入院患者の高血糖に関するマネジメント management of hyperglycemia in hospitalized patients

はじめに

・糖尿病患者の入院は合併症の増加、入院期間の延長、死亡率上昇と関連している。

・さらに退院後の再入院リスクも高く、糖尿病のない患者と比較して約2倍とされ、30日以内の再入院率は約20%、1年以内で約30%に達する。

・もちろん糖尿病の既往の有無を問わず、入院中の高血糖は転帰不良の予測因子として知られる。市中肺炎やCOVID-19などの感染症で入院した患者においては血糖コントロール不良がICU入室や死亡リスク上昇と関連している。

・外科手術を受けた患者においては血糖コントロール不良が創傷治癒不良、感染症、入院期間延長、死亡率上昇と関連する。

診断

・非重症患者(non-critically ill patients)においては血糖値が140mg/dLを超える場合に高血糖と定義され、入院患者の約25%で認められる。

ストレス高血糖(stress hyperglycemia)とは糖尿病の既往のない患者における高血糖を指す。

・高血糖が認められたケースで、直近3ヶ月以内にHbA1cが測定されていない患者ではHbA1cを測定することが推奨されている。また、食事摂取をしている患者では食前、就寝前の血糖測定を、絶食中や経腸栄養を受けている患者では4~6時間おきの血糖測定が推奨される。

・低血糖は血糖値が70mg/dL未満とされる。

血糖管理

・米国糖尿病学会(ADA)は非重症患者において、以下のような治療目標を推奨している。

  1. 空腹時or食前血糖値: 100~140mg/dL
  2. 随時血糖値: 140~180mg/dL

・この範囲に収めることで重篤な低血糖を回避しつつ、高血糖による有害事象も回避できる。

・重症患者(critically patients)ではインスリン注射を用いながら、140~180mg/dLの範囲内で維持することが推奨される。

・また高齢患者、認知機能低下を有する患者、慢性腎臓病や肝障害などで薬物クリアランスが低下している患者ではより緩やかな目標範囲を設定することが望ましい場合もある。

初期インスリン量の決定の仕方

 <①体重を用いた換算法>

  ・低血糖のハイリスク群(70歳以上/CKD/食事摂取不良など): 0.2~0.3U/kg/日

  ・インスリン抵抗性が高い患者群(BMI>30/ステロイド使用/術後/感染症): 0.5U/kg/日

  ・通常のケース: 0.4U/kg/日

 <②インスリンユーザー>

 ・1日合計のインスリン使用単位を合算し, 75%相当量を1日量とする

 <③スライディングスケールを利用した換算法>

  ・24時間以内のスケールで使用したインスリン単位量を1日量とする

 ※上記①-③のいずれにおいても初期投与量の1/2をBasalに、1/6ずつを毎食直前に接種

治療

・入院中の高血糖管理については強化インスリン療法(BBT; basal bolus therapy)を実施することが標準的である。

・様々な種類があるが、例えばBasalとしては長時間作用型インスリンのグラルギン(ランタス注®)を、Bolusとしては食前10~15分以内に利用する速効型インスリンのリスプロ(ヒューマログ®)、アスパルト(ノボラピッド®)を使用する。超速効型インスリンではリスプロ(ルムジェブ®)、アスパルト(フィアスプ)などが存在し、食事の直前あるいは食事開始後20分以内に注射することができる。

・経口血糖降下薬は入院時に中止されることが原則である。例えばメトホルミンでは腎障害や造影検査により乳酸アシドーシスが顕在化する恐れがあったり、SU薬では低血糖リスクが高まったりするためである。DPP-4阻害薬は副作用が少なく、軽度の高血糖であれば使用継続が考慮されることもある。

スライディングスケール法(SS)を補正用インスリン(correctional insulin)と呼ぶこともある。スライディングスケール法は基本的に単独での使用が推奨されず、それは血糖変動の安定化につながりにくいためである。

 <インスリン投与が望ましい患者>

 ・全ての1型糖尿病患者

 ・食事摂取している2型糖尿病患者(入院時に経口血糖降下薬を中止しインスリン導入が望ましい)

 ・ストレス高血糖のある患者で, かつ高血糖が持続する場合

 ・手術や集中治療などで経口摂取が困難な患者

 ・糖毒性を伴う重度高血糖(例: 血糖>300mg/dL)やケトーシスやDKAの恐れがある状況

 <非経口摂取時の対応>

 ・非経口摂取の患者では基礎インスリン(Basal)±補正インスリン(SS)による管理が推奨される。

 ・ボーラスインスリン(Bolus)は中止する。

 ・絶食中でも基礎インスリンは通常量の30~50%程度に減量して継続する。

低血糖の予防とマネジメント

・入院患者の最大10%程度で、少なくとも1回の低血糖エピソードを経験するという報告がある。

・低血糖に対する治療介入は別の記事にまとめてあるため、ここでは割愛する。

 <低血糖のリスク因子>

 ・高齢

 ・腎機能障害(CKD) 

 ・肝機能障害

 ・経口摂取量の変動や不良(食事の摂取不良, 非経口摂取の変更など)

 ・過剰なインスリン投与や経口薬(特にSU薬)の持続投与

 <低血糖の予防策>

 ・血糖記録と食事摂取状況の確認(例: 患者が食事を摂れなかったのにボーラスインスリンを投与してしまうなどといったことの防止)

 ・インスリン投与量の個別調整(腎機能や肝機能を加味して検討)

 ・食前血糖値の確認後にインスリンを投与する(タイミングの最適化)

 ・非経口摂取の指示が出た際の迅速なインスリン投与調整

退院後の管理とフォローアップ

・退院前に教育的介入(インスリン注射の自己管理, 低血糖への対応など)を行うことが、退院後の血糖コントロール維持や再入院予防につながる。

・退院時に薬剤選択にあたっては、シンプルで安全性が高いレジメンが推奨される。

 例) 基礎インスリン(basal)単独、または経口血糖降下薬との併用

・GLP1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の導入はケースによっては有効であるが、腎機能や年齢、ADLなども考慮して検討する。

・退院後の血糖管理方針の決定は以下の要素を考慮して個別化して決定するべきである。

  1. 糖尿病の既往濃霧(診断された糖尿病か, ストレス高血糖か)
  2. 入院中の血糖コントロールの状態
  3. HbA1c値
  4. 認知機能, セルフケア能力, サポート体制
  5. 退院後の通院可能性, 地域リソースへのアクセス

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<参考文献>

・Gianchandani R, Wei M, Demidowich A. Management of Hyperglycemia in Hospitalized Patients. Ann Intern Med. 2024 Dec;177(12):ITC177-ITC192. doi: 10.7326/ANNALS-24-02754. Epub 2024 Dec 10. PMID: 39652876.

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