾患が存在することが一般的である。

精神疾患(例: うつ病、不安障害、自閉スペクトラム症)はてんかんとの関連性を長らく指摘されているが、身体疾患(例: 1型糖尿病、関節炎、消化性潰瘍、慢性閉塞性肺疾患)も同様に関連していることが指摘されるようになってきている。

診断

脳波検査は有用であるが、異常脳波所見が必ずしもてんかんの診断に直接的に結びつけられるとは限らない。あくまで詳細な病歴聴取と目撃者による情報が診断において重要。

・脳波検査は病歴や身体所見などから、てんかんが疑わしく、その診断の裏付けを要する場合に行われることとなる。

他疾患を適切に除外することも重要である。例えばけいれん性失神(convulsive syncope)はときにてんかんと誤認されるが、病態の主体は大脳における血液灌流の減少にあり、治療法が大きく異なる。その観点において、一過性の意識消失をきたした患者では全例で心電図検査も行っておくべきである。

てんかんを発症し、特に焦点性発作が示唆される場合にはMRI撮像を行い、脳の構造的異常、脳腫瘍などに関する精査を行うべきである。

・初期評価によって、てんかんの根本的原因が特定できず、辺縁系脳炎の症状/徴候がみられる場合には抗体検査(例: 抗NMDA受容体抗体、抗LGI1抗体)の提出を検討する。例えば抗NMDA受容体抗体や抗LGI1抗体に関連するてんかんでは抗けいれん薬よりも免疫治療がより有効である。

・第一選択薬の抗てんかん薬を至適用量で投与しているにも関わらず、発作を繰り返す場合には、てんかんという診断が適切かどうかを再評価するべき。

薬物治療

抗けいれん薬による治療が主となる。

・薬物の選択には発作のタイプ、年齢、性別、妊孕性、併存疾患などを総合的に勘案してなされる。特に高齢者においては併存疾患が多い傾向にあるため、薬物相互作用の少ない薬剤を選択することも少なくない。

・薬物治療をどのタイミングに開始するべきかを検討する必要がある。通常は発作を繰り返すことが確認された時点で開始されるが、これは初回の発作時に開始しても予後を改善させることが示されていないことが根拠とされている。ただし、脳の器質的異常などを含め、再発リスクが高いと考えられる患者では初回の発作時点で抗けいれん薬を導入すべきとされている。また、個々の事情も加味して判断するべきで、例えば業務上の都合で発作リスクを低減する必要性が高いケースもときに経験する。

・抗けいれん薬は段階的に用量を増やすことが望ましい。原則としては発作を生じさせない最小用量が至適用量と判断される。もしも発作がみられる場合には用量を増やすことが原則となる。副作用などによって忍容性が低いケースでは用量の減量を検討する。なお、漸増の末、最大用量でも効果が得られない場合には、てんかんの診断の正確性を見直したり、あるいは別の薬剤に変更したりすることを検討する。

・発作のタイプに準じた第一選択薬がいずれも無効な場合には第二選択薬とされる薬剤を追加するべきである。頻回に発作を起こすケースでは早期から追加する場合もある。

・抗けいれん薬による治療にはしばしば副作用を伴う。副作用としては精神症状(例: 易疲労感、めまい、易怒性)が比較的多い。

・妊娠可能年齢の女性に投与をする場合には薬剤の催奇形性に留意した薬物選択を行う。特にバルプロ酸はリスクが高いため回避するべきである。

・経口避妊薬は薬物血中濃度を低下させる場合がある。特にラモトリギンの血中濃度低下が知られていて、発作が生じるリスクが高まるかもしれない。

焦点性発作あるいは全般性発作に適用のある薬剤としてはレベチラセタム、ラモトリギン、フェノバルビタール、トピラマート、ゾニサミド、バルプロ酸、ベンゾジアゼピン系などが挙げられる。なお、ラモトリギンはミオクロニー発作を悪化させる場合がある。

焦点性発作のみに適応のある薬剤としてはカルバマゼピン、ラコサミド、フェニトインなどが挙げられる。

欠神発作にはエトスクシミドが使用可能。

その他の治療

・薬剤抵抗性のケースでは外科手術や神経刺激療法などが適応となることがある。

・詳細は割愛する。

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<参考文献>

・Thijs RD, Surges R, O'Brien TJ, Sander JW. Epilepsy in adults. Lancet. 2019 Feb 16;393(10172):689-701. doi: 10.1016/S0140-6736(18)32596-0. Epub 2019 Jan 24. PMID: 30686584.

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