家族志向のケアの5つのレベル

序論

・家族志向のケアには医師の関与の度合いに応じてレベルを5つに分けられ、「LPI: Levels of physician involvement」とも呼ばれる。

・それぞれの上位レベルではより複雑な心理社会的問題に対応するための、より高度なスキルが必要となる。

・各レベルは一つ前のレベルの内容に依存して存在する。レベル4~5は介入志向型のスキルが求められる。

・各レベルは面接が個人を中心とするか、家族のコンテクストを含むかによってさらに細分化される。

・重要なことは全ての診察において常に高いレベルでの関与が求められるわけではないという点である。関与のレベルは訴えの性質、医師-患者関係、患者が望む関与の深さ、医師のスキル、時間的制約などの複数の要因により変化する

レベル1; 医師中心の生物医学的モデル

レベル1a(個人中心); 医学的症状に限って話題を絞り、問題に関連する家族背景には触れない。

レベル1b(家族文脈); 家族歴、家庭内の喫煙者の有無、服薬をサポートしてくれる家族の存在など、医学的問題や治療に関連する家族要因について質問する。ただし、家族情報は医師の情報収集のために取得されるのみで、患者や家族とその内容を共有することはない。

・このレベルでは、面接は生物医学的な問題に限定され、医師の質問、診断、治療計画に焦点が当てられる。

・医師が患者の問題や治療計画に対する見解を積極的に求めることはない。患者が自発的に示した心理社会的な懸念や感情については、全く触れないか、最低限の反応しか示されない。

・家族が同席している場合でも、最低限の関与にとどまり、年齢や機能障害によって必要とされる場合を除いて、その参加は積極的には求められない。

・このレベルは例えば緊急的な受診時などの利用に適している。

レベル2; 協働的情報交換(相互に情報の交換を行う)

レベル2a(個人中心); 患者の意見や見解を中心に情報交換を行う。

レベル2b(家族文脈); 同席する家族の意見や期待を取り上げたり、家族の見解を個人面接の中で扱ったりする。

・このレベルでは、医師・患者・家族が情報交換の共同参加者となる。

・医師は患者(および必要に応じて家族)から問題や治療計画に対する意見・認識・期待を引き出し、また自身の理解も共有し、相互に納得できる治療方針を共に構築しようとする

・この段階では、患者や家族の感情的反応を引き出そうとはしない。治療決定においても、感情表出は考慮されない。

・LevensteinやKleinmanのような著者が強調する「患者の視点の理解」は、このレベルに該当する。また、「患者中心の面接(patient-centered interview)」を用いる医師は、患者の考えや期待を引き出すことでレベル2のスキルを実践しているといえる。

レベル3; 感情面への対応

レベル3a(個人中心); 患者自身の感情的問題や対人関係上の課題についての面接。

レベル3b(家族文脈); 同席している家族の感情的反応や、家族に関する感情的問題を扱う。

・このレベルでは、医師が患者および家族の感情的反応を同定し、それに対応する。

・疾患や生活上のストレスに対する感情に共感的に反応し、知的に分析したり、感情的距離をとったり、早まった安心感を与えたりすることなく対応する

・医師は、患者や家族に対して基本的な対処法や人間関係の改善に関する提案を行うこともあるが、これらは系統的なアセスメントや治療モデルに基づいたものではない。

・たとえばBATHE技法(背景 Background、感情 Affect、最も困っていること Trouble、対処法 Handling、共感的応答 Empathy)は、レベル2からレベル3への移行を促す技法であり、明確なレベル3の面接スキルといえる。

・また医師が患者の不安や恐れを表現させる場面も、レベル3に該当する。

レベル4; 基本的な心理社会的介入/カウンセリングを行う

レベル4a(個人中心); 患者個人に対して、健康に関連する心理社会的問題への対処方法をともに考える簡潔な面接。

レベル4b(家族文脈); 患者および(場合によっては)家族と面接し、患者や他の家族の健康に影響する家族内のパターンを変えるための協働的アプローチを行う。

・このレベルでは、医師は患者(および必要に応じて家族)と1回以上の面接を通じて、健康問題に関連した望ましい変化を促すための新たな方法を見つけ出そうとする

単なる助言や問題解決ではなく、より系統的なアプローチをとる

・しばしば、患者や家族の身体的健康に影響を及ぼしている心理社会的問題を明らかにするため、連続的な質問を行い、より広い理解を目指す。

・たとえばロジャーズ(Rogers)のクライエント中心カウンセリング家族システム論を応用した技法がこのレベルに該当する。

・Cohen-Coleによる「3つの機能モデル(情報収集、共感的関係構築、教育と動機づけ)」のうち、第3機能がレベル4・5に近い。

レベル5; 精神・家族療法(特別な教育・スーパービジョンを要する)

レベル5a(個人中心); 個人心理療法を定期的に行い、持続的・根深い対人関係や行動パターンを変容する

 レベル5b(家族文脈); 個人や夫婦、家族との面接を通じて、長期間にわたり存在し、変化に抵抗するような家族内の不健全なパターンに対処する。

・このレベルでは、医師は患者または家族と継続的なセッションを行い、個人または家族機能の改善を図る。

・セッションの目的は明確に「治療(therapy)」とされ、取り扱う問題は医療とは無関係なこともある。

・医師は、複雑な心理社会的問題を扱い、心理療法的関係の強度を管理する能力を持つ。

・このレベルの技能には、通常フェローシップ修了や継続的なスーパービジョンが必要である。

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<参考文献>

・Marvel MK, Schilling R, Doherty WJ, Baird MA. Levels of physician involvement with patients and their families. A model for teaching and research. J Fam Pract. 1994 Dec;39(6):535-44. PMID: 7798856.

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