プライマリケアにおける孤独(Loneliness)
はじめに
・孤独(loneliness)とは対人的関係性における不十分さの内的知覚(internal perception of inadequacy)と定義され、健康に対して悪影響を与えることが知られており、公衆衛生上の危機としてますます認識されている。
・孤独の有病率は高く、報告によっては7%から49%まで幅があり、それは調査対象国、測定尺度、年齢層、および対象としたサブグループによって異なる。米国では、45歳以上の一般人口の3分の1以上が孤独を経験しているとされる。
・孤独は高血圧(hypertension)や心血管疾患(cardiovascular disease)、脳卒中(stroke)、うつ病(depression)、認知機能低下やアルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、さらには全死亡率(all-cause mortality)と関連している。
・実際、孤独は1日に15本のたばこを吸うことと同程度に健康に有害であるとも言われている。従来、孤独は高齢者に関連するものとして注目されてきたが、近年では若年期から始まり生涯を通じて持続する社会的関係のパターンにも関心が向けられている。
・このような健康への脅威が明らかになっていることから、政策立案者はさまざまな場における孤独の研究や、医療者による孤独への配慮、新たな介入法の開発を呼びかけている。
・孤独を測定するための信頼性の高い尺度は存在するものの、プライマリケアでは日常的に使用されていない。また、プライマリケアにおいて孤独にどう対応すべきかという点も不明確である。
・したがって、プライマリケアにおいて孤独に取り組むためには、この場で孤独を経験している人々の特徴や行動について理解を深めることが重要である。本研究は、定期診療のために外来プライマリケアを受診した成人における孤独の有病率を記述し、孤独と人口統計学的因子、健康状態、医療利用との関連を検討することを目的とする。
Method
・本研究は、2017年4月から2018年1月にかけて、2つの実地臨床研究ネットワークに属する外来診療施設を訪れた成人患者を対象とした横断的調査である。
・これらのネットワークは、コロラド州の「State Networks of Colorado Ambulatory Practices and Partners(SNOCAP)」と、バージニア州の「Virginia Ambulatory Care Outcomes Research Network(ACORN)」である。本研究は、コロラド複数機関倫理審査委員会およびバージニア・コモンウェルス大学の倫理審査委員会の承認を受けた。
・SNOCAPはコロラド州内にある5つの実地臨床研究ネットワークの連携体であり、600人を超えるプライマリケア医師が参加し、コロラド州における主要な人口構成を代表している。
・ACORNはバージニア州唯一の実地臨床研究ネットワークであり、150以上の農村・郊外・都市部の診療所を含む、500人超のプライマリケア医師から成る。
・参加診療所には、電子メールおよびニュースレターにより研究について通知され、参加希望の診療所は研究調整員に電子メールで申し込みを行った。加えて、研究チームは、過去の共同研究経験に基づき、協力の可能性が高い診療所を個別に勧誘した。
・最終的に16の診療所が参加し、そのうち7施設がACORN、8施設がSNOCAPに属していた。ACORNの診療所は、主に都市部の医療的弱者地域(リッチモンド)、郊外の裕福な地域(フェアファックス)、および農村地域(フロントロイヤル)に位置していた。SNOCAPの診療所は、デンバー都市圏、ボルダー、コロラド東部の農村地域に広がっており、同様に多様な人口を対象としている。
・対象者は便宜的に抽出された。18歳以上の患者(コロラド州では倫理委員会の制約により上限89歳)が、診療前に紙ベースの調査票に記入するよう求められた。英語が読めない患者は除外された。
・ACORNの診療所では、学生や研究調整員が、診療期間中のすべての成人患者に調査協力を依頼し、1診療所あたり100件の回答が得られるまで連続して対象者を抽出した。一方、SNOCAPでは、受付スタッフが該当患者に調査票を配布し、4〜7日間の連続調査期間中に100件の回答が集まるか、期間が終了するまで継続した。
・患者には調査協力に対する報酬は支払われず、また回答の有無は担当医師には知らされなかった。本研究は匿名化された調査設計であったため、全体の回答率の推定や、同一患者が複数回調査に参加していたかどうかの確認は行っていない。
・調査票には、孤独の評価に加え、社会人口統計、健康関連QOL、医療利用に関する標準化された質問が含まれていた。人口統計情報としては、年齢、性別、郵便番号、婚姻状況、就業状況、現在の交際状況を収集した。郵便番号情報からは、米国農務省の「Rural-Urban Commuting Area Codes(都市・農村通勤分類コード)」を用いて、都市部/農村部の区別を行った。
・孤独の評価には、3項目版UCLA孤独尺度(3-item UCLA Loneliness Scale)を用いた。この簡易版は、20項目の改訂UCLA孤独尺度との相関が高く、信頼性があるとされている。この尺度は、連れ合いの不在、仲間外れ感、他者からの孤立感に関する3つの質問から構成されており、それぞれ「まったくない」「ときどき」「しばしば」の3段階(1〜3点)で回答され、合計スコア(3〜9点)が算出される。6点以上を孤独と判定した。
・健康状態については、米国CDCの「Healthy Days Measures」を使用し、「あなたの全体的な健康状態をどう評価しますか?」という質問に対し、5段階(1 = 不良、5 = 非常に良好)で回答を得た。また、過去30日間で身体的または精神的に健康でなかった日数も尋ねた。
・医療利用に関しては、過去12か月間の以下の3項目について回答を求めた:「プライマリケア診療所の受診回数」「救急/緊急外来受診回数」「入院回数」
・質問形式は、CDCの「National Health Interview Survey(全米健康面接調査)」に基づいたものである。
Results
・16の診療所から合計1,246名の患者が調査に回答し、そのうち1,235名が孤独に関する項目に回答した。調査対象者の平均年齢は52歳(標準偏差:16.5)であった。回答者の63%は女性、71%は白人であり、77%が都市部に居住していた。約半数が既婚(54%)、フルタイム就業者は45%であった。コロラド州とバージニア州の回答者の人口統計的特徴にはすべての項目で有意差が認められた。
・孤独の全体的な有病率は20%(1,235人中246人)であった。州別では、バージニア州の患者では22%、コロラド州では17%であり、この差は統計的に有意であった(P = .04)。3項目版UCLA孤独尺度の平均スコアは4.2(標準偏差:1.6)で、約3分の1の回答者が「ときどき」または「しばしば」仲間がいないと感じたり、仲間外れだと感じたり、他者から孤立していると感じていた。
・孤独の有病率は年齢とともに低下する傾向がみられた。たとえば、25歳未満では33%(18/58)が孤独を報告していたのに対し、65歳以上では11%(34/307)であった(P < .01)。また、孤独スコアの平均は年齢とともに直線的に低下し、18歳で4.7(標準誤差:0.16)、80歳では2.9(標準誤差:0.75)であった(P = .03)。
・孤独は交際状況と就業状況と有意に関連していた。離婚、別居、死別あるいは未婚の回答者では、孤独の有病率が有意に高かった(P < .01)。また、失業中または障害により就労できない者においても、孤独のレベルが高かった(P < .01)。一方、孤独スコアは人種・民族(P = .57)、性別(P = .08)と有意な関連を示さず、また都市部と農村部の居住地による差(都市部21%、農村部17%)も統計的に有意ではなかった(P = .42)。
・孤独は健康状態と有意に関連していた。自己申告による健康状態が不良な者では、孤独の有病率が高かった(P < .01)。
・また、健康状態が「不良」から「非常に良好」へと改善するにつれて、孤独の有病率が低下する逆相関が確認されている(P < .01)。
・過去1か月間に身体的・精神的健康が不良であった日数が多いほど、孤独との関連が強く(P < .01)、この関連はすべての患者特性を調整したモデル(OR = 1.04、95% CI: 1.02–1.06)、あるいは就業状況と交際状況を調整したモデル(OR = 1.05、95% CI: 1.03–1.07)でも有意であった。
・孤独のスコアが高い者は「プライマリケア受診回数」「救急外来の受診回数(High utilizers/Frequent flyers)」「入院頻度」の3つすべての医療利用指標において有意に高い値を示した。
・就業状況および交際状況で調整後も、孤独とプライマリケア受診および救急・緊急受診回数との関連は有意であった。
Disucussion
・本研究では、通常の外来プライマリケアを受診した英語の使用が可能な成人患者のうち、孤独の有病率が20%であり、特に若年層においてその負担が大きいことが明らかとなった。交際状況や就業状況といった人口統計的因子に加えて、自己申告による健康状態の不良や医療利用の多さとも、孤独スクリーニングでの陽性結果と関連していた。とくに健康状態との関連は、他の要因を調整した後でも有意に維持された。
・本研究の知見は、既存の孤独に関する研究を支持するとともに、プライマリケア患者という幅広く代表性のある集団に焦点を当てた点で、知見を拡張するものである。これまでの研究でも、交際状況(例:独身や死別など)や主観的健康状態の不良、そして医療利用指標(プライマリケア受診、救急受診、入院など)と孤独の関連が報告されてきた。農村部における孤独の有病率が有意に高いとする先行研究もあるが、本研究では地域による有意差は見られず、多様な臨床現場で孤独が普遍的に存在する可能性を示唆している。また、コロラド州とバージニア州間で有病率に差があったが、これは両州の患者構成の違いによるものと考えられる。
・重要なのは、プライマリケアを受診する患者における孤独の有病率が、一般人口とほぼ同等であった点であり、すなわち孤独な人々が医療機関から孤立しているとは限らず、プライマリケアの場は介入の可能性をもつことを意味する。
・本研究と同様に、孤独が青年期や若年成人においても高頻度にみられることを示す報告もある。若年層における孤独の原因は明確ではないが、親からの自立や自己同一性の確立、仲間関係に対する不安、自己肯定感の低さなど、人生の過渡期に特有の課題が背景にある可能性がある。
・また、世代間のコミュニケーション様式の違いが、孤独感の経験や影響のされ方に関与しているかもしれない。今後は、より限定された年齢層ごとの解析が、プライマリケアにおける孤独の理解を深めるうえで有用であると考えられる。
・ルーチンの診療において孤独をスクリーニングする意義や方法は、いまだ明確ではないが、医療システムが孤独に対処する役割を果たしうるという知見は増えつつある。実際に、臨床現場では以下のような多様な介入が試みられてきた。
・本研究にはいくつかのLimitationがある。第一に、資源の制約から英語を読める参加者のみに限定されたため、調査票の理解が可能な比較的高教育層に偏っており、孤独のリスクが高いとされる低所得層や移民・難民の集団が除外された可能性がある。先行研究では、こうした集団において孤独が高頻度に認められており、より包括的な対象集団であれば、本研究の孤独有病率はさらに高かった可能性がある。第二に、非回答者に関するデータを収集していないため、回答者と全患者集団との比較はできず、選択バイアスが存在する可能性がある。さらに、本研究では特定地域を対象としたため、他州や他地域での再現性は保証されない。
・最後に、本研究は横断的研究であるため、孤独と健康状態や医療利用との因果関係は明確にできない。たとえば、孤独が健康状態の悪化や医療利用の増加を引き起こすのか、あるいはその逆なのかは不明である。因果関係の解明には、今後の縦断的研究が必要である。
――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Mullen RA, Tong S, Sabo RT, Liaw WR, Marshall J, Nease DE Jr, Krist AH, Frey JJ 3rd. Loneliness in Primary Care Patients: A Prevalence Study. Ann Fam Med. 2019 Mar;17(2):108-115. doi: 10.1370/afm.2358. PMID: 30858253; PMCID: PMC6411405.