臨床における教育-5 microskills-

5マイクロスキル(5 step “microskills” model)

・5マイクロスキル(5 step “microskills” model)は1992年にNeherらによって開発され、教育現場において効率的かつ効果的な指導を行うために用いられる実践的な枠組みである。

・主に診療の合間に短期間で実施可能な教育方略として設計されている。

・このアプローチはおもに以下のような5ステップで構成される。

  1. Get a commitment(学習者にコメットメント(判断)を求める)
  2. Probe for supporting evidence(判断の根拠を明確にするよう求める)
  3. Teach general rules(一般原則を伝える)
  4. Reinforce what was done well(良かった点を強調する)
  5. Correct mistakes(改善が必要な点を指摘する)

マイクロスキル1; Get a commitment(判断を引き出す)

学習者に「あなたならどうするか」と問い、臨床的判断を促すことは、教育的に非常に価値がある。この問いは、学習者が情報を単に”報告”する段階から、臨床推論を展開する段階へと進むきっかけになる。

・たとえば、「この患者に次に必要なのは何だと思いますか?」「診断は何だと考えますか?」「どのようにマネジメントしたいですか?」といった質問が有効である。

・この問いかけによって、学習者は自らの知識と経験を総動員して問題に取り組むことになる。判断を下すという行為そのものが、学習者の責任感を高め、積極的な思考を促す

・また、教育者にとっては、学習者の現在の思考レベルや理解度を把握する機会となる。学習者が自分なりの判断を表明することで、指導者はその思考過程を評価し、次の教育的介入を適切に選択できる。

・注意点として、学習者が答えを間違えることを恐れて黙ってしまう場合がある。その際は、「完璧でなくていいので、自分の考えを聞かせてください」と安心させるような言葉かけが重要である。

マイクロスキル2; Probe for supporting evidence(根拠を尋ねる)

・学習者が判断を示した後、その判断に至った理由を尋ねることで、彼らの臨床推論の質を深く理解することができる。これは、表面的な知識だけでなく、思考の構造や意思決定プロセスに焦点を当てた教育的ステップである。

・質問例としては、「その診断に至った理由は何ですか?」「なぜその治療を選んだのですか?」「その検査を選んだのはなぜですか?」といった具体的な問いが有効である。

・このマイクロスキルの目的は、学習者の思考過程を言語化させることにより、理解の程度や誤解の有無を評価することにある。

・教育者にとって、表面的な「正解・不正解」ではなく、「なぜその答えに至ったのか」を探ることが重要であり、学習者がどこまで論理的に考えられているか、知識の適用が適切かを判断する材料となる。

・このプロセスはまた、学習者自身にとっても内省(リフレクション)の機会となり、自らの臨床的思考を見直す手助けとなる。

・仮に誤った判断であっても、その背景にある思考が理解可能であれば、そこに対して建設的なフィードバックが行える。

マイクロスキル3; Teach general rules(一般原則を伝える)

・学習者が提示した判断やその根拠に基づいて、教育者は個別事例を超えた「一般化可能な原則(general rules)」を教えることができる。これは、臨床現場で得られた経験を、より広い臨床状況に応用できる知識へと昇華させるための重要なステップである。

・たとえば、学習者が尿路感染症に対して適切な抗菌薬を選択した場面で、「無症候性細菌尿であれば治療対象としないのが原則です」といった形で原則を伝える。

・このように、学習者の具体的な判断を出発点として、より普遍的な医学知識へと導くことにより、単なる「ケースごとの対応」から「応用可能な原則」に発展させることができる。

・「一般原則」は、記憶に残りやすく、他の症例でも繰り返し利用できるという点で、教育的な価値が高い。

・提示する内容は簡潔で具体的であるべきで、臨床判断を助ける道標(heuristics)となるような短いフレーズで構わない。

・このスキルは、学習者が将来似たような状況に遭遇した際の判断力を高めると同時に、知識の整理にも寄与する。

マイクロスキル4; Reinforce what was done well(うまくできた点を強調する)

・学習者に対して、良かった点を明確に言語化して伝えることは、モチベーションの維持や今後の行動の強化につながる。効果的なフィードバックは、単なる称賛ではなく、「何が良かったのか」「なぜそれがよかったのか」を具体的に伝えることが求められる。

・例:「あなたが患者に対してアイコンタクトをとりながら説明していたのは、とても効果的でした。患者さんが安心して話せる雰囲気が生まれていました。」

・このように、行動とその結果をセットでフィードバックすることで、学習者はその行動を再現可能なスキルとして認識できる

・教育者が「よかった点」を明示的に取り上げることによって、学習者の自己効力感(self-efficacy)を高める効果もある。

・特に、学習者が自信を持てない領域や、新しく挑戦した技術については、肯定的フィードバックを意識的に取り入れることが重要である。

・漠然と「よかったよ」と言うのではなく、具体的な観察と評価に基づいたフィードバックを心がけることが、教育効果を高める鍵となる。

マイクロスキル5; Correct mistakes(誤りを修正する)

・学習者の誤った判断や行動に対して、教育者が適切に指摘し、修正を促すことは、臨床教育において極めて重要である。ただし、その伝え方には配慮が求められ、学習者の自己効力感を損なわないような形で行う必要がある

・誤りの指摘においては、「あなたは間違っている」と断定するよりも、「他の見方もあるかもしれませんね」「この点、どう考えましたか?」といった対話的なアプローチが有効である。

・修正すべき点がある場合は、それをできる限り具体的に、かつ行動レベルで伝えることが大切である。

 例:「患者の話を最後まで聞かずに中断してしまったように見えました。今後は、まず相手の話をすべて聞いてから反応するようにしてみましょう。」

・誤りの原因が知識不足にある場合は、適切な情報提供を通じて補完し、判断ミスであれば思考過程を再構築できるよう導く。

・教育者は、誤りを「成長の機会」として捉えられるような雰囲気をつくることが求められる。批判的な態度ではなく、支援的な姿勢が学習者の受容を促進する。

・また、指摘した後に「次はどうしていけばいいと思いますか?」と問いかけることで、自己修正能力(self-correction)を育てることができる。

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<参考文献>

・Neher JO, Gordon KC, Meyer B, Stevens N. A five-step "microskills" model of clinical teaching. J Am Board Fam Pract. 1992 Jul-Aug;5(4):419-24. PMID: 1496899.

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