動機づけ面接 MI: motivational interviewing

動機づけ面接の基本原則

・動機づけ面接(MI; motivational interviewing)はMillerとRollnickにより提唱された対人援助理論で、変化に対するその人自身の動機づけとコミットメント(約束)を強化するための協働的な会話技法を指す。

・MIの前提には問題行動(喫煙, 危険な飲酒, 不健康な食生活, 運動不足など)を有する人々のなかには行動変容に対する準備(readiness)が異なるということがある。

・JanisとMannによる「意思決定の葛藤理論(conflict-theory model of decision making)」によれば、健康行動を維持することによる利点(例: 健康寿命の改善, 体力向上など)は行動変容による不利点(例: 快楽の喪失など)と常に競合している

・問題行動を有する人々は本質的に動機が皆無ということでなく、むしろ”両価的(ambivalent)”な感情を有している。

・こうした両価性が認識されない限り、医師による善意からなる助言は「自由の侵害」として受け取られる。社会心理学における「心理的リアクタンス理論(reactance theory)」によれば、その結果、自己決定権を回復しようとする動機づけが高まり、治療の非遵守(non-compliance)へとつながる可能性が高まる。

・Millerらは「MIは個人中心的かつ目標志向型のコミュニケーションスタイルであり、変化に関する表現に焦点を当てる手法である。変化に対する個人の動機と約束(コミットメント)を高めることを目的として、受容と共感のある状況のなかで、変化の理由を患者個人から引き出し、強化する」と述べている。

・Edwardが提唱した「自己決定理論(SDT; self-determination theory)」に基づき、MIは人間の「自律性(autonomy)」、「有能感(competence)」、「関係性(relatedness)」の欲求に関係している。

・MIは主に以下の3つのレベルで構成される。

  1. 基本的精神(spiritまたはhuman image)
  2. 実施における原則と技法
  3. 実践上のプロセス

①動機づけ面接の精神(The spirit of MI)

・MIの根底にある精神(Spirit)は治療の成功に不可欠な”信頼関係(rapport)”を築くことにある。Millerらによるとこの精神は以下の4つの柱によって支えられている。

①対等な立場での協働(partnership):

・医療者と患者の間に、上から目線の関係ではなく、対等でパートナーシップに基づく協働関係を築くことが重要である。

・この際、医療者は「専門家としての上位の立場」ではなく、対話の相手として振る舞う。

・すなわち、“communication on equal terms”(対等な立場でのコミュニケーション)を実践する。

②受容と共感(acceptance and empathy):

・患者のニーズ、経験、視点に対して、基本的に受容的かつ共感的な態度をとる。

・これは、無条件の肯定(unconditional regard)に加えて、患者自身の自律的な選択や意思決定を尊重し、行動変容に向けた目標や方法の選択権を保障するという意味でもある。

③思いやり(compassion):

患者の人生経験や困難に対する真摯な配慮が求められる。

・医療者が自己の利益や目的を優先するのではなく、患者のニーズを第一に考え行動する姿勢が求められる。

④動機づけの喚起(evocation):

・患者自身の中にある「変化の理由」を探り、引き出し、強化すること。

・ここには、現在の問題行動と患者の目標・価値観とのあいだの“矛盾を拡大する(developing discrepancy)”ことも含まれる(例:「あなたはもっと運動したいと話していましたね。それは今の喫煙習慣とどのように関係していますか?」)。患者は両価性を有する状態にあり、”接近-回避型葛藤(例: 「働きたくないけど, 無職やバイトでお金が少ないのも嫌だ」)”に囚われている。動機づけ面接の目標はその矛盾を拡大することで、現状維持の惰性に打ち勝てるまで深化させることにある。

②動機づけ面接の技法(Techniques of MI)

・動機づけ面接(MI)では、基本原則に加え、以下の5つの介入技法(intervention elements)が体系化されており、患者の状況や治療段階に応じて使い分けることが推奨されている。

・最初の4つの技法は、他のカウンセリング理論(例:来談者中心療法)にも共通するが、5つの技法がMIを特に特徴づける要素である。

①開かれた質問(Open-ended questions):

・患者が自らの問題行動について自由に語れるよう促す質問形式。

・「お酒について何が気がかりですか?」のように、単純なYes/Noでは答えられない質問を用いる。

・良質なMIでは、質問の少なくとも70%が開かれた形式であるべきとされる。

②積極的傾聴(active listening):

・患者の語った内容を聞き返し・要約することで、関心や理解を示すと同時に、自己探索を深める契機を提供する。

・”聞き返し”には2種類あり、少なくとも50%は「複雑な聞き返し(complex reflections)」とすべきである。

・複雑な聞き返しとは、言語化されていない感情や含意を推測して返すことを指す(例:患者「咳はたぶんタバコのせいかな…」→医師「それが気になっているんですね」)。

・1つの質問に対して、少なくとも2つの聞き返しを組み合わせることが推奨される。

③肯定(affirmation):

・患者の努力や視点に対して肯定的なフィードバックを与えること

・「禁煙しようと思っているなんて素晴らしいですね」といった称賛、あるいは「副作用が心配になるお気持ち、よくわかります」といった共感も含まれる。

④要約(summarizing):

・患者が語った中で、動機づけに関係する重要なポイントを整理して伝え返す。

・例:「あなたは、何も我慢したくはないけれども、タバコにお金がかかることや咳が気になっていると話されましたね」。

⑤変化に向けた発言の強化(eliciting change talk):

・MIの中核技法であり、患者が自発的に行動変容を志向する発言(change talk; チェンジトーク)を促す。

・これは、現状維持を支持する発言(sustain talk;維持トーク:「10本のタバコくらい大したことないと思う」)とは対比される。

change talk (チェンジトーク)は、以下のように分類できる。

  a) DARN: Desire(願望), Ability(可能性), Reasons(理由), Need(必要性)

b) CAT: Commitment(約束), Activation(意思表明), Taking steps(具体的行動の開始)

・例:「この薬を飲めば、また働けるかもしれない」→「変化の必要性(Need)」や「行動への約束(Commitment)」として取り上げる。

・また、MIでは医療者の情報提供も適切に組み込むことが可能であり、その際には以下の三段階法(elicit–provide–elicit)が推奨される:

  ・「それについて、もう少し情報をお知りになりたいですか?」(elicit)

  ・「研究では、〇〇と報告されています」(provide)

  ・「それについてどう思われますか?」(elicit)

・このように、MIでは常に患者の自律性を尊重し、「情報を押しつける」のではなく、「一つの選択肢として提供する」姿勢が重視される

③動機づけ面接のプロセス(processes of motivational interviewing)

・動機づけ面接(MI)の面接プロセスは、大きく4つの段階(プロセス)に分けられる。これらは直線的な順序で進行するわけではなく、治療の進行に応じて循環的・反復的に用いられることがある。

①関係構築:

・この初期段階では、患者と医療者の間に信頼に基づいた治療的関係(therapeutic alliance)を築くことが中心となる。

・患者の価値観、目標、見解に対して判断を加えずに理解することが重要。

・特に、患者が自発的に来院したわけではなく、外部からの圧力によって面接に臨んでいる場合には、この段階の重要性が一層高まる。

②焦点設定(focusing):

・多くの患者は複数の問題を抱えており、それらの主観的な重要度は人によって異なる

・この段階では、患者にとって最も優先度が高いテーマ(例:喫煙、飲酒、運動不足など)に焦点を当て、以後の面接の中心を定める。

③目標志向の喚起(evoking):

・面接が「目標志向型」となり、行動変容への動機づけが焦点化される段階に相当する。

・このプロセスでは、患者が自ら変化の理由を語り始め、それを医療者が引き出し、強化する。

・患者自身が「変化の必要性を語ることで、変化に向けて自分を納得させる(talk oneself into change)」状態になることが理想的である。

④計画(planning):

・この段階は、最初の3プロセス(関係構築・焦点設定・喚起)の上に成り立つ、MIの最終段階である。

・患者が行動変容の意思を固めた場合には、その意図をより具体化し、近い将来に実行可能な計画へと落とし込む。

・例えば、変化の目標、目標達成の戦略、具体的な初期行動(first steps)などを共同で設定する。

・このように、MIは「変化の準備が整っていない段階の患者」にも対応可能な柔軟性を備えており、いきなり目標設定を求めるのではなく、まずは関係構築から始めることを重視している。

動機づけ面接の有効性

・動機づけ面接(MI)は、1980年代の開発以来、急速に研究が進み、現在では1300以上のランダム化比較試験(RCT)と150件近いレビューが、様々な行動や対象集団に対してその有効性を検討している。

・特に物質使用(substance use)に関する研究が多いが、近年では他の医療領域にも応用が広がっている。

・以下の2点に焦点を当てて記述する。

 <1. システマティックレビューとメタ解析によるエビデンス>

・PubMed、Cochrane、Web of Scienceを用いた系統的文献検索により、医療現場(primary care / medical care)におけるMIの効果を検討した9件のシステマティックレビュー(うち2件はメタアナリシス)が特定された。

・これらのメタ解析では、MIが様々な健康関連行動に対して「小〜中程度(small to moderate)」の効果量を示したと報告されている。

・オッズ比 OR = 1.55(95%CI: 1.40–1.71, p < 0.001)

・MI介入の長さは15分の単回面接から、計480分の長期介入まで様々だったが、多くは3回以内の短時間の介入であった。

 <2. Lundahlらの包括的メタ解析の結果(2013年)>

・48研究、9618名を対象としたメタアナリシスの結果によれば、以下の項目において統計的に有意な効果が確認された:

 ・物質使用の減少(アルコール、タバコ)

 ・身体的不活動の改善

 ・体重の減少

 ・死亡率の低下

 ・歯科衛生の改善

 ・自己モニタリング(例:血糖、栄養)

 ・治療受容や服薬遵守

 ・行動変容への準備性(readiness for change)

・一方、摂食障害や心拍数などの医学的パラメータには有意な改善効果は認められなかった。

・治療効果は、面接を「医師自身が実施した場合」の方が、「補助職(医療技術者等)が実施した場合」よりも高かったという結果も示された。

・加えて、13か月以上のフォローアップを含む5研究でも、MI群の効果は持続しており、対照群と比較して統計的に有意な差が残っていた(OR = 1.14, 95%CI: 1.03–1.28)。

動機づけ面接はどのような機序で有効なのか

・動機づけ面接(Motivational Interviewing, MI)の効果がなぜ得られるのか、その「作用機序(mechanisms of action)」については、いくつかの仮説が提案されており、以下の3つが主要な理論とされている。

 <1. 技法仮説(The technical hypothesis)>

・これは最も広範に研究されている仮説であり、MIの基本的技法(開かれた質問、積極的傾聴、肯定、要約)を通じて、患者自身の「変化志向の発言(change talk; チェンジトーク)」を選択的に強化することが、行動変容につながるというものである。

・この仮説は、他の2つと比較して、最も多くの経験的支持を得ています。

 <2. 関係性仮説(the relational hypothesis)>

・この仮説では、MIの効果は主に「治療関係の質」および「治療者の共感能力」によって媒介されるとされている。

・すなわち、患者が信頼関係の中で自己開示しやすくなることで、変化が起こるというものである。

・ただし、現時点での研究では、治療者間の共感能力の差異が十分に検出できていないため、効果を証明するには至っていない。

 <3. 葛藤解決仮説(the conflict resolution hypothesis)>

・この仮説は、患者が内的な葛藤(例:快楽と健康の両立)を探索・解決することが行動変容の鍵であるとするものである。

・ただし、こちらも研究によって結果にばらつきがあり、確固としたエビデンスには至っていない。

MagillおよびHallgren(2019)は、これら3仮説のいずれも「単独では十分条件とはならず、必要条件とみなすべきである」と結論づけている。すなわち、MIの有効性は、技法・関係性・葛藤解決の複合的な相互作用によって成り立っている可能性が高く、今後も多角的な検証が求められる。

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<参考文献>

・Bischof G, Bischof A, Rumpf HJ. Motivational Interviewing: An Evidence-Based Approach for Use in Medical Practice. Dtsch Arztebl Int. 2021 Feb 19;118(7):109-115. doi: 10.3238/arztebl.m2021.0014. PMID: 33835006; PMCID: PMC8200683.

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