てんかん Epilepsy

疫学

・てんかん(Epilepsy)とは”1回以上の誘因のない発作(unprovoked seizure)を経験し、将来的な再発リスクが高い状態”と定義される神経疾患でさる。

・てんかん発作の生涯発症リスクは約10%である。一般人口の1~2%が罹患している。

・国際抗てんかん連盟(ILAE)は2014年に実践的なDefinitionを採用し、以下のいずれかに該当する場合に”てんかん”としている。

  1. 24時間以上の間隔をあけ、少なくとも2回の誘因のない発作が生じる
  2. 誘因のない発作が1回みられ、今後10年間に再発率が60%以上と見込まれる(例: 1回の誘因のない発作がみられ、かつ脳画像検査や脳波検査で異常所見が存在する場合には再発リスクは増加)
  3. 特定のてんかん症候群の診断がなされていること

発作の分類

・発作(seizure)はまず発症部位によりFocal(焦点性)とGeneralized(全般性)に分類される。

・Focal onset seizures(焦点性発作)では運動症状(体や顔面の片側の制御不能な痙攣やピクつきなど)、非運動症状(怒りなどの感情障害, 言語理解不能など)がみられることがある。

・Generalized onset seizures(全般性発作)では強直間代発作、強直発作、間代発作、ミオクローヌス発作などがあり、原則として意識減損を伴う。

・分類不能なもの(Unknown onset)も存在する。

原因とリスク因子

代謝異常(例: 低血糖, 電解質異常)、脳の構造的異常、中毒性(例: アルコールは発作閾値を低下させる)、睡眠不足、感情的ストレス、光刺激などで発症しやすくなる。また、先天的or後天的な中枢神経系の異常も原因となりやすい。

・後天的な原因として脳炎、髄膜炎、HIV感染症、風疹、TORCH症候群なども挙げられる。

・上記の原因やリスク因子が知られているが、てんかん患者の約1/3~1/2では原因が特定されない可能性があり、ときに予後予測を困難にする。

初発の誘因のない発作を経験した患者の再発リスク

・初発発作後の再発リスクは21~45%とされ、2回の誘因のない発作後の再発リスクは73%と報告されている。

脳損傷が背景にある初発発作(例: 脳卒中, 外傷)では再発リスクは2回の発作を経験した患者と同等とされている。

・再発リスク増加のリスク因子:睡眠中の発作, 異常な脳波所見の存在, 脳画像検査での異常所見。

・初回発作後、速やかに治療を開始することでその後の2年間の再発リスクは低下することが示唆されている。しかし、初回発作後に治療を開始する群と、2回目の発作が生じるまで治療を待つ群とでは3年後時点での発作寛解率において差がないことが知られている。

・しかし、てんかん患者の予後を強く予測する因子として、最初の抗てんかん発作薬(ASM: Anti-seizure medication)に対する良好な反応というものが挙げられている。

合併症/長期予後

・てんかん患者では一般集団に比して約2倍の早期死亡リスクがあることが知られる。原因として発作による外傷、水死(特に難治性てんかん)、Sudden unexpected death in epilepsy(SUDEP)が挙げられる。

・特に溺水は一般集団の約10倍のリスクとされている。

・SUDEPは毎年、成人てんかん患者1,000人に約1.4人の割合で生じる。関連するリスク因子としては強直間代発作の頻度、夜間の発作、独居、ASMのコンプライアンス不良などが挙げられる。

・ただし、若年性ミオクローヌスてんかんなど、特定の病型では長期予後が良好とされる。

病歴と身体所見

・診断において、まずはそのエピソードが真に発作であったかどうかの確認が重要である。もしも真の発作らしい場合は再発リスクの見積もりも重要である。

・特に患者本人のみならず、その目撃者からの病歴聴取が不可欠となる。

・発作の症状は多様で、感覚異常(しびれ, 疼痛)、運動異常(痙攣, 不随意運動)、情動変化(恐怖, 笑い)、意識変容などが知られる。

舌咬傷(特に舌側面)、失禁、流涎、自動症なども有用な所見である。

・意識回復後も完全に意識が改善するまで数日から数時間かかることもある(Postictal state)

・欠神発作(absence seizures)では運動症状がほぼなく、凝視や瞬目を繰り返すことがある。

・病歴では特に以下の点を重視する。

 ・発作前の前兆の(aura)の有無と内容(→Focal onset seizureの可能性を考慮)

 ・発作中の身体所見(動きの種類, 部位, 意識状態など)

 ・既往歴(過去の発作歴, 頭部外傷歴など)

 ・家族歴(てんかんをはじめとした神経疾患)

 ・他疾患との鑑別に有用な情報(失禁, 舌咬傷, 失神, Postictal stateなど)

発作のmimicker

・てんかん発作に類似した病像をときに呈する疾患として以下のようなものが知られる。

  1. 脳血流低下による痙攣/Convulsive syncope(例: 心原性失神, QT延長症候群)
  2. 一過性脳虚血発作(TIA)
  3. 睡眠関連運動障害(例: 夢中遊行, Restless legs syndrome)
  4. 片頭痛(特に前兆や混乱状態を伴うもの)
  5. 心因性非てんかん性発作/PNES、パニック障害
  6. めまい症(vertigo)

・特にPNESは様々な不安、抑うつ症状などが発症に関連することがある。また、PNESと診断された患者の8~60%でてんかんを合併することも知られている。したがって、脳波検査による精査はPNES患者において推奨される。

初回発作時/再発時における臨床検査

・初回発作時の検査項目例:

 ・血液検査(Na, Ca, Mgなどの電解質/血糖/肝腎機能/薬物血中濃度/NH3など)

 ・感染症併存の可能性についての評価(例: 尿検査, 胸部X線撮影)

 ・必要に応じて腰椎穿刺

 ・画像検査(可能であれば頭部MRI撮像も実施)

 ・脳波検査(EEG)

 ・リスク因子があればHIV関連検査

※血中プロラクチン(PRL)上昇はてんかんの可能性を示唆するが、失神と区別することはできない。ルーチンでの測定は推奨されていない。

脳波検査の適応と種類

・脳波検査(EEG)はてんかん発作が疑われる全例で実施することが望ましい。以下の3種類が存在する。

  • 定型脳波検査(rEEG):短時間(数十分)の記録で、感度は30~50%程度と報告。
  • 外来持続脳波検査(aEEG):数日間の記録で、感度はrEEGより26ポイント程度上昇。
  • 入院下持続脳波検査(cEEG):最も確定診断に有用。必要に応じてASM中止も検討可能。

マネジメント(総論と初期評価)

・初回発作またはてんかんと診断されることは多くの患者にとってストレスフルな経験となる。

・そのため感情は心理的ストレスに配慮しつつ、カウンセリングと情報提供を行うことが重要である。その場合には

  • 安全対策(例: 転倒, 溺水予防)
  • 運転制限と代替手段の検討
  • 精神的支援

も重要となる。

・初回発作時には再発リスクの見積もりも重要である。全例においてASMの開始が必須ではない。

非薬物療法/行動変容

・発作の誘因となるリスク因子を除去することは重要である。

・具体的には以下の回避を検討する。

 ・睡眠不足

 ・精神的ストレス

 ・アルコール, 薬物使用

 ・光刺激(例: ゲーム)

・ケトン食は特に小児患者や薬剤抵抗性てんかんに対して、一定の効果が知られている。しかし、研究データは限定的で、発作減少につながる機序も不明確である。

ASMの開始時期

・初回発作後の即時的な治療介入は再発リスクを減少させる可能性はある。しかし、長期的な寛解率(3年後)には有意差がないことが知られている。

・薬物治療の適応は「誘因のない発作(unprovoked seizures)を繰り返すこと」または「再発リスクが高い初回発作」とされる。再発リスクは主に脳損傷や脳卒中の既往、脳波および脳画像検査の異常などによって総合的に検討される。

薬物選択と治療戦略

・最も重要な予後予測因子は「1剤目のASMへの良好な治療反応性」である。しかし、患者の約1/3では1剤目または2剤目により病勢をコントロールできない。

・薬剤選択においては以下の点を考慮する。

 ・発作の病型

 ・副作用プロファイル(例: 皮疹, 眠気, 精神症状など)

 ・薬物相互作用(特に多剤服薬状態にあるケースなど)

 ・女性では催奇形性のリスク(ラモトリギン, レベチラセタムは比較的安全とされる)

・2018年の米国神経学会(AAN)によるガイドラインでは新規発症の成人の焦点性発作(Focal onset seizures)に関しては

 ・ラモトリギン(推奨度B)

 ・レベチラセタム, ゾニサミド(推奨度C) とされた。

・なお、レベチラセタムは薬物相互作用も少なく、救急部ではじめに投与されやすい薬剤である。

・ASM同士の直接比較試験はほとんど行われていない。また、ほとんどのASMに関する臨床試験は焦点性発作(Focal onset seizures)に対する効果が検証されていて、これは焦点性発作が臨床で最も遭遇する病型ゆえである。

服薬アドヒアランス/モニタリング

・ASMは定期的な服薬が重要である。

・アドヒアランス向上のためにも1日1回内服の製剤が望ましい。

・全てのASMは血液脳関門(BBB)を通過し、ときにふらつき、眠気、複視などの副作用を生じさせる。必要に応じて用量や服薬タイミングを調整することとなる。

・薬物血中濃度は参考所見であり、あくまで臨床症状との兼ね合いで用量を検討するべきである。

・非専門医ではレベチラセタムが使用されやすいが、副作用のなかに精神症状(易刺激性, 不眠, 抑うつなど)が含まれることに留意する。

・ラモトリギンにはSjSの報告例があり、そのほか心臓伝導障害の副作用なども知られている。

デバイス治療

・てんかん発作の治療に関するデバイス治療としては以下の2つが知られる。

  • 迷走神経刺激(VNS):

 ・部分発作(特に両側強直間代発作)に対する補助療法として使用。

 ・前胸壁皮下に埋め込んだ電極から左迷走神経に定期的な刺激を送る。

 ・外部の携帯型磁石で任意のタイミングで刺激を送られる。

 ・副作用:嗄声、呼吸困難、疼痛など

  • 反応性神経刺激装置(RNS)

・頭蓋骨内に埋め込む装置で、発作波形を検出して刺激を送る。

・感染症などの合併症も知られる。

外科的治療

・内科的治療に抵抗性のある患者(Refractory epilepsy)では病巣の外科的切除術も検討される。

・発作が明らかに単一の焦点から発されている場合に有効とされる。

専門医への紹介タイミング

・初回発作で再発リスクが不明確な場合

・2剤使用してもコントロールが不良な場合

・デバイス治療などを検討する場合

・妊婦、挙児希望の女性、併存疾患がある場合

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<参考文献>

・Krishnamurthy KB. Epilepsy. Ann Intern Med. 2025 Apr 8. doi: 10.7326/ANNALS-25-00494. Epub ahead of print. PMID: 40194289.

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