Storylines of family medicine Ⅴ:治療的自己を磨く思考法
目次
はじめに
・家族医は、患者との出会いのなかで自らの視点を治療的手段として活用し、患者の健康と福祉の向上に貢献できる。この治療的能力を発揮するためには、以下の3つの課題が重要である。
- 医療実践における思いやり(compassion)と人間性(humanism)の重要性を認識すること
- 臨床場面を、医師と患者のあいだの関係的経験(relational experiences)として観察すること
- 上記1および2について内省を深め、それを単なる印象の記録に留めず、治療的能力の向上に活かすこと
実践中の省察(Reflection in action)
・医療現場での「実践中の省察(reflection in action)」――すなわち、診療の内容やタイミングを管理しつつ、ケアの過程や自身の感情にも同時に注意を向けること――は、家庭医療における成功に欠かせない要素である。
・たとえば、パンデミック下の時間外診療所に来院した56歳女性Sandyは、「息ができないの!」と訴えた。喘息持ちの彼女は、サーバーの仕事を失い、空腹と立ち退きの不安に苛まれていた。呼吸数も酸素飽和度も正常で、喘鳴もなかったが、これは苦しむ患者からの「助けを求める叫び」だった。「実践中の省察」とは、診療の只中で自分自身と他者の状態を持続的に意識し続けることである。家族医にとっては、この瞬間ごとの気づきが極めて重要である。
・省察の目的は、リアルタイムで行動を修正し、診療成果を高め、医師–患者関係を構築し、さらに医師自身の幸福感ややりがいを高めることである。このような省察を通じて、態度や行動を継続的に洗練させ、その場その場の臨床状況に応じて柔軟に対応することが可能となる。
・家族医は以下のような実践を通じて、「実践中の省察」の力を高めることができる:
・患者を「世界で最も大切な存在」として接する意図を明確にする
・診療中、患者の感情・言葉・非言語的コミュニケーションに注意を払う
・自らの思考・感情的反応・身体反応に気づく
・時間に追われていても、思い込みや偏見、性急な結論づけをチェックする
・患者の関心や視点を引き出しつつ、必要な情報を収集し、適切な診察を行い、時間やその他の重要業務を管理する
・患者に勧める内容について、状況・資源・制約を踏まえて評価・判断・交渉・説明する
・このような「やりながら内省する」能力を身につけるには、患者と医師が抱く感情の両方が、診療にプラスにもマイナスにも働き得ることを理解する必要がある。目指すべきは、感情を無視したり抑圧したりすることではなく、診察室における感情の流れに気づき、受け入れ、好奇心を持って探求することである。ただし、その感情に過度に同一化しないことも重要である。そうすることで、否定的な感情を和らげ、共感や思いやりを表現できる余地が広がる。
・この「実践中の省察」により、家庭医は自身の価値観に基づいて行動し、患者のニーズに応えることができるようになる。また、患者のニーズと医師としての信念、利用可能な資源、制度的制約とのギャップがもたらすフラストレーションや倫理的苦悩を認識し、対処する能力も養われる。このような省察によって得られる明晰さと新たな視点は、家族医を「コーチ」「擁護者(advocate)」「変革の担い手(change agent)」として育てるのである。
・Sandyの例では、「実践中の内省」によって彼女の不安や恐れが真剣に受け止められた。呼吸が正常であることを説明されたうえで、彼女は地元のフードバンク、家賃補助、社会サービスについての情報を受け取った。この緊急受診は、継続的ケアと健康維持の支援につながる一歩となった。
― 参考文献 ―
・Epstein RM. Mindful practice. JAMA 1999;282:833–9.
・Shapiro J, Talbot Y. Applying the concept of the reflective practitioner to understanding and teaching family medicine. Fam Med 1991;23:450–6.
・Shapiro J. The feeling physician: educating the emotions in medical training. Eur J Pers Cent Healthc 2013;1:310–6.
医師という”薬”: バリントグループ
・バリントグループとは、患者との感情的に困難な遭遇を振り返るピア主導型のグループディスカッションであり、臨床家が治療的な関係性を育む力を高めるのに有用である。
・医師–患者関係を豊かにする主要な方法の1つが、このバリントグループである。この名称はMichael BalintとEnid Balintに由来する。Michaelはハンガリーで精神科医として訓練と実践を積んだ後、第二次世界大戦前に英国へ移住した。Enidは英国でソーシャルワーカーとして訓練を受け、グループダイナミクスと対人関係の分析に長けていた。彼らはロンドンのタヴィストック・クリニック(Tavistock Clinic)で、ジェネラリスト医療において医師–患者関係がもつ治療的意義に注目する活動を始めた。
・バリント夫妻は、一般診療医(General Practitioner, GP)と患者との関係性に作用する力を再現する「るつぼ(crucible)」として、グループベースの症例検討形式を用いた。その構成はシンプルで、あるGPが困難な症例(実際には困難な「患者関係」)を提示し、それに対して他の医師たちが関係性に着目した視点から意見を述べるというものであった。医学的な詳細自体にはあまり焦点が当てられなかった。
・このようなグループセッションの中で明らかになったのは、GPが患者とのやり取りにおいて用いる主要な治療的要素は「自分自身」である、という事実である(Therapeutic self)。すなわち、医師自身が「薬」といえる。とくに困難な診療場面において、GPがどのように患者の訴えに向き合うか、その態度こそが治療における主たる介入なのである。
・バリントグループの主な目標は、参加する医師が以下の点を認識し、実践することである:
・医師–患者関係の中に治癒力があることに気づく
・その関係性を治療的手段として磨こうとする姿勢を持つ
・すべての医療介入と同様、関係性にもリスクとベネフィットがあることを受け入れる
・副作用を最小限に、効果を最大化するよう努める
・現在においても、バリントグループはほぼ当初の形式のまま継続されている。ある医師が困難な症例(実際には「困難な患者関係」)を提示し、グループメンバーがそれに対して感情的反応を交えつつ議論する。グループは定期的に開催され、1~2名のリーダーが議論を導く。信頼関係が構築されていくにつれ、より深い人間的関心が表出するようになる。このようなグループの多くは、内面的な(intrapersonal)作業が中心であり、医師は支援的な環境の中で自己の感情知性や関係的力量を自然と学ぶ。
・伝統的な医学教育では、患者は「病の対象」として扱われ、医師と患者の距離が保たれるよう教育される。その結果、治療における人間関係の重要性を見過ごしがちであり、多くの医師は自分自身を「癒しの担い手(agent of healing)」と認識することがない。
・しかし、家族医療における本質のひとつが医師–患者関係にある以上、バリントグループは非常に有効である。家族医が患者との困難な関係によって生じる感情に対処する方法を学ぶ助けとなる。さらに、共感性を育み、燃え尽き症候群の予防にも寄与する。なによりも、医師が自身の「治療的な力(therapeutic power)」に再びつながり、それを診療の中で活かすための重要な手段となるのである。
― 参考文献 ―
・Balint M. The doctor, his patient, and the illness. Lancet 1955;268:683–8.
・Lichtenstein A. Integrating intuition and reasoning—how Balint groups can help medical decision making. Aust Fam Physician 2006;35:987–9.
・Roberts M. Balint groups: a tool for personal and professional resilience. Can Fam Physician 2012;58:245–7.
思いやり/共感の形成(Cultivating compassion)
・他者の苦悩(distress)に気づき、それを認め、和らげようとする―思いやり/共感(compassion)は認知的かつ情動的な行為である。
・患者と関わる際において、思いやりは重要な治療的スキルであり、医師は自己に対しても思いやり(self-compassion)を育む必要がある。
・思いやりは治療的スキルとして重要であるが、その経験や表現は「見ればわかる」ような抽象的概念のまま捉えられがちである。だが患者は、自分に向けられた医師の思いやりが本物かどうかを鋭く見抜く。
・心理学的にみた思いやりには以下の要素がある:
- 病い(illness)と苦しみ(suffering)の結びつきを理解すること
- 個々の患者、さらには地域社会における苦しみに気づくこと
- 不快な感情を受け止めながら、それでもなお苦しみを和らげようとする意志をもつこと
・実践的に、思いやりとは以下を意味する:
- 誠実な意図をもって診療に臨む
- 患者の語る物語に耳を傾け、その経験を深く理解しようと努める
- 苦しみの軽減を目指して治癒的な関係性を築こうとする姿勢をもつ
・思いやりに関係する概念には多くの言葉がある。たとえば「ケア」「共感」「敬意」「親切心」「思慮」などがそうであり、医学や人文学の研究者たちはこれらの要素を精緻に分析してきた。また、思いやりを行動に移すための実践モデルもいくつか提案されている。
・本章では、これらの理論や行動モデルに加えて、「医療者同士のコミュニティの中で思いやりを育てる」ことの重要性を強調したい。思いやりに関する語彙や行動は確かに重要だが、それらを学び実践するだけでなく、医師個人として以下のような「内的な基盤(building blocks)」を育むことが、より自然で本物の思いやりの表出につながる。
- 起きていることに気づく:生物医学的側面のみに注意を向けがちだが、患者の生活全体にも好奇心をもって開かれること
- 感情の力を認める:感情は患者の病気経験や意思決定に大きく影響するものであると認識すること
- 共感の感情を大切にする:医学教育ではしばしば「感情の抑制」が推奨されるが、自己の人間性とそれに伴う感情を受け入れることによって、患者と適切に関われる
- 思いやりをもって行動する勇気をもつ:患者や家族、同僚に対して、思慮深く親切に接する機会をつくること
- 思いやりを受け取ることを恐れない:孤立して働くことはできない。他者の助けを受け入れ、また助け合うことで困難を乗り越える
・思いやりの経験と表現は、知識・態度・スキル・意図・関係性の属性が混ざり合ったものである。
・思いやりとは、自動的な反応ではなく、「学習される信念(a learnt belief)」であり、識別力と推論を必要とする意志的な行為である。
・思いやりは、患者にとっても医療者にとっても治療的である。信頼を育み、医療結果を改善し、医師の仕事に対する喜びを高めるものなのである。
― 参考文献 ―
・Halpern J. What is clinical empathy? J Gen Intern Med 2003;18:670–4.
・Mercer SW, Reynolds WJ. Empathy and quality of care. Br J Gen Pract 2002;52:S9-12.
・Rakel RE. Compassion and the art of family medicine: from Osler to Oprah. J Am Board Fam Pract 2000;13:440–8.
人文主義的なアプローチ
・家族医療において、患者をケアするには人間主義的な視座が不可欠である。人文学(the humanities)は、この視座を育てる手段を提供する。
・現代の医学教育や実践では、ガイドライン、アウトカム、臨床試験が重視される。客観的知識は「科学的」であるとされ、新たな技術も学習と臨床判断の多くを占めている。一方で、主観的情報は「軟弱」あるいは「二流」とみなされがちである。
・しかし、主観的情報が劣っているという考えは誤りであり、患者の苦しみを軽減し、健康を促進するうえで重大な障害となる。
・医師の役割は、患者をケアすることにある。この「ケア」には、問診を通じて有意義な情報を引き出し、身体診察を丁寧に行い、適切な検査を選び、治療法を理解し、必要な手技を遂行する、といった技術的な行為が含まれる。しかし同時に、医師は目の前の「人間」を理解し、病や苦しみ、そして死や回復といった人間の根本的経験に向き合う力を持たねばならない。
・特に家族医やジェネラリストにとって、人文学は患者ケアにおける人間主義的アプローチ(humanistic approach)を育む助けとなる。
・人文学は、患者を「生きた文脈の中の存在」として理解するための洞察と理解を提供する。人文学は医学知識や臨床スキルの「補助」ではない。それ自体が医師の治療的ツールキットにおける「必須の道具」なのである。
・家族医療の教育や実践において人文学を取り入れる方法は多岐にわたる。文学、演劇、詩、オペラ、映画、音楽などは、人生の困難に直面したときの個人の価値観について考える契機となる。とりわけ「物語(stories)」や「個人の語り(personal narratives)」は、感情に富んだ議論や倫理的思考を促す出発点となる。芸術――そのすべての感覚的表現――は感情と想像力を刺激し、それが省察と対話を通じて、共感力を高め、認知と感情の両側面を統合する治療的思考を育てる。
・家族医療は、患者一人ひとりの「唯一性」を重視する技である。それは疾患の理解にとどまらず、「病がその人にどのように経験されているか」を理解する営みである。そのためには、人間主義的な視点と、従来の生物医学的・疾病中心の視点の統合が求められる。人文学を取り入れることで、家族医は「人間中心の医療(person-centred medicine)」を実践できるようになる。それは科学と芸術が融合した、洗練された全人的ケアの技法である(図4参照)。
― 参考文献 ―
・Gordon J. Medical humanities: to cure sometimes, to relieve often, to comfort always. Med J Aust 2005;182:5–8.
・Kumagai AK. Perspective: acts of interpretation: a philosophical approach to using creative arts in medical education. Acad Med 2012;87:1138–44.
・Shapiro J. Perspective: Does medical education promote professional alexithymia? A call for attending to the emotions of patients and self in medical training. Acad Med 2011;86:326–32.
苦しみ(suffering)とは何か/ comprehensive clinical model of suffering
・「医療とは、他の多くのこと以上に“愛”に関わる営みである。医療は医師と患者の関係性に基づいており、そこでは医師が患者の苦しみを和らげようと尽力する」――Donald Berwick(米国の小児科医・医療コンサルタント)
・患者が「全人的存在としての自らの一体性(integrity)」が脅かされていると感じたとき、苦しみ(suffering)は生じる。
・身体・精神・霊性のいずれかが病に侵されるとき、医師はその苦しみに気づき、対処し、和らげる責任を負う。私たち医師は、患者の顔に浮かぶ苦しみを目にし、彼らの病いの経験を理解しようと努める。病気を理解し、人間を知り、健康を見つめ直す中で、私たちは苦しみを和らげる道を探る。
・苦しみは、疾患自体だけでなく、その治療によっても生じ得る。患者の語り、複数の専門分野の研究、看護師・ソーシャルワーカー・精神保健の専門家などのチームメンバーの洞察によって、その実態は浮かび上がってくる。家庭医は、患者の健康と病いの全体的風景を横断し、彼らの生活―仕事・家庭・地域社会―の文脈の中で苦しみを目撃する。そして、人生の時間軸を通してその苦しみを見守ることになる。
・こうした視点により、家庭医療は、苦しみの広がりと深さに立ち向かうための自然な基盤を提供する。生物心理社会モデル(biopsychosocial model)は、健康・病い・苦しみの地図であり、患者中心のケア(patient-centred care)は、各患者の個別的な苦しみに分け入るための羅針盤となる。
・こうした多面的視点を臨床実践へと翻訳するために、包括的な苦しみの臨床モデル(comprehensive clinical model of suffering)を提案された(最後の参考文献のFigure 6)。このモデルは、世代を超えた臨床経験、専門分野を超えた責任、学際的な統合的思考に基づいている。
・このモデルの核心は、「苦しみは喪失の脅威から生じる」という認識である。喪失、あるいはその恐れは、絶望や孤立へとつながる。医師はまず、患者の苦悩の兆候を見つけ、それを認識しなければならない。そのためには、観察し、見る力、聴き、聞く力が必要である。なぜなら、すべての患者は唯一無二であり、病いは複雑で、苦しみは個別的だからである。
・苦しみは、以下のいずれかまたは複数の領域に現れることがある:
- 苦痛な身体症状
- 機能喪失
- 社会的役割の脅威
- 人間関係の喪失
- 苦悩を伴う思考
- 強い情動
- 人生物語の混乱
- 精神的・哲学的信念との葛藤
・これら8つの苦しみの領域は、以下の4つの軸に分類され、診療・教育・研究に応用できる:
・生物医学的(biomedical)
・社会文化的(sociocultural)
・心理行動的(psychobehavioural)
・実存的(existential)
・この包括的モデルは、臨床上の問いを構造化する助けとなる。従来の「ROS(Review of Systems)」を超えて、「苦しみの見直し(Review of Suffering)」を可能にするのだ。目的は、患者の病気観を明らかにし、彼らの人生文脈の中でその経験を理解することである。患者の「一体性」が脅かされているありさまを理解することで、癒し(healing)がはじまる。
・医学の究極的な目的は「苦しみを和らげること」である。患者の苦しみを認識することで、私たちは希望を提供できる。たとえ治癒が不可能でも、症状のコントロール、苦悩の緩和、感情的支援といった形で、常に希望を示すことはできる。苦しみを理解することで、患者が人生に意味を見出し、受容し、一体性を取り戻す助けとなる。
― 参考文献 ―
・Cassel EJ. The nature of suffering and the goals of medicine. N Engl J Med 1982;306:639–45.
・Egnew TR. Suffering, meaning, and healing: challenges of contemporary medicine. Ann Fam Med 2009;7:170–5.
・Phillips WR, Uygur JM, Egnew TR. A comprehensive clinical model of suffering. J Am Board Fam Med 2023;36:344–55.
Sufferingの超越
・慢性、重度、あるいは終末期の病に伴う実存的懸念(Existential concerns)を認識し、それに対応することで、医師は患者が意味を見出し、苦しみを超越し、全人的な癒し(holistic healing)に至る手助けをすることができる。
・家族医は、出生から死に至るまで患者を包括的にケアする。多くの診療では、明確な苦しみが見られない場合もある。自然に治癒する病気や治療可能な疾患では、患者は健康という「人生の道」を歩み続ける。しかし、重度の慢性疾患や終末期疾患では、苦悩や障害が増し、患者の「自己一体性(integrity as a person)」が脅かされ、苦しみは深まる。
・病いとは、健康の領域から病の世界へと進む「個人的な旅」である。苦しみは、人が「自分はもはや、かつての自分ではない」と感じるときに生まれる。苦しみは、身体的変化だけでなく、心理的・社会的・職業的・霊的な側面への脅威からも生じる。そしてその意味づけのあり方が、苦しみの深さを決定づける。すなわち、苦しみとは「実存的挑戦」であり、それは「個人の語り(narrative)」や「自分自身が壊れていくという物語」によって理解される。
・医学の根本的目標は、「(可能ならば)治す」「常に慰める」「苦しみを和らげる」「癒す」ことである。従来の生物医学では、「癒し」は主に組織の修復や疾患の診断・治療・治癒として語られる。しかし、「病い」は単なる疾患ではなく、「理解」は単なる診断ではなく、「ケア」は単なる処置ではない。全人的な癒し(holistic healing)は、単なる病状の改善を超えたものである。
・ここでいう癒し(回復)とは、「苦しみの超越(transcendence of suffering)」という個人的な体験である。
・超越とは、患者が自身の変化した状況に意味を見出し、それを受け入れることである。たとえ治癒不能であっても、重大な障害があっても、死が迫っていても、意味と受容によって、苦しみを超えた癒しは可能である。
・もちろん、癒しは患者自身の中で起こるものである。しかし、医師はその道のりにおいて支援者となれる。医師は患者の苦しみに向き合い、その語りに注意深く耳を傾け、彼らが人生に意味と目的を再発見する手助けをすることができる。これは、医師自身が自らの不安を受け入れ、患者の苦悩を共に抱え、医学文化に根強い「介入衝動(interventional imperative)」を抑える勇気を必要とする。
・信頼される共感的な「目撃者(witness)」として、医師は苦しみや孤独を和らげ、希望を育む存在となれる。長期的かつ包括的な関係に基づき、患者の生活文脈を深く理解している家族医こそ、こうした癒しの支援を行うことができる。ナラティブ・メディスン(narrative medicine)のスキルを用いることで、医師は対話を導き、患者が自らの物語を再構築し、新たな意味を見出し、受容を深め、一体性を取り戻す手助けができる。
・家族医は、人生のあらゆる段階において、病いや喪失、危機や死と向き合う。その過程で患者は実存的な課題に直面し、医師自身もまた新たな挑戦を経験する。こうした包括的ケアの実践には、苦しみの認識、適切な対応、そして癒しへの貢献が求められる。
・このようなケアは、しばしば困難を伴う。しかし、重篤な病いを抱える患者と共に「壊れた物語」を編み直す営みは、医師にとって最も深い充実をもたらす仕事となる(最後の参考文献のFigure7)。
― 参考文献 ―
・Toombs SK. Healing and incurable illness. Humane Med 1995;11:98–103.
・Hsu C, Phillips WR, Sherman KJ, Hawkes R, Cherkin DC. Healing in primary care: vision shared by patients, physicians, nurses and clinical staff. Ann Fam Med 2008;6:307–14.
・Scott JG, et al. Understanding healing relationships in primary care. Ann Fam Med 2008;6:315–22.
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<参考文献>
・Ventres WB, Stone LA, Shapiro JF, Haq C, Leão JRB, Nease DE Jr, Grant L, Mercer SW, Gillies JCM, Blasco PG, De Benedetto MAC, Moreto G, Levites MR, DeVoe JE, Phillips WR, Uygur JM, Egnew TR, Stanley CS. Storylines of family medicine V: ways of thinking-honing the therapeutic self. Fam Med Community Health. 2024 Apr 12;12(Suppl 3):e002792. doi: 10.1136/fmch-2024-002792. PMID: 38609087; PMCID: PMC11029209.