統合型ケア integrated care
目次
- プライマリ・ケアの統合機能(integrative function of primary care)
- 統合型のケアの次元(Dimensions of integrated care)
- ①マクロレベル; システム統合
- ②メゾレベル; 組織統合
- ②メゾレベル; 専門職統合
- ③ミクロレベル; 臨床統合
- ミクロ, メゾ, マクロレベルでの連携; 機能的統合(Functional integration)
- ミクロ, メゾ, マクロレベルでの連結; 規範的統合(Normative integration)
- 統合の全体像
- プライマリ・ケアと統合型ケアの結合(Combining primary care and integrated care)
プライマリ・ケアの統合機能(integrative function of primary care)
<プライマリ・ケアの基本的機能>
・1978年のアルマ・アタ宣言で述べられたように、プライマリ・ケアは公衆衛生的戦略の一つで、以下の4つの基本的機能を有している。
①First contact care:
・患者が新たな問題を抱えた際にまず医療と接触する場であり、直接的なアクセスが可能な外来診療を通常指す。
②継続的なケア(Continuous care):
・患者が継続的に一貫性のあるケアを受けることを可能にし、そのニーズや希望に対応するケアを指す。
③包括的ケア(Comprehensive care):
・患者のニーズに対応するための広範なサービスを提供し、予防から治療、リハビリ、支持的なケアまで含む。
④調整されたケア(Coorinated care):
・必要に応じて他のサービスや専門医との連携を確保し、患者が適切なケアを受けられるようにする機能である。
<PersonおよびPopulationに置く視点>
・プライマリ・ケアは主に以下の2つの視点に基づいて設計されている。
①Person-focused care:
・健康問題を単なる生物医学的疾患と捉えず、心理的、社会的要因を含む包括的な視点で患者の健康問題を捉える考え方。
・これは患者の個別のニーズや価値観に基づくケアを重視する。
②Population-based care:
・定義された集団全体の健康ニーズに応えることを目指し、社会的、経済的、環境的要因も考慮した包括的なアプローチ方法である。
・これは特に健康格差の是正に重要な役割を果たす。
<プライマリ・ケアの中心的役割>
・これらの基本機能と視点により、プライマリ・ケアはヘルスシステムの中心的な役割を果たし、患者が必要とするケアのアクセスと継続性を保証する。
・また、これにより医療サービスの分断を防ぎ、ケアの質を向上させることが可能。
・特に以下のような点で重要である。
- 新たな健康問題に対する迅速な対応
- 患者のニーズと希望に基づく一貫したケアの提供
- 幅広いサービスを通じた健康問題への包括的な対応
- 他の医療サービスとの連携を通じたシームレスなケアの実現
<統合の意義>
・これらの機能は、単に疾患や症状の管理に留まらず、患者とその家族、さらには地域社会全体の健康に寄与することを目指している。
・統合型ケアにおいては、医療と社会サービスが相互に補完し合うことが求められ、これにより患者の全人的なニーズに対応できるようになる。
統合型のケアの次元(Dimensions of integrated care)
・統合型ケアはその構造に応じて以下の3つのレベルで実現される。
- マクロレベル; システム統合(system integration)
- メゾレベル; 組織統合(organizational integration)と専門職統合(professional intgegration)
- ミクロレベル; 臨床統合(clinical integration)
①マクロレベル; システム統合
・システム統合は、全体の医療システムにおける効率、質、生活の質、および患者満足度を向上させることを目的としている。
・このレベルの統合は、システム全体の構造、プロセス、技術が人口全体のニーズに合わせて設計される必要がある。
・一方で、専門化や分化によりサービスが断片化されることが、統合の大きな障壁となる。
・水平統合(Horizontal Integration)と垂直統合(Vertical Integration)は、この断片化に対抗する主要なメカニズムである。
・水平統合は、同一レベルのサービス提供者間の連携を指す。
・垂直統合は異なるレベルのサービス提供者間の連携を指す。
・これらの統合により、連続性のあるシームレスなケアが実現されます。
<図1: システムの統合>

②メゾレベル; 組織統合
・組織統合は、異なる組織が連携してケアを提供する度合いを示す。
・ここでは異なる医療機関や社会サービス機関が協力して、患者に対する一貫性のあるケアを提供することを目指している。
・組織統合は、以下のような複数の形態で実現されることがあります。
・合併や統合
・契約や戦略的提携
・ナレッジネットワークやコンソーシアムの形成
・これらの関係は、独立した組織間の調整を含み、複雑で多様なニーズを持つ集団に対する包括的なサービス提供を可能にする。
<図2: 組織間統合のスペクトラム>

②メゾレベル; 専門職統合
・専門職統合は、異なる専門職が協力して包括的なケアを提供する枠組みを指す。
・これは、医師、看護師、ソーシャルワーカー、リハビリテーション専門家などが連携して、患者に対する統合的なケアを実現するために必要である。
・専門職間の協力は、以下のような要素を含むことがある。
・役割と責任の共有
・共通の倫理規範と価値観
・意思決定と問題解決における共同責任
・専門職統合は、特に慢性疾患や多疾患併存の患者に対するケアの質を向上させる上で重要である。
③ミクロレベル; 臨床統合
・臨床統合は、個々の患者に対するケアが一貫して提供されることを指し、日常の診療プロセスにおける統合を意味する。
・これは、以下のような要素から構成されます。
・患者中心のケア
・連続性のあるケアプロセス
・診療科間の連携と情報共有
・臨床統合は、患者のニーズに応じた適切なタイミングでのケア提供を可能にし、患者満足度と健康アウトカムの向上に寄与する。
ミクロ, メゾ, マクロレベルでの連携; 機能的統合(Functional integration)
・機能的統合は臨床(マイクロレベル)、専門職・組織(メゾレベル)、およびシステム(マクロレベル)の統合を支援するメカニズムである。
・ここには、以下のような主要な支援機能を統合することを意味します。
・財務管理
・人事管理
・戦略的計画
・情報管理
・品質改善
・機能的統合は、単なる中央集権化や標準化を意味するものではなく、各パートナーが状況に応じて柔軟に適応できるような仕組みを含む。
・特に重要な要素は、サービス提供の主要なプロセス(臨床統合)を支援するための財務、管理、および情報システムの連携である。
・これにより、政策立案者(システム統合)、管理者(組織統合)、専門職(専門職統合)、患者(臨床統合)など、異なるレベルの関係者間の意思決定と責任の共有が可能になる。
ミクロ, メゾ, マクロレベルでの連結; 規範的統合(Normative integration)
・規範的統合は、組織、専門職、個人の間で共通の価値観、使命、ビジョンを共有することにより、システム全体での一貫性を確保するための統合である。
・これは、形式的な制度や構造ではなく、以下のような内容に依存する。
・共通の目標
・価値観の共有
・文化的な一体感
・規範的統合は、統合型ケアを実現するための重要な要素であり、異なる専門職や組織間の協力を促進する。
・リーダーシップは、特に専門職および管理職レベルでの統合において、共有文化の形成において重要な役割を果たす。
・また、異なる背景や専門性を持つ参加者が共通の目標に向けて協力するためには、互いに尊重し合う文化と、共通の使命が欠かせない。
統合の全体像
・以下の図に示されるように、機能的統合と規範的統合は、マイクロ、メゾ、マクロの各レベルを結びつける役割を果たす。
・これにより、臨床、専門職、組織、およびシステムの各レベルでの一貫したケアが実現され、患者中心のケアと集団ベースのケアが効果的に提供されるようになる。
・統合型ケアの全体的なフレームワークは、個々の患者のニーズと集団全体の健康ニーズを同時に満たすことを目指している。
・これにより、個別のサービスが断片化されることなく、連続的かつ包括的なケアが提供されることが期待される。
<図3: 統合型ケアの概念的枠組み>

プライマリ・ケアと統合型ケアの結合(Combining primary care and integrated care)
<基本的な概念の統合>
・プライマリ・ケアは、生物学的、心理的、および社会的な次元で健康と福祉を統合することを基本的な価値としている。
・ここで提案されたフレームワークは、この統合機能を中心に設計されており、Person-focusedな、あるいはPopulation basedなケアがその基盤となっている。
・これらの視点は、全てのケアの連続性を確保するための指針となり、ケアの各レベル(マイクロ、メゾ、マクロ)での統合を支援する。
<統合のレベルとその役割>
・フレームワークは、以下の3つのレベルでの統合を含む。
・ミクロレベル(Clinical Integration):個々の患者に対する一貫したケアの提供
・メゾレベル(Professional and Organisational Integration):専門職および組織間でのサービスの連携
・マクロレベル(System Integration):システム全体での政策や規則の統合
・さらに、これらのレベルをつなぐ要素として、以下の2つの統合が含まれる。
・機能的統合(Functional Integration):支援機能や管理システムの統合
・規範的統合(Normative Integration):共通の価値観やビジョンに基づく文化的な統合
<統合の枠組みの可視化>
・図3に示されたように、このフレームワークはPerson-focused careが中心に配置され、周囲にPopulation-based careが位置している。
・これにより、患者個別のニーズに応じたケアと、集団全体の健康格差を減少させるための取り組みが統合される。
・この枠組みは、プライマリ・ケアの基本機能(first contact、継続、包括、調整)が統合型ケアの次元と結びつく形で設計されており、全体的なケアの連続性を支援する。
<全体的な統合アプローチ>
・プライマリ・ケアと統合型ケアの結合は、単に医療サービスの提供にとどまらず、患者や集団全体の健康と福祉を向上させることを目的としている。
・これにより、個々の患者のニーズと集団全体の健康ニーズが同時に満たされ、より包括的で持続可能なヘルスシステムが構築されることが期待される。
・さらに、この枠組みは、ケアの断片化(fragmentation of care)を防ぎ、患者の経験と満足度を向上させるための基盤となる。
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<参考文献>
・Valentijn PP, Schepman SM, Opheij W, Bruijnzeels MA. Understanding integrated care: a comprehensive conceptual framework based on the integrative functions of primary care. Int J Integr Care. 2013 Mar 22;13:e010. doi: 10.5334/ijic.886. PMID: 23687482; PMCID: PMC3653278.
・Ahgren B, Axelsson R. Evaluating integrated health care: a model for measurement. Int J Integr Care. 2005;5:e01; discussion e03, e09. doi: 10.5334/ijic.134. Epub 2005 Aug 31. PMID: 16773158; PMCID: PMC1395513.
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