食道アカラシア achalasia
食道アカラシアとその疫学/解剖・生理
・アカラシアは嚥下困難、胸痛、逆流症状などをきたす機能性疾患である。
・アカラシア(achalasia)はギリシア語のkhalasis(「弛緩しない」の意)に由来し、下部食道括約筋の弛緩障害に起因する病態を反映している。
・食道は18~26cm程度の長さがあり、粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層から構成され、漿膜を欠くのが特徴である。
・食道の神経支配は交感神経と副交感神経とによってなされ、Achの放出によって蠕動が頭側から尾側へと伝播していく。アカラシアではアウエルバッハ神経叢が侵されることで、食道下部の平滑筋の運動調節に支障を来し、発症すると考えられている。
・年間発症率は人口10万人あたり約1人と推定される。
・遺伝的要因も示唆されている。
・アカラシア患者では健常者よりも自己免疫疾患の併発率が高いという報告がある。自己免疫的機序の介在も示唆されている。
・強皮症でもアカラシアのように食道の機能性障害をきたすことがあり、鑑別を要する。
臨床症状
・アカラシア患者で特にみられやすい症状は嚥下困難、胸やけの2つである。このことは1984~2008年の食道内圧検査をうけた患者に関するレビューで明らかとなっている。
・そのほか胸痛、呑酸、咳嗽、嚥下時痛、心窩部痛などもときにみられる。
・嚥下困難については典型的には固形物と液体の両方に関して嚥下しにくさを自覚する。
・症状ごとの頻度としては、嚥下困難(約90%)、胸やけ(75%)、逆流症状または嘔吐(45%)、咳嗽(20~40%)、嗄声または咽頭痛(33%)、慢性経過の誤嚥(20~30%)、非心原性胸痛(20%)、心窩部痛(15%)、意図しない体重減少(10%)、嚥下時痛(5%未満)と報告されている。
・アカラシア患者では食物の食道からのクリアランスが低下するため、誤嚥を起こしやすく、呼吸器症状もときにみられる。
・高齢患者よりも若年患者では胸痛、胸やけの症状がよりみられやすい。
・肥満患者(BMI>30)では嚥下困難、嘔吐の症状がみられやすい。恐らく腹腔内圧上昇が関係していると考えられる。
診断
・まずは中咽頭などにおける器質因の除外が重要である。主に上部消化管内視鏡検査、CT撮像などの画像検査を行い、器質因による物理的狭窄がないかどうかを確認することが重要。
・固形物や液体に関する嚥下困難の症状がみられる患者では上部消化管内視鏡検査と食道粘膜生検を検討するべきである。肉眼所見で異常所見がなくても、生検で好酸球性食道炎などが証明されるケースもある。
・またアカラシア患者では食物のクリアランスが低下することに起因する食道カンジダを併発することがある。したがって、免疫不全がない患者で食道カンジダがみられた場合にはアカラシアの存在を疑うこととなる。
・アカラシアの診断には通常バリウム造影検査や食道内圧検査が実施される。バリウム造影検査では鳥のクチバシ様の所見(Bird’s beak appearance)がみられることがあり、また蠕動低下も確認されることがある。
治療
・アカラシアに根治的な治療法は現時点ではない。治療の目標は食道内容物の排出を可能にすることにある。
<内服治療>
・カルシウム拮抗薬(CCB)や硝酸薬の内服は軽度の有効性を示し、下部食道括約筋圧低下を47~64%程度改善させることが示唆されている。ときに頭痛、起立性低血圧、浮腫などの副作用をみる。
・外科的治療の適応とならないケースではニフェジピンを食事30~45分前に内服するか、硝酸薬を食事15分前に内服することを検討可能で、短期的には有用かもしれない。
・CCBや硝酸薬に反応性がみられないケースではシルデナフィルなどのPDE-5阻害薬の使用も検討可能。しかし、アカラシアの治療に対する長期的な有効性を確かめたデータはほとんど存在しない。
<バルーン拡張術>
・内視鏡を用いたバルーン拡張術も治療法に挙げられる。
・RCTで報告された有効性は62~90%であった。
・バルーン拡張術を初期治療として選択した患者を対象にした研究では長期にわたって症状のマネジメントに有効であったと報告されている。ただし、患者の約1/3は4~6年程度で再発し、再び拡張術を必要とする可能性が指摘されている。
<経口内視鏡的筋層切開術(POEM)>
・内視鏡的な治療法の一つで、2016年に本邦で保険収載されている。
・詳細は割愛する。
<外科手術(Heller-Dor手術)>
・開業手術よりも合併症が少なく、長期成績も同等であるため、腹腔鏡手術が望ましい。
・詳細は割愛する。
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<参考文献>
・Pandolfino JE, Gawron AJ. Achalasia: a systematic review. JAMA. 2015 May 12;313(18):1841-52. doi: 10.1001/jama.2015.2996. PMID: 25965233.