低カルシウム血症 hypocalcemia
低カルシウム血症の総論
・血清カルシウム値はPTH、ビタミンD、カルシトニンにより本来制御されている。
・総血清カルシウムの約半分はタンパク質と結合していて、残りの遊離イオン化カルシウム(Ca2+)が生理活性を有している。イオン化カルシウムは血液ガス分析で確認することができる。血液検査で確認する際にはAlbを利用して補正カルシウムを算出する必要がある。
・慢性低カルシウム血症はPTHまたはビタミンDの分泌量減少、あるいはこれらのホルモンに対する反応性不良によって生じることが最多頻度を占める。そのほか薬剤性に生じることがあり、主な原因薬剤としてはビスホスホネート製剤(BP製剤)、シスプラチン、抗てんかん薬、アミノグリコシド系抗菌薬、利尿薬、PPIなどが挙げられる。
・急性で症候性の低カルシウム血症にはときにカルシウム製剤の静注による治療が必要である。
・副甲状腺機能低下症の治療に伴う合併症には高カルシウム尿症、腎石灰化、腎機能障害、軟部組織石灰化などが挙げられる。
低カルシウム血症の原因
主な原因は以下のようなものが挙げられる。
・ビタミンD欠乏症orビタミンD抵抗性
・術後の副甲状腺機能低下症
・自己免疫疾患or遺伝的原因による続発性副甲状腺機能低下症
・ビタミンD欠乏症を惹起する腎疾患/末期肝疾患
・偽性副甲状腺機能低下症または偽性偽性副甲状腺機能低下症
・副甲状腺への転移性腫瘍
・重金属中毒(Cu、Fe)
・低マグネシウム血症or高マグネシウム血症
・リン酸塩の投与
・Critical illness
・薬剤性(BP製剤、シスプラチン、抗てんかん薬、アミノグリコシド系抗菌薬、利尿薬、PPIなど)
・ファンコニー症候群
・過去の副甲状腺への放射線照射
低カルシウム血症と生理学
<ビタミンD低値>
・1,25-(OH)2-ビタミンDは腸管でのカルシウム、リンの吸収能を高めることで骨リモデリングを促進する。
・ビタミンD欠乏症(25-OH-ビタミンD<75nmol/L)は小児および成人においてみられる。
・ビタミンD欠乏症では消化管でのカルシウム吸収率は最大50%低下し、食事から摂取したカルシウムの10~15%しか吸収されなくなる。
・ビタミンDの欠乏症は皮膚での合成低下(紫外線曝露不足, 皮膚の色素沈着, 加齢による皮膚菲薄化)によっても生じる。
・低カルシウム血症の患者では血清1,25-(OH)2-ビタミンD、血清25-OH-ビタミンDを測定するべきである。
<PTH低値>
・PTHの低下により、過剰な尿中カルシウム排泄、骨リモデリング低下、腸管カルシウム吸収能低下をきたす。
・稀に偽性副甲状腺機能低下症がみられる。偽性副甲状腺機能低下症とはPTHが正常に分泌されているにも関わらず、低カルシウム血症や高リン血症などをきたす疾患である。なお、偽性偽性副甲状腺機能低下症は遺伝性疾患で、偽性副甲状腺機能低下症と類似した病像を呈する疾患である。
・甲状腺全摘時には副甲状腺または副甲状腺への栄養血管が侵され、副甲状腺機能低下症をきたすことがある。甲状腺全摘術の0.5~6%で発症する。術後に低カルシウム血症が続き、PTHが低値~基準値内にある際に診断が確定する。
・多発性内分泌腫瘍(MEN)として自己免疫性副甲状腺機能低下症がみられることがある。
・遺伝子変異により近位尿細管におけるPTH抵抗性が生じ、腎からのカルシウム排泄亢進とそれに伴う低カルシウム血症をきたすことがある。
<その他の先天性疾患>
・Digeorge症候群はT細胞異常が関与する原発性免疫不全症であるが、副甲状腺機能低下症をきたす。患児は耳介低位、口唇口蓋裂、下顎などの身体的特徴を有する。
・Wilson病では副甲状腺への銅沈着を来し、副甲状腺機能低下症を発症し得る。
・マグネシウムの欠乏あるいは過剰はPTH分泌の障害をきたし、副甲状腺機能低下症となり得る。
・稀にヘモクロマトーシスなどでも副甲状腺機能低下症をきたす。
臨床症状/アセスメント
・急性低カルシウム血症はときに入院を要するような重篤な症状を惹起する。一方で、緩徐に低カルシウム血症を発症する患者では無症状であることも多い。
・低カルシウム血症の症状としては異常感覚、筋痙攣、けいれん発作、テタニー、口周囲のしびれなどが一般的である。また喉頭痙攣、精神症状(興奮など)、心電図でのQT延長などの原因にもなり得る。
・家族歴があれば遺伝性疾患が示唆される。また頭頚部の手術歴、放射線照射歴も参考になる。また成長障害、精神発達遅滞、顔貌、難聴などがみられれば鑑別に役立つことがある。
・身体診察では頸部の手術痕、Chvostek徴候、Trousseau徴候が参考になる。
・Chvostek徴候では耳介の2cmほど前方の頬を叩打し、上口唇がひくついた際に陽性ととる。
・Trousseau徴候は低カルシウム血症患者の94%で認められ、健常者の1~4%でしか認められない所見である。低カルシウム血症患者において、収縮期血圧以上の圧力で血圧測定用カフを3分間装着した場合に手関節やMCP関節が屈曲し、DIP関節とPIP関節が伸展する場合に陽性ととる。
<初期検査項目>
・血清カルシウム, アルブミン(補正Caを算出)
・無機リン
・マグネシウム
・その他の電解質(カリウムなど)
・Cre
・ALP
・i-PTH
・25-OH-ビタミンD
・血液pH
<状況に応じたさらなる検査>
・イオン化カルシウム(血液ガス分析)
・24時間尿中リン, カルシウム, マグネシウム, クレアチニン
・1,25-OH-ビタミンD
・腎結石を評価するための腹部超音波検査
・遺伝子検査
急性低カルシウム血症の治療
・血清カルシウム値<1.9mmol/L、イオン化カルシウム<1.0mmol/L、または有症状の場合にはカルシウムの静注投与を行う。
・静注ではグルコン酸カルシウム(カルチコール®)が使用される。なお、グルコン酸カルシウムや塩化カルシウムはクエン酸塩やリン酸塩、炭酸塩を含む製剤と混合させると沈殿を生じるため、避ける。またCTRXと同一経路から投与することで結晶化してしまうことがあるため、こちらも回避することが望ましい。
・投与例としては「カルチコール注射液8.5% 10~20mLを10mLあたり3~6分間かけて静注」が挙げられる。また5%ブドウ糖液に混注して点滴静注でもよい。
・マグネシウム欠乏やアルカレミアが存在する場合にはその補正も有効である。急性期にはPTH抵抗性が数日間続くため、マグネシウム補充によって血清PTHや血清カルシウムが上昇することはない。
・低カルシウム血症の急激な補正は不整脈を惹起する原因となることがある。特にジゴキシン服用患者ではカルシウム補充中の心電図モニタリングが必要である。
慢性低カルシウム血症の治療
・経口カルシウム製剤、経口ビタミンD製剤はときにマネジメントに不可欠である。
・炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム製剤はカルシウム含有量が多く、吸収されやすい。
・無症候性で心電図変化のみを伴うケースではカルシウム製剤によって正常化させられることが多い。
・高カルシウム尿症はビタミンD製剤による治療の合併症として知られ、特に副甲状腺機能低下症患者でみられやすい。これはPTH欠乏により尿中カルシウム排泄が亢進するためである。
・内服治療の用量を調節している際には血清カルシウム、リン、クレアチニンを毎週~毎月測定するべきで、用量が安定した後は3~6ヶ月に1回程度の血液検査でのフォローアップを検討する。
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・Fong J, Khan A. Hypocalcemia: updates in diagnosis and management for primary care. Can Fam Physician. 2012 Feb;58(2):158-62. PMID: 22439169; PMCID: PMC3279267.