原発性胆汁性胆管炎 PBC:Primary biliary cirrhosis
概要
・原発性胆汁性胆管炎(PBC: primary biliary cirrhosis)は女性に好発する自己免疫性肝疾患である。
・発症のピークは50代にあり、25歳未満での発症例は稀である。
・病理組織学的にPBCは門脈域における炎症と肝内胆管の免疫介在性の破壊とを特徴とする。
・胆管の破壊により胆汁分泌量減少と肝内毒性物質の停滞を惹起し、それによりさらに肝障害、線維化、最終的に肝不全へと進展させる。
・血清学的にPBCは抗ミトコンドリア抗体(AMA)の存在を特徴とし、患者の90~95%で検出される。抗体陽性は臨床症状が出現する数年前から確認されることも多い。
・PBCの特徴の一つは免疫システムによる影響が臓器特異的に生じる点であり、その対象が主に肝内胆管である。
・PBCはしばしば早期診断され、診断時に無症候性の患者が50~60%という報告もある。倦怠感と掻痒感が一般的な初発症状である。無症候性の患者は2~4年以内に症状を発現するが、約1/3は何年も無症状のまま経過する。倦怠感は最大78%の患者でみられる。倦怠感の重症度と肝疾患の重症度とは無関係である。
・掻痒感は20~70%の患者で認められ、ときに最も苦痛な症状となる。なお、掻痒感の出現は黄疸の出現に先行して、数ヶ月から数年間続くこともある。掻痒感は通常、夜間に悪化し、ウールなどの繊維や熱のこもりなどによって増悪する。原因は不明であるが、内因性オピオイドが関与している可能性も示唆されている。
・右上腹部の不快感は約10%の患者で認められる。
・PBCと関連する主な疾患としては脂質異常症、甲状腺機能低下症、骨粗鬆症、他の自己免疫疾患(特にシェーグレン症候群(SjS)、強皮症(SSc))が挙げられる。そのほか、間質性肺炎、セリアック病、サルコイドーシス、尿細管性アシドーシス、溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症なども関連することがある。
・門脈圧亢進症は通常、進行例でないと出現しない。脂溶性ビタミンの欠乏、脂肪便、吸収不良は進行例を除いて一般的でない。ただし、稀ながら腹水貯留、肝性脳症、食道静脈瘤破裂による出血で発症することもある。
・罹病期間が長く、病理組織学的に進行したPBC患者では肝細胞癌(HCC)の発生率が高くなる。
・無症候患者では身体所見で異常が認められないことがある。病期の進行に伴い、皮膚の色素沈着(メラニン色素沈着)、くも状血管腫、掻痒感に対する掻爬痕などが認められる。眼瞼黄色腫は5~10%の患者で認められる。肝腫大は約70%の患者で認められる。初診時に脾腫が認められることは稀であるが、病期の進行とともに認められることがある。黄疸は後期の症状であり、側頭筋や四肢近位筋の筋萎縮、腹水、浮腫が認められるようになれば肝不全の発症が示唆される。
疫学
・有病率に地域差があるが、特に北欧において有病率が高い。地域差はあるが、人口100万人あたり40~400人の有病率と報告されている。
・第1度近親者にPBC患者がいる場合、より高頻度に発症すると考えられている。全PBC患者のうち1~6%において、少なくとも1人の患者として家族に存在し、特に母娘間、姉妹間での発症例が多い傾向にある。
・一卵性双生児におけるPBCの一致率は63%という報告もある。
・女性に好発する。
診断と病理所見
・PBCの診断は主に以下の3つの基準に基づいて行われる。
- 血清抗ミトコンドリア抗体(AMA)の存在
- 6ヶ月以上持続する肝酵素上昇(特にALP上昇)
- PBCに合致する肝臓の病理組織学的所見
・これらのうち2項目が満たされれば、推定診断(probable diagnosis)とされ、3項目が満たされれば確定診断(definite diagnosis)となる。
・肝生検が必須としない専門家もいるが、生検を行うことで病期(stage)を把握でき、治療効果の評価のための指標にもなる。
・5~10%の患者では抗ミトコンドリア抗体が検出されないが、臨床像は抗ミトコンドリア抗体陽性の患者と同様である。
・病理組織学的所見はStage 1~4に分類される。詳細は割愛する。
自然経過と予後
・PBC患者の多くはウルソデオキシコール酸(UDCA)で治療される。
・UDCAで治療されたPBC患者のうち、少なくとも25~30%ではComplete responseを示す。これは血液検査結果が正常化し、肝の病理組織学的所見も安定あるいは改善が認められることを意味する。
・UDCAによる治療を受けた患者の20%以上は4年間にわたり病理組織学的所見の進行が認められず、10年以上進行しない患者もいる。
・262人のPBC患者を多少にUDCAによる治療を平均8年間行った研究ではStage1~2で治療を開始した患者の生存率は健常者と同等であったことが示唆された。
・死亡率を上昇させるリスク因子としては黄疸、胆管の不可逆的消失、肝硬変、他の自己免疫疾患の併存が挙げられている。
・過去の研究によると無治療の患者においてStage1あるいはStage2から肝硬変へと進行する平均期間は4~6年間である。
・抗ミトコンドリア抗体の有無やその力価は進行の早さ、生存率、治療反応性に影響しない可能性が示唆されている。
血液検査
・前述のように抗ミトコンドリア抗体は患者の90~95%で検出される。抗体陽性は臨床症状が出現する数年前から確認されることも多く、少なくとも5~10年以内にPBCを発症するリスクが高いことが示唆される。
・抗ミトコンドリア抗体が陰性であっても、ほぼ全例において血清IgM高値が認められる。
・抗核抗体(ANA)はPBC患者の約50%で認められる。
PBCに対する治療
・UDCAは胆汁分泌促進作用を有志、PBCの治療薬として知られる。
・治療効果をはかる指標としては血清ビリルビン(Bil)、ALP、ALT、AST、コレステロール、IgMなどが挙げられ、治療によりこれらの値は低下する。
・複数のRCTではUDCA投与によって数年後の肝移植または死亡率が有意に低下したことが示されている。
・UDCAは比較的安全性が高く、副作用も多くない。ただし、体重増加、脱毛、下痢、腹部膨満感などをきたすことはある。
・UDCA投与が早期に行われれば肝線維化進行を抑制し、食道静脈瘤の発生も遅らせると考えられている。ただし、進行例ではその効果は減弱する。
・UDCA投与がされた患者の大部分で病期の進行抑制効果が認められ、25~30%の患者で著効(highly effective)が認められる。
・本邦では保険適応を有さないが、メトトレキサート(MTX)やコルヒチンの有効性を示唆する研究もある。ただし、治療効果に関する報告が豊富なのはUDCAと考えられる。
・肝移植はPBCにおいて生存率を大きく改善させる可能性がある治療法である。なお、移植後、多くの患者で肝疾患の臨床所見が消失するが、抗ミトコンドリア抗体は陽性が続く。PBCは移植後3年で15%、10年で30%の患者で再発するという報告がある。
合併症
・夜間の掻痒感に対しては抗ヒスタミン薬(H2RA)を補助的に使用することがある。
・骨粗鬆症はPBC患者の約1/3で合併する。アレンドロン酸は骨密度上昇に寄与する可能性があるが、長期的効果は判然としていない。閉経後女性ではエストロゲン補充療法が有効な可能性がある。
・PBC患者では脂質関連項目が著明に上昇することがあるが、動脈硬化による死亡リスク上昇には大きく寄与しがたいと考えられている。スタチンやエゼチミブは副作用に注意しながら使用可能である。
・PBC患者では他の肝疾患患者と異なり、黄疸や肝硬変発症前の早期から食道静脈瘤破裂が生じることがある。内視鏡的治療が行われるが、それでもマネジメントできない場合は血管内治療などが選択される。
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<参考文献>
・Kaplan MM, Gershwin ME. Primary biliary cirrhosis. N Engl J Med. 2005 Sep 22;353(12):1261-73. doi: 10.1056/NEJMra043898. Erratum in: N Engl J Med. 2006 Jan 19;354(3):313. PMID: 16177252.