高齢の入院患者のせん妄 Delirium

せん妄の疫学/基本的事項

・せん妄(delirium)は2,000年以上前から文献に記載されていることが確認されている。

・急性錯乱状態と捉えられ、急性心不全と同様に複合的要因により発症する。

・入院中の高齢者でみられやすく、70歳以上の一般内科入院患者のうち約1/3でせん妄を発症し、そのうち半数が入院時にみられ、残りの半数は入院経過のなかで発症するといわれている。

・救急外来を受診する高齢者の約10~15%でせん妄がみられるという報告がある。

・緩和ケアの現場では終末期せん妄の発症率は85%とされる。

過活動型せん妄は全体の約25%に過ぎず、多くは低活動型せん妄であり、認識されづらい。低活動型せん妄は予後不良とされるが、これは認識される頻度が低いためかもしれない。

・発症のリスク因子として、準備因子、直接因子、促進因子の3つに区別される。準備因子はせん妄になりやすい素因を指し、直接因子はせん妄を惹起する直接的な要因、促進因子はせん妄を増悪または遷延させる要因をそれぞれ指す。

・準備因子としては高齢、認知機能傷害、重篤な身体疾患、せん妄の既往、アルコール多飲などが挙げられる。

・直接因子としては身体疾患、薬剤(抗コリン作用などをはじめとした副作用や離脱症候群)、手術などが挙げられる。

・促進因子としては身体的要因(例: 便秘, 疼痛, 脱水, 視聴力低下)、精神的要因(例: 不安, 抑うつ)、環境変化(例: モニター音)、睡眠(例: 不眠)などが挙げられる。

・誘引としては特に薬剤(特に鎮静薬, 睡眠薬, 抗コリン薬)、手術、麻酔、強い疼痛、貧血、感染症、急性疾患、慢性疾患の急性増悪が多い。

・せん妄は死亡率上昇、入院期間延長などにつながることが示されている。平均22.7ヶ月追跡された約3,000人の患者を含むメタ解析によると、せん妄の発症は死亡(OR 2.0(95%CI: 1.5-2.5))、施設入所(OR 2.4(1.8-3.3))、認知症(OR 12.5(11.9-84.2))のリスク増加と独立して関連していることが示された。

診断

・せん妄は全体の12~35%しか認知されていないことが示唆されている。

・システマティックレビューではCAM(Confusion assessment method)がベッドサイドにおいて最も有用な評価ツールとして支持された。

・CAMアルゴリズムでは4つの特徴(①変動する精神状態 ②注意障害 ③思考の混乱 ④意識障害)により、せん妄の診断を確定する。なお、IUCで使用するスケールとしてCAM-ICUがあり、そのほかにも救急部門の患者を対象としたbCAM、一般内科患者を対象とした3D-CAMも知られる。

・より短時間で実施できるスクリーニング法(数字の逆算, 曜日と月の逆算)などの注意力に関するテストは、より低リスクの患者の検出に適している。

・せん妄の鑑別診断として認知症、うつ病などを挙げるべきである。特に低活動型せん妄はうつ病に似た病像を呈することがある。

・特に急性経過(数分~数時間)での精神状態の変動、意識レベルの変動などがみられるとせん妄の可能性が高くなる。

アセスメント

・せん妄を診断した場合にはその背景に存在する可逆的な要因の検索と対処を行うべきである。

・可逆的な原因としては「DELIRIUM」というネモニクスが知られる。Drug(薬剤性)、Eyes/Ears(視覚/聴覚障害)、Low O2 state(低酸素血症)、Infection(感染症)、Retention/Restraints(尿失禁・便失禁/身体拘束)、Underhydration/Undernutrition(脱水/低栄養)、Metabolic(代謝性障害)の頭文字で構成される。

・病歴聴取では精神状態の変化がいつから生じていたのか、他の症状(例: 咳嗽, 発熱)の有無などを確認する。そのほかせん妄をきたした全ての患者において、アルコール摂取歴、内服薬の評価を行うべきである。身体診察では感染を示唆する所見がないか、脳卒中を示唆するような神経学的脱落所見がないかどうかを確認する。

・臨床検査は病歴と身体所見に応じて検討するべきである。

マネジメント

・薬物治療の有益性に関するエビデンスは十分でないことから、まずは非薬物療法を原則とするべきである。

・医師だけでなく、看護師をはじめとした多職種による統合的なケアによりせん妄を予防できる場合がある。特定されたせん妄のリスク因子については可能な限り対処し、小さな介入を複数箇所で行うことで大きな効果が得られる場合がある。

・なかでも薬剤は最も一般的な修正可能な要因として挙げられるため、リスクとなる薬剤は中止したり、他剤に置換したりすることを検討する。

・環境要因の修正も重要である。病室において、日中は明るく、夜間は暗くて静かな環境を保てるようにする。また時計やカレンダー、メガネや補聴器などの着用を勧めることも有効である。そのほか家族の面会も勧め、オリエンテーションと安心感を与えるべきである。

・尿閉が存在している場合を除き、可能な限り膀胱留置カテーテルの使用は避ける。また、患者をベッド上での生活に限定させず、可能な範囲で椅子に座ってもらったり、歩行をしてもらったりすることが重要で、無気肺や筋力低下、褥瘡の予防にもつながる。

・自傷行為のリスクを軽減するために用いられる身体拘束は実際には傷害の増加と関連していることが示されている。身体拘束をやむなく使用する場合でも、必要がなくなったら即刻中止するべきである。

・苦痛を伴うような妄想などの症状や、患者や他者に危険を伴う場合には薬物治療を考慮する。ベンゾジアゼピン系薬剤はアルコール離脱症候群の予防を目的とする場合に使用を限定するべきである。それ以外のケースでは抗精神病薬の方が適している。

・せん妄の治療を目的とした抗精神病薬の有効性を評価した12件のRCTを対象としたメタ解析では、治療によりせん妄の期間や重症度、ICU滞在日数、入院期間、死亡率のいずれも改善させなかったと結論づけられた。したがって、抗精神病薬を使用するかどうかは興奮や幻覚などの症状をなるべく早く抑えることと、鎮静による合併症のリスクとを考量するべきである。

・ハロペリドールは鎮静作用が最も弱いが、錐体外路症状のリスクは高い。クエチアピンは鎮静作用が最も強く、錐体外路症状のリスクが低い。いずれの薬剤を選択するにしても初回投与量はまず少なめを選択するのが良い。目的が達成されるまで30~60分ごとに薬剤を追加投与することができる。

・せん妄が長期化している患者では定期投与が必要となることもある。ただし、身体拘束と同様に、不要になったら速やかに投与を中止するべきである。

予防

・1999年の研究では、病棟をベースとした多因子介入法であるHospital Elder Life Program(HELP)によって、70歳以上の入院患者のせん妄発生率が減少したと報告された。実践された介入としてはオリエンテーションを維持すること、睡眠衛生指導、離床促進、眼鏡や補聴器の使用、水分摂取励行などがあった。

・2015年のメタ解析では、せん妄に対するHELPのような多因子的非薬物学的介入の有効性が検討された。結果として合計14の室の高い介入研究(多くが無作為化試験)が同定され、せん妄の発症率の有意な減少が認められ(OR 0.47(0.38-0.58))、院内での転倒の大幅な減少も示された(OR 0.38(0.25-0.60))。

・せん妄予防を目的とした薬理学的アプローチの有益性は依然として不明である。

・ラメルテオン(ロゼレム®)の予防的投与は1つの小規模無作為化試験で有意な有効性が示された(介入群 3% vs 対照群 32%(P=0.003))。しかし、529人の患者を含む3つのTrialを含んだコクランレビューでラメルテオンの使用がプラセボ薬に比して、せん妄の発生率を減少させるという明確な根拠に乏しいと結論付けられた。

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<参考文献>

・Marcantonio ER. Delirium in Hospitalized Older Adults. N Engl J Med. 2017 Oct 12;377(15):1456-1466. doi: 10.1056/NEJMcp1605501. PMID: 29020579; PMCID: PMC5706782.

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